独身の人が相続対策として養子縁組をするのは、昔から使われている方法の一つです。親から受け継いだ土地・建物の管理や、お墓の祭祀を任せる等が目的にあります。
相続対策としての養子縁組は、「大人と子ども」ではなく「大人と大人」の養子縁組がほとんどだと思います。ですので、子どものいない夫婦が養子縁組をするのとは、別ものと言えるでしょう。
今回の記事では、独身の養子縁組について説明しているので、養子縁組を検討されている人の参考になれば幸いです。
1.養子縁組は2種類ある
養子縁組は普通養子縁組と特別養子縁組の2種類あります。
ただし、独身者の相続対策として特別養子縁組を使うことはありません。特別養子縁組の要件を満たすことが出来ないからです。
相続対策として使うのは普通養子縁組の方です。
普通養子縁組とは、親子ではない2人が法律上の親子関係を創る方法のことです。
普通養子縁組を結んでも実親との親子関係に変わりはありません。
関連記事を読む『養子縁組をした後に元の親の相続に関係するのか?』
2.普通養子縁組の要件
独身の人がする普通養子縁組の要件は厳しくないのですが、一応確認しておいてください。
- 養親の年齢
- 養子の年齢
- 尊属は養子にできない
- 養子に配偶者いるなら同意
2-1.養親が成年であれば大丈夫
養親となる人が成年に達していれば大丈夫です。
(養親となる者の年齢)
第七百九十二条 成年に達した者は、養子をすることができる。
相続対策で養子縁組をする人は、間違いなく成年なので問題ないはずです。
2-2.養子が養親より年長でなければ大丈夫
養子となる人が養親より年長でなければ大丈夫です。
(尊属又は年長者を養子とすることの禁止)
第七百九十三条 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。
養親になる人が養子より年長であればいいです。
養子が未成年者の場合は家庭裁判所の許可が必要になりますが、相続対策で未成年者を養子にすることは少ないと思います。
ちなみに、同年齢であれば誕生日で判断します。
2-3.年下であっても尊属は養子にできない
養子になる人が養親の尊属でないことも要件となります。
- 尊属
- 自分よりも前の世代に属する血族のこと
分かりやすく説明するなら叔父(伯父)・叔母(伯母)のことです。世の中には自分よりも年下の叔父・叔母もいると思いますが、尊属に当たるので養子にすることはできません。
2-4.養子が結婚しているなら配偶者の同意
養子になる人が結婚しているなら、配偶者の同意が必要となります。
(配偶者のある者の縁組)
第七百九十六条 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
配偶者も一緒に養子縁組をする場合や、意思表示ができない場合は除かれます。
3.養子縁組の相続における効力
養子縁組をすることで相続には、どのような効力があるのでしょうか。
主に以下のような効力があります。
- 相続権が発生
- 相続人が変更
- 相続税の基礎控除額に影響
3-1.養親と養子の間で相続権が発生する
養子縁組が成立すると法律上の親子となるので、お互いに相続権が発生します。
養親が亡くなると養子が相続人となりますし、養子に子どもがいなければ養親も相続人となり得ます。
実親が健在な場合は養親と共同相続人になることを、知らない人も多いので注意してください。
関連記事を読む『養子縁組をすると相続に変更がある|当事者以外に与える影響は大きい』
3-2.相続人が変更する可能性がある
養子縁組を検討している人が独身であれば、相続人は親(直系尊属)または兄弟姉妹の可能性が高いです。年齢的なことを考えると兄弟姉妹ではないでしょうか。
養子縁組をすることにより、養子が相続順位の第1位となります。ですので、養子縁組により相続人自体が変更することもあります。
養子縁組による相続人の変更は、トラブルになりやすいので気を付けてください。
【4-1.親族とトラブルになる可能性】で説明しています。
3-3.相続税の基礎控除額にも影響する
亡くなった人に相続財産があっても、相続税の基礎控除額を超えていなければ相続税は発生しません。
- 相続税の基礎控除額
- 3,000万円+法定相続人の人数×600万円
養子縁組をすることにより、相続税の基礎控除額にも影響があります。
なぜなら、法定相続人の人数が変われば、相続税の基礎控除額も変わるからです。
例えば、法定相続人が0人の人が養子縁組をすると、法定相続人が1人になります。
法定相続人が増えれば、相続税の基礎控除額も増えます。
注意相続税の計算上では養子の数に制限があります。
実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人まで。
4.養子縁組の注意点を知っておこう
相続対策で養子縁組を使うと、想定していなかった事態が起こることもあります。後々困らないように確認しておいてください。
- 親族とトラブルになる
- 養子が先に亡くなる
- 養子が離縁に応じない
4-1.親族とトラブルになる可能性
養子縁組をすることにより、親族とトラブルになる可能性があります。
具体的には、養親の兄弟姉妹と養子が揉めやすいです。
なぜかというと、養子縁組をしなければ兄弟姉妹が相続人になるのですが、養子が登場することにより財産を相続することができなくなるからです。
養子縁組について兄弟姉妹が知らなければ、自分が相続人だと思ってしまいます。あなた(養親)が亡くなってから急に養子が登場すると、養子縁組自体を疑うことにも繋がりかねないです。
可能であれば養子縁組について兄弟姉妹と連絡を取っておいてください。
4-2.養子が先に亡くなる可能性
あなた(養親)がいつ亡くなるのかを正確に知ることは難しいでしょう。同じように養子がいつ亡くなるかを知ることも難しいです。つまり、相続対策で養子縁組をしても、養子の方が先に亡くなる可能性は当然あります。
完全に防ぐことは無理なので、できる限り年齢の離れた人を養子にするぐらいしかないです。
4-3.養子と離縁で揉める可能性
相続対策で養子縁組をしても、途中で気が変わることもあります。別の人に後を継いでほしくなった等も考えられます。
養親と養子が同意すれば離縁することは簡単です。養子離縁届を提出するだけで関係を解消できます。
問題は養子が離縁に応じない場合です。家庭裁判所が関与する調停離縁・審判離縁・裁判離縁をすることになります。
離縁するまでに時間がかかることを覚悟する必要があります。
関連記事を読む『協議離縁とは養親と養子の話し合いで離縁すること』
5.さいごに
独身の人が後継ぎ対策で養子縁組を使うことは、昔からよく聞く話です。甥・姪や年齢の離れた弟・妹を養子にすることも珍しくありません。知り合いの子どもを養子にするといった話を聞いたこともあります。
養子縁組自体は難しくないのですが、トラブルになる可能性もあるので確認しておいてください。
相続に関する悩みは複雑になりやすいので、お気軽にお問い合わせください。