相続放棄に特別代理人が必要になるケースがあります。
- 親権者と未成年者が利益相反
- 後見人と被後見人が利益相反
相続放棄が利益相反行為に該当するなら、特別代理人を選任申立てをしましょう。
ただし、利益相反行為に該当しないケースもあるので、今回の記事を参考にしてください。
1.未成年者の相続放棄で特別代理人
1つ目のケースは、未成年者が相続放棄する場合の特別代理人です。
未成年者の相続放棄は親権者が代理するのですが、未成年者と親権者が利益相反に該当すると、特別代理人が必要になります。
以下は、民法の条文です。
相続放棄が利益相反行為に該当するケースとしては、以下があります。
- 親権者と未成年者が共同相続人で未成年者だけ相続放棄
- 複数の未成年者が共同相続人で特定の未成年者だけ相続放棄
それぞれ説明していきます。
1-1.親権者と未成年者が共同相続人
親権者と未成年者が共同相続人で、未成年者のみが相続放棄する場合、利益相反行為に該当します。
なぜなら、未成年者(子ども)の相続放棄により、親権者の法定相続分が増えるからです。
※法定相続が増えない場合もある。
未成年者のみを相続放棄させるには、特別代理人を選任する必要があります。
1-2.複数の未成年者が共同相続人
複数の未成年者が共同相続人で、一部の未成年者だけ相続放棄する場合、利益相反行為に該当します。
一部の未成年者だけ相続放棄すると、他の未成年者の法定相続分が増えるからです。
以下は、民法の条文です。
相続放棄する未成年者1人につき、特別代理人を1人選任してください。
1-3.全員が相続放棄なら利益相反に該当しない
親権者と未成年者が共同相続人、あるいは複数の未成年者が共同相続人であっても、全員が相続放棄する場合は利益相反行為に該当しません。
以下は、最高裁の判例です。
※後見人だけでなく親権者でも同じです。
利益相反行為に該当しないので、親権者は未成年者を代理して相続放棄できます。
ちなみに、亡くなった人に借金等がある場合、全員が相続放棄する可能性が高いです。したがって、未成年者の相続放棄が、利益相反行為に該当するケースは少ないでしょう。
関連記事を読む『未成年者の相続放棄は法定代理人(親権者等)が代わりにする』
2.被後見人の相続放棄で特別代理人
2つ目のケースは、被後見人が相続放棄する場合の特別代理人です。
被後見人の相続放棄は後見人が代理するのですが、被後見人と後見人が利益相反に該当すると、特別代理人が必要になります。
以下は、民法の条文です。
民法826条を後見人について準用すると、以下のようになります。
後見人と被後見人の利益が相反する行為については、後見を行う者は、被後見人のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
相続放棄が利益相反に該当するケースとしては、以下があります。
- 被後見人が先順位で後見人が後順位
- 被後見人と後見人が同順位の相続人
それぞれ説明していきます。
2-1.被後見人が先順位で後見人が後順位
被後見人が先順位相続人で、後見人が後順位相続人だと、被後見人の相続放棄は利益相反行為に該当します。
なぜなら、先順位相続人(被後見人)は初めから相続人ではなくなるので、後順位相続人(後見人)に相続権が移るからです。
順位 | 相続人 |
---|---|
第1順位 | 子ども |
第2順位 | 直系尊属 |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
子が親の後見人になっていると、相続放棄で利益相反になりやすいので、注意してください。
関連記事を読む『相続放棄すると次順位の相続人に負債等が移ってしまう』
2-2.被後見人と後見人が同順位の相続人
被後見人と後見人が共同相続人で、被後見人だけ相続放棄するなら利益相反行為に該当します。
なぜなら、被後見人が相続放棄すると、後見人の相続分が増えるからです。
以下は、後見人(子)と被後見人(配偶者)が各2分の1で共同相続人だった場合。
後見人 | 被後見人 | |
---|---|---|
相続放棄前 | 2分の1 | 2分の1 |
相続放棄後 | 1分の1 | ー |
被後見人が相続放棄するには、特別代理人を選任する必要があります。
2-3.後見監督人がいるなら特別代理人は不要
後見人と被後見人が利益相反に該当する場合でも、後見監督人がいるなら特別代理人を選任する必要はありません。
なぜなら、後見監督人が被後見人を代理するからです。
以下は、民法の条文です。
後見監督人が被後見人を代理して相続放棄の申述をします。
3.相続放棄で特別代理人が必要かは外形で判断
相続放棄で特別代理人が必要になるかは、外形だけで判断されます。
以下は、最高裁の判例です。
例えば、以下のようなケースです。
【事例】
被相続人|A
相続人 |B(配偶者)・C(未成年者)
相続財産|不動産・借金
親権 |BはCの親権者
Bは不動産が必要なので借金も含めて相続する。
一方、Cは相続放棄しても不動産に住めるので、BはCだけ相続放棄しようとした。
Cを思っての行為ですが、外形的には利益相反行為に該当します。
結果的に、未成年者や被後見人が損しない相続放棄だったとしても、外形的に利益相反行為に該当すれば、特別代理人が必要になります。
関連記事を読む『【成年後見人による相続放棄】本人の代理人として手続きをする』
4.特別代理人の申立時に相続放棄の理由も説明
相続放棄するのに特別代理人が必要な場合、家庭裁判所に選任申立てをします。
そして、申立てをする際には、相続放棄の理由も説明する必要があります。
【認められる理由】
被相続人|A
相続人 |B(配偶者)・C(未成年者)
相続財産|借金(500万円)・預貯金(100万円)
親権 |BはCの親権者
BはAの借金について連帯保証人であり、相続放棄しても借金を支払う義務は残るので、相続することにしました。
一方、Cは相続すると損なので、借金を理由に相続放棄します。
【認められない理由】
被相続人|A
相続人 |C(未成年者)・D(未成年者)
相続財産|預貯金(1,000万円)
親権 |BはC・Dの親権者
BとCは仲が悪いので、Cだけ相続放棄させたい。
未成年者や被後見人が損するような理由なら、特別代理人の選任は認められないでしょう。
関連記事を読む『特別代理人の選任申立ての方法を知っておこう』
5.まとめ
今回の記事では「相続放棄と特別代理人」について説明しました。
未成年者や被後見人の相続放棄が、利益相反行為に該当すると、特別代理人を選任する必要があります。
ただし、親権者と未成年者に関しては、全員が相続放棄するケースが多いので、利益相反行為に該当する可能性は低いでしょう。
一方、子どもが親の後見人に就任していると、相続放棄で利益相反行為に該当しやすいです。
あくまでも、外形だけで判断するので、意図や結果は関係ありません。
親権者や後見人が代理人として相続放棄する場合は、特別代理人が必要なケースか確認しておいてください。
相続放棄と特別代理人に関するQ&A
- 借金が理由でも特別代理人は必要ですか?
-
外形が利益相反行為に該当するなら必要です。
- 未成年者が3人でも全員が相続放棄するなら特別代理人は不要ですか?
-
不要です。