遺贈と生前贈与は、どちらも相手に財産を贈る手段になります。
ですが、財産を贈る以外の部分は違う点が多いです。
- 相手方の承諾
- 形式要件
- 撤回の自由
- 効力発生日
- 税金の種類
どちらの手段にもメリット・デメリットがあります。
今回の記事では、遺贈と生前贈与の違いを5つの項目で説明しているので、財産を贈る手段を検討しているなら参考にしてください。
目次
1.相手方の承諾
1つ目の違いは、相手方の承諾です。
遺贈・贈与が成立するのに、相手方の承諾が必要かで違いがあります。
1-1.遺贈は一方的な意思表示
遺贈は遺言者の一方的な意思表示です。
遺言書自体が有効に成立していれば、相手方の受諾は必要ありません。たとえ相手方が遺贈を知らなくても有効に成立します。
1-2.贈与は相手方の受諾が必要
贈与は、贈与者(贈る人)が財産を与える意思表示をし、受贈者(受取人)が受諾する意思表示をすることにより成立します。
相手方が贈与を受諾しなければ贈与契約は成立しません。
2.形式要件
2つ目の違いは、形式要件です。
遺贈・贈与が成立するのに、形式要件があるかどうかの違いです。
2-1.遺贈は遺言書の記載事項
遺贈は遺言書の記載事項です。
したがって、口頭では成立しませんし、単なる書面に記載しても遺贈は成立しません。
当然ですが、遺言書自体が有効に成立しなければ、遺贈の記載も無効になります。
2-2.贈与は口頭でも成立する
贈与契約の形式に法律上の決まりはありません。
当事者の口約束であっても有効に成立します。
ですが、トラブルを防ぐためにも書面で作成した方が良いです。証拠として残すなら公正証書で作成することも検討しましょう。
3.撤回の自由
3つ目の違いは、撤回の自由です。
遺贈・贈与の撤回が自由にできるかでも違いがあります。
3-1.遺言書はいつでも撤回できる
遺言書の撤回はいつでもできます。
遺言者の単独の意思表示なので、受遺者(受取人)の許可も不要です。回数の制限もないので、何回でも遺言書を書き直すことが可能です。
受遺者の立場からすると、遺贈を撤回される可能性は常にあります。
3-2.贈与は口頭と書面で違いがある
口頭による贈与契約は、履行が済んでいなければ自由に撤回できます。
(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
贈与契約書を作成している場合は、撤回するのに当事者の合意が必要です。口約束では簡単に撤回されるので、贈与契約は書面で作成した方が安心できます。
4.効力発生日
4つ目の違いは、効力発生日です。
遺贈・贈与では効力発生日が違います。
4-1.遺贈の効力は死亡により発生
遺贈は遺言者が亡くなることにより効力が発生します。
(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
遺贈は遺言書の記載事項なので、生前に効力が発生することはありません。
ちなみに、遺贈者(贈る人)が受遺者(受取人)よりも長生きすると、遺贈の効力は発生しません。
4-2.贈与日は自由に決める
贈与をいつするかは、当事者が自由に決めることができます。
ただし、効力が発生する条件を贈与者の死亡にすると、死因贈与契約になります。生前贈与と死因贈与では、違う部分があるのでご注意ください。
5.税金の種類
5つ目の違いは、税金の種類です。
遺贈・贈与では税金の種類に違いがあります。
5-1.遺贈は第3者も相続税
遺贈による税金は相続税です。
勘違いしやすいのですが、遺贈を受け取る相手が第3者(相続人以外)であっても相続税となります。
相続税が発生するかどうかは、亡くなった人の財産総額によって決まります。財産総額が基礎控除額以下であれば、相続税は発生しません。
- 相続税の基礎控除額
- 3,000万円+600万円×法定相続人の数
亡くなった人の法定相続人の人数により基礎控除額は変わります。
5-2.生前贈与は贈与税
生前贈与による税金は贈与税です。
贈与税は相続税に比べると高額になるので、贈与税の基礎控除(年間110万円)を上手く利用しながら行ってください。贈与する前に税金がいくらになるのか計算した方が安全です。
注意死因贈与による税金は相続税になります。
6.まとめ
遺贈と生前贈与は財産を贈るという点は同じですが、違う点も多いです。
項目 | 遺贈 | 贈与 |
---|---|---|
相手方の承諾 | 不要 | 必要 |
形式要件 | 遺言書の 記載事項 |
口頭でも 成立 |
撤回の自由 | いつでも 撤回できる |
口頭と書面で 違いがある |
効力発生日 | 死亡日 | 自由に決める |
税金の種類 | 相続税 | 贈与税 |
2つの違いを確認したうえで、遺贈と生前贈与のどちらを使うのか決めた方が良いです。
例えば、相手方を安心させるなら生前贈与ですが、贈与税は高額になります。相続税は贈与税より安いですが、遺贈の効力が発生するのは遺言者が亡くなってからです。
どちらの手段にもメリット・デメリットがあるので、利用される場合はご注意ください。
遺贈と死因贈与の比較については、下記の記事を参考にしてください
関連記事を読む『遺贈と死因贈与を6つの項目で比較して説明』