遺贈と死因贈与の違いはご存知でしょうか。
本人が亡くなって効力を発生する点は同じですが、遺贈と死因贈与では違う部分の方が多いです。
あなたの目的や希望によっては、遺贈または死因贈与では達成できないかもしれません。
今回の記事では、遺贈と死因贈与を比較して説明しているので、2つの違いをご存知なければ参考にしてください。
目次
1.遺贈と死因贈与では相手の意思表示に違い
遺贈と死因贈与の比較1つ目は、相手の意思表示です。
遺贈と死因贈与では、相手方の意思表示の有無に違いがあります。
1-1.遺贈は単独の意思表示で成立
遺贈は遺贈者の意思表示だけで成立します。相手(受遺者)の意思表示は不要です。
相手が遺贈に反対していても成立しますし、相手が遺贈を知らなくても成立します。
1-2.死因贈与は相手方の意思表示が必要
死因贈与は契約なので、成立には相手方の意思表示が必要です。贈与者と受贈者が合意しなければ、死因贈与契約は成立しません。
ですので、相手方が贈与に反対であれば、死因贈与は不成立となります。
2.遺贈と死因贈与では方式に違いがある
遺贈と死因贈与の比較2つ目は、方式が決まっているかどうかです。
当然ですが、遺贈は遺言書に記載しなければ成立しません。普通の書面に記載しても遺贈にはなりません。
また、遺贈を遺言書に記載していても、遺言書自体が無効になれば遺贈も無効です。
それに対して、死因贈与に決まりはありません。相手方の意思表示があれば、口約束でも死因贈与契約は成立します。
ただし、口約束では第3者に証明するのが難しいので、証拠を残すためにも書面で作成した方が良いです。
3.遺贈や死因贈与は撤回できるのか
遺贈と死因贈与の比較3つ目は、撤回できるかです。
遺言書を作成した後や死因贈与契約を結んだ後で、気が変わることもあります。
遺贈と死因贈与は撤回できますが、死因贈与については例外もあるので気を付けてください。
3-1.遺贈の撤回は遺言者の自由
遺贈は本人の意思表示だけで成立するので、撤回するのも自由となります。
遺言書を撤回するのに、受遺者の同意も必要ありません。遺言書の効力が発生するまでは、受遺者に何の権利もないからです。
3-2.死因贈与の撤回は原則と例外がある
原則として、死因贈与の撤回は自由にすることができます。
死因贈与は遺贈の規定が準用されているので、民法1022条を準用して撤回ができるとしています。
ただし、死因贈与の撤回が認められない場合もあります。
下記は、撤回が認められなった判例です。
上記を簡単に説明すると、死因贈与が負担付の場合に受贈者が負担の履行をしていれば、特段の事情がない限り民法1022条は準用されません。
すでに受贈者が負担を履行しているのに、贈与者が自由に贈与を撤回できると不公平になるからです。
4.遺贈や死因贈与は放棄できるのか
遺贈と死因贈与の比較4つ目は、効力発生後に放棄できるかです。
遺言者(遺贈者)が亡くなった後に、遺贈(死因贈与)を放棄できるかには違いがあります。
4-1.遺贈の放棄は受遺者の自由
遺贈は遺言者の一方的な意思表示なので、受遺者はいつでも放棄することができます。
受遺者は遺言書の内容を知らないこともあるので、内容を確認してから受けるのか放棄するのか決めれます。
ただし、遺贈が包括遺贈の場合は、遺贈を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所への申述が必要です。
関連記事を読む『包括遺贈の放棄には家庭裁判所の手続きが必要』
4-2.原則として死因贈与は放棄できない
死因贈与は契約なので、契約の効力発生後に一方的に放棄することはできません。
贈与者が亡くなった後で、受贈者が自由に放棄できると契約の意味がないからです。
ただし、死因贈与契約の内容に受贈者からの放棄を認める項目があれば、効力発生後に放棄することもできます。
5.遺贈と死因贈与に課税されるのは相続税
遺贈と死因贈与の比較5つ目は、課税される税金です。
遺贈と死因贈与に課税される税金は、両方とも相続税となります。
死因贈与は贈与税と間違えやすいですが、法律により相続税となっています。
受遺者や受贈者が相続人以外であっても、相続税が課税されるので気を付けてください。
6.遺贈や死因贈与の相手が先に亡くなった
遺贈と死因贈与の比較6つ目は、相手方が先に亡くなった場合です。
遺贈や死因贈与を決めていても、受遺者や受贈者が先に亡くなることもあります。
先に亡くなった場合は、当然に相続人に引き継がれるわけではありません。
6-1.受遺者が先に亡くなると遺贈は失効
遺言者が亡くなる前に受遺者が亡くなると、法律の定めにより遺贈は失効します。
間違えやすいのですが、受遺者の相続人が遺贈を受けるわけではありません。
受遺者の相続人に遺贈したい場合は、以下の方法となります。
- 遺言書を新しく作成する
- 遺言書に別段の定め
遺言書で別段の定めをしておくことで、受遺者の相続人に遺贈することは可能です。
6-2.受贈者が先に亡くなった場合は結論が分かれる
死因贈与の受贈者が先に亡くなった場合は、遺贈と同じく失効するという判例と、受贈者の相続人が承継するという判例に分かれています。
ですので、一律で判断するのではなく、個々の事例ごとに判断しているようです。
遺贈の場合と同じですが、受贈者の相続人に承継させたい場合は、契約書内で決めておいた方が良いです。
7.遺贈と死因贈与は生前に仮登記できるのか
遺贈と死因贈与の比較7つ目は、生前に仮登記できるのかです。
遺言者や贈与者が生前している間に、仮登記を申請できるかには違いがあります。
7-1.生前に遺贈の仮登記は申請できない
遺言者が生存している間に、遺贈の仮登記は申請できません。
遺贈の効力は発生していませんし、受遺者は仮登記を請求する権利も持っていません。
たとえ遺言書を公正証書で作成したとしても、生前に遺贈の仮登記は認められません。
関連記事を読む『遺贈による仮登記を生前に申請することはできない』
7-2.生前に死因贈与の仮登記は申請できる
死因贈与契約の締結後であれば、死因贈与の仮登記を申請できます。
死因贈与の効力は発生していませんが、仮登記を請求する権利は発生しています。
したがって、2号仮登記を申請することが可能です。
8.さいごに
以下は、遺贈と死因贈与の比較表です。
項目 | 遺贈 | 死因贈与 |
---|---|---|
相手方の 意思表示 |
不要 | 必要 |
方式 | 遺言書 | 自由 |
撤回 | 自由 | 原則自由 |
放棄 | 自由 | 原則不可 |
税金 | 相続税 | 相続税 |
先に死亡 | 失効 | 結論が 分かれる |
生前に仮登記 | 不可 | 可能 |
遺贈と死因贈与は似ていますが、違う部分の方が多いです。
どちらを利用するかは目的によっても違うので、選ぶ前に必ず確認しておいてください。
遺贈と生前贈与の比較については、以下の記事を参考にしてください
関連記事を読む『遺贈と生前贈与の違いを5つの項目で比較』