遺贈により不動産を取得するなら、前もって仮登記を申請しておきたいと思う人もいます。
ですが、遺言書が作成されていても、生前に遺贈の仮登記を申請することはできません。1号仮登記と2号仮登記で理由は違うのですが、仮登記ができない点は同じです。
どうしても生前に仮登記を申請したいなら、遺贈ではなく死因贈与契約を検討しましょう。
今回の記事では、遺贈の仮登記について説明しているので、不動産の遺贈を検討しているなら参考にしてください。
目次
1.遺言書が作成済みでも遺贈の仮登記はできない
遺言書が作成されていても、生前に遺贈の仮登記は申請できません。たとえ遺言書を公正証書で作成していても変わりません。
仮登記には、不動産登記法105条1号と2号があります。理由は違いますが、生前に遺贈の仮登記ができない点は同じです。
簡単にですが、生前に遺贈の仮登記が申請できない理由を説明していきます。
1-1.遺贈の効力発生前なので1号仮登記は不可
生前に不動産登記法105条1号による、遺贈の仮登記は申請できません。
- 1号仮登記
- すでに権利変動は発生しているが、登記申請に必要な情報を提供できないので申請する仮登記のこと
1号仮登記を申請するには、権利変動の発生が必要です。
ですが、遺贈の効力が発生するのは遺言者の死亡時なので、生前に遺贈による権利変動は発生していません。
したがって、生前に遺贈の1号仮登記は申請できません。
1-2.生前に請求する権利がないので2号仮登記は不可
生前に不動産登記法105条2号による、遺贈の仮登記は申請できません。
- 2号仮登記
- 権利変動は発生していないが、権利変動を生じさせる請求権は発生している場合に申請する仮登記のこと
2号仮登記を申請するには、権利変動を生じさせる請求権の発生が必要です。
ですが、遺言者の生存している間、受遺者は何の権利も取得していません。
以下は、最高裁の判決理由の抜粋です。
遺言者の生存中は受遺者においては何等の権利をも取得しない。すなわちこの場合受遺者は将来遺贈の目的物たる権利を取得することの期待権すら持つてはいないのである。
受遺者が何の権利も取得していない以上、遺贈に関する請求権も発生しません。
したがって、生前に遺贈の2号仮登記は申請できません。
2.遺贈ではなく死因贈与なら生前に2号仮登記はできる
生前に遺贈の仮登記は申請できません。
一方、死因贈与であれば、生前に死因贈与の2号仮登記は申請可能です。
簡単にですが、死因贈与なら仮登記できる理由を説明していきます。
死因贈与契約とは、贈与者の死亡を始期とした贈与契約のことです。贈与者の死亡時に不動産の所有権が移転します。
以下は、不動産登記法の条文です。
(仮登記)
第百五条 仮登記は、次に掲げる場合にすることができる。
(省略)
二 第三条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権(始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む。)を保全しようとするとき。
贈与者の死亡を始期とする贈与契約なので、条文どおり2号仮登記を申請できます。
遺贈 | 死因贈与 | |
1号仮登記 | × | × |
2号仮登記 | × | ○ |
どうしても生前に仮登記を申請したい場合は、遺贈ではなく死因贈与契約も検討してみてください。
関連記事を読む『【遺贈と死因贈与】7つの項目で徹底比較』
3.遺言者の死亡後なら遺贈の仮登記は申請できる
遺言者の死亡後であれば、遺贈の仮登記は申請できます。
実際に遺贈の仮登記を申請することは少ないですが、知っておいて損にはなりません。
3-1.登記識別情報を原因に遺贈の1号仮登記は可能
通常、遺贈の登記を申請する際には、登記済証(登記識別情報)が添付書面となります。
ただし、亡くなった人(遺言者)の登記識別情報がすぐに見つかれば良いのですが、どこにあるのか分からないことも多いです。
登記識別情報を探すのに時間がかかるなら、遺贈の1号仮登記を申請できます。
以下は、不動産登記規則です。
(法第百五条第一号の仮登記の要件)
第百七十八条 法第百五条第一号に規定する法務省令で定める情報は、登記識別情報又は第三者の許可、同意若しくは承諾を証する情報とする。
遺贈の仮登記後に登記識別情報が見つかれば、本登記を申請してください。
司法書士から一言登記識別情報を紛失している場合は、仮登記ではなく事前通知制度等を利用して遺贈の登記を申請してください。
3-2.第3者に農地を特定遺贈なら2号仮登記は可能
原則として、第3者に農地を移転させるには、農業委員会の許可を得なければいけません。
つまり、第3者に特定遺贈で農地を移す場合、「遺言者の死亡」と「農業委員会の許可」の2つが必要になります。
遺言者が死亡した時点では、農業委員会の許可を得ることを条件に、農地を取得する権利を得ている状態です。
したがって、受遺者は遺贈の2号仮登記を申請できます。
関連記事を読む『【農地の遺贈】種類や受遺者によって3条許可の有無が違う』
4.不動産を遺贈するなら仮登記以外の対策が重要
不動産を遺贈する場合、生前に仮登記することはできません。
ですので、仮登記以外の対策が重要になります。
- 遺言執行者を指定しておく
- 登記識別情報の引継ぎ
それぞれ簡単に説明していきます。
4-1.遺言執行者を指定しておくと遺贈の登記が楽
不動産を第3者に遺贈するなら、遺言書で遺言執行者を指定しましょう。
なぜかというと、遺言執行者がいなければ、遺贈の登記義務者が相続人全員になるからです。
遺贈による所有権移転登記は、受遺者が単独で申請できるわけではなく、登記権利者と登記義務者の共同申請となります。
- 登記権利者:受遺者
- 登記義務者:相続人全員
遺言書で遺言執行者を指定しておけば、遺贈の登記義務者は遺言執行者になります。
- 登記権利者:受遺者
- 登記義務者:遺言執行者
受遺者を遺言執行者に指定することも可能です。遺贈の登記をスムーズに進めるためにも、遺言執行者は忘れずに指定しておきましょう。
関連記事を読む『遺言執行者は遺贈登記だけでなく相続登記も申請できる』
4-2.登記識別情報が原因で登記を止めない
遺贈の登記を申請するには、登記識別情報(登記済証)も添付書類となります。
遺贈義務者が登記識別情報を探すのに手間どると、遺贈の登記が進みません。登記識別情報が原因で登記の申請が止まらないように、何かしらの対策は必要です。
- 登記識別情報の保管場所を伝えておく
- 登記識別情報を失効しておく
誰に不動産を遺贈するのかや、相続人の協力度合いによっても対策は変わります。遺贈の相談を専門家にするなら、登記識別情報についても相談してみてください。
5.さいごに
今回の記事では「遺贈の仮登記」について説明しました。
遺言書が作成されていても、生前に遺贈の仮登記は申請できません。
- 1号仮登記:遺贈の効力が発生していない
- 2号仮登記:遺贈を請求する権利がない
どうしても生前に仮登記を申請したいなら、遺贈ではなく死因贈与契約も検討してみてください。
ちなみに、遺言書の死亡後であれば、遺贈の仮登記も可能です。ただし、使用する場面は限定的になります。
遺贈の登記は遺言者が亡くなった後に申請するので、できる限り準備をしておきましょう。