特別代理人が相続放棄をするケースは2つしかありません。意外に少ないと思われたのではないでしょうか。
ほとんどのケースでは特別代理人を選任しなくても、結果として相続放棄をすることができます。
- 親権者と子どもの利益相反
- 後見人と本人の利益相反
上記のケースのみ特別代理人が相続放棄をします。
利益相反に該当しているかどうかをチェックすれば、相続放棄に特別代理人が必要かどうかも分かります。
1.親権者と子どもの利益相反
1つ目は親権者と子どもが利益相反に該当する場合の相続放棄です。
1-1.子どもだけが相続放棄
親権者と子どもが相続人で、子どもだけが相続放棄をするのは利益相反に該当します。
(利益相反行為)
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
例えば、亡くなった配偶者に借金があるので子どもだけ相続放棄させようとしても、外形からは母親の相続分が増えることになります。
あくまでも外形でしか判断しないので、相続放棄の理由は関係ありません。
未成年の子どもだけ相続放棄するには、特別代理人を選任する必要があります。
1-2.特定の子どもだけが相続放棄
親権者に未成年の子どもが複数人いるケースです。
(利益相反行為)
第八百二十六条
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
親権者は子どもそれぞれを代理するので、特定の子どもだけが相続放棄をすると利益相反となります。
離婚しているので親権者(母親)は相続人となりませんが、未成年の子どもは相続人となります。
1-3.全員が相続放棄するなら該当しない
親権者と子どもが相続人であっても、全員が相続放棄するなら利益相反に該当しません。
亡くなった人に借金があるなら、基本的に全員相続放棄をするでしょう。ですので、実際には親権者と子どもが相続放棄で、利益相反に該当するケースは少ないです。
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2.後見人と本人の利益相反
2つ目は後見人と本人(後見を受けている人)が利益相反に該当する場合の相続放棄です。
家族が成年後見人に就任していると、相続放棄で利益相反に該当しやすいです。
理由としては、相続順位が大きく関係しています。
2-1.親の後見人に子どもが就任している
親の後見人として子どもが就任していることは多いです。利益相反になりやすいのは、他の子どもが亡くなった場合の相続です。
親の代わりに後見人(子ども)が相続放棄の手続きをするのですが、利益相反に該当してしまいます。
なぜなら、親が相続放棄をすることにより、次順位の相続人(兄弟姉妹)である後見人に相続権が回ってくるからです。
特別代理人を選任して相続放棄の手続きを代わりにしてもらいます。
2-2.兄弟姉妹が後見人に就任している
兄弟姉妹が後見人に就任していると、相続順位が同じになりやすいです。
- 親が亡くなった相続
- 兄弟姉妹が亡くなった相続
本人だけが相続放棄をすると利益相反に該当します。それに対して、2人共相続放棄をするなら利益相反には該当しません。
2-3.後見監督人が就任しているなら問題なし
後見人と本人の利益が相反する場合であっても、後見監督人が就任しているなら特別代理人は不要です。
(後見監督人の職務)
第八百五十一条 後見監督人の職務は、次のとおりとする。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。
相続放棄の手続きは後見監督人が代わりにしてくれます。
ちなみに、任意後見なら任意後見監督人が必ず就任しています。法定後見で後見監督人が就任していないケースのみ特別代理人が必要となります。
3.さいごに
親権者と子どもに関しては、同時に相続放棄をすることが大半だと思うので、利益相反に該当することは少ないです。
それに対して、家族が後見人に就任していると、相続放棄で利益相反に該当しやすいです。同時に相続人となるケースだけではなく、後順位相続人として利益相反になることもあります。
あくまでも外形だけで判断するので理由は関係ありません。
親権者や後見人が相続放棄をする際には、利益相反に該当するかをチェックしておいてください。