亡くなった人が遺言書を残していても、遺言書の内容が相続人の希望と一致しないこともあります。
「不動産ではなく預貯金が欲しい」
「相続財産は兄弟で平等に分けたい」
原則として、遺言書の内容が優先されるのですが、条件を満たすことで遺言書の内容と違う遺産分割協議も可能です。
ただし、不動産登記に関しては、法務局の考えが違うので注意してください。
今回の記事では、遺言書と遺産分割協議について説明しているので、相続手続きをする際の参考にしてください。
1.遺言書と遺産分割協議の関係について
まず初めに、遺言書と遺産分割協議の関係について、2つだけ簡単に説明します。
- 遺言書があれば遺産分割協議は不要
- 遺言書に記載されていない財産は遺産分割協議
1-1.遺言書があれば遺産分割協議は不要
原則として、亡くなった人が遺言書を作成していれば、遺産分割協議は不要になります。
なぜなら、遺言者の死亡により、遺言書の効力が発生するからです。遺言書により相続財産の承継先は決まっているので、遺産分割協議をする理由がありません。
ただし、遺言書に記載していない財産があれば、遺産分割協議で相続財産の承継先を決める必要があります。
関連記事を読む『遺産分割協議書の作成が不要になるケースを4つ説明』
1-2.遺言書に記載のない財産は遺産分割協議が必要
亡くなった人が遺言書を残していても、遺言書に記載していない財産があれば、遺産分割協議をする必要があります。
例えば、相続財産が不動産と預貯金で、遺言書に記載しているのが不動産だけであれば、預貯金については遺産分割協議で承継先を決めます。
遺言書が残されている場合は、記載内容を確認して相続財産の漏れがないか確認してください。
2.条件を満たせば遺言書があっても遺産分割協議できる
亡くなった人が遺言書を残していても、条件を満たせば遺言書の内容と違う遺産分割協議もできます。
以下が、条件となります。
- 遺言書で禁止されていない
- 相続人全員の同意
- 受遺者や遺言執行者の同意
それぞれ説明していきます。
2-1.遺言書で遺産分割が禁止されていない
1つ目の条件は、遺言書で遺産分割が禁止されていないです。
亡くなった人が遺言書で遺産分割を禁止していると、指定期間の間は遺産分割ができません。
以下は、民法の条文です。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男(2人)
▼遺言書
不動産|長男
預貯金|二男
相続開始から3年は遺産分割を禁止する
長男と二男が遺言書の内容と違う分け方にしたいと思っても、相続開始から3年間は遺産分割ができません。
まずは、遺言書で遺産分割が禁止されていないか確認してください。
2-2.遺産分割協議をすることに相続人全員の同意
2つ目の条件は、相続人全員の同意です。
相続人全員が遺言書の内容を知ったうえで、遺産分割協議をすることに同意が必要です。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男
▼遺言書
不動産|長男
預貯金|二男
遺言書と違う内容の遺産分割協議をするには、遺言書の内容に関わっていない三男の同意も必要です。
相続人の一部に遺言書の内容を隠して遺産分割協議をしても、相続人全員の同意を得たにはなりません。
たとえ遺言書の内容に関わらない相続人であっても、遺産分割協議をするなら遺言書の内容を確認してもらいましょう。
2-3.遺言書によっては受遺者や遺言執行者の同意
3つ目の条件は、遺受遺者や遺言執行者の同意です。
遺言書に遺贈や遺言執行者の指定があれば、受遺者や遺言執行者の同意も必要になります。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男
▼遺言書
不動産 |長男
預貯金 |内縁の妻
遺言執行者|弁護士
不動産を長男ではなく二男に変えたい場合、受遺者(内縁の妻)や遺言執行者(弁護士)の同意も必要です。
たとえ相続人全員が同意しても、受遺者を無視して遺産分割協議はできません。受遺者や遺言執行者の同意も必ず得ておきましょう。
ちなみに、遺贈が包括遺贈なら、受遺者は包括遺贈放棄の手続きが必要です。
関連記事を読む『包括遺贈の放棄には家庭裁判所の手続きが必要』
3.遺言書の検認をせずに遺産分割協議できるのか?
亡くなった人の残した遺言書が自筆証書遺言であれば、検認手続きが必要になります。
※法務局保管サービスを利用した場合は除く。
では、遺言書の内容と違う遺産分割協議をする場合、検認手続きは必要なのでしょうか。
- 自筆証書遺言の内容が確認できるなら不要
- 自筆証書遺言に封印があるなら必要
それぞれ説明していきます。
3-1.自筆証書遺言の内容が確認できるなら不要
自筆証書遺言の内容が確認できるなら、遺産分割協議の前に検認手続きは不要です。
なぜなら、遺言書の内容を相続人全員が確認でき、かつ、受遺者や遺言執行者の確認もできるからです。
そして、遺言書の内容と違う遺産分割協議をするなら、遺言を執行することもありません。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
自筆証書遺言を使って遺言を執行しないので、過料の規定にも該当しません。
司法書士から一言自筆証書遺言の検認をした場合でも、遺産分割協議をすることは可能です。
3-2.自筆証書遺言に封印があるなら検認は必要
自筆証書遺言が封筒等に封印されているなら、検認手続きは必要になります。
なぜなら、封印されている自筆証書遺言を、家庭裁判所外で開封することは禁止されているからです。
そして、遺言書の内容が分からない以上、相続人全員の同意や受遺者等の確認もできません。
自筆証書遺言が封印されているなら、開封せずに検認申立てをしましょう。
4.遺言書の内容と違う遺産分割協議による相続税
遺言書の内容と違う遺産分割協議をしても、税金上は特に問題ありません。
以下は、国税庁のウェブサイトです。
特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。
なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。
相続税は遺産分割協議の内容により課税されます。当然ですが、相続税の申告期間内に遺産分割協議を終わらせる必要はあります。
ちなみに、相続人から相続人への贈与とはみなされないので、贈与税は課税されません。
5.遺言書の内容と違う遺産分割協議による相続登記
亡くなった人が遺言書で不動産の相続人を決めていた場合、遺産分割協議で不動産の取得者を変えると相続登記の申請で問題があります。
なぜかというと、法務局の考えでは、遺言書による相続登記が必要になるからです。
5-1.法務局は権利変動を忠実に記録する
被相続人が亡くなると、遺言書の効力が発生します。その後、遺産分割協議により不動産の所有者を変えます。
つまり、遺言書の指定により所有権が移転した後で、相続人同士の話し合いにより所有権を再度移転させます。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男(2人)
▼遺言書
不動産|長男
▼遺産分割協議
不動産|二男
父親は遺言書に「不動産は長男に相続させる」と記載していました。
ですが、長男は不動産が不要なので、遺産分割協議により二男が不動産を取得しました。
法務局の考える登記の流れは、以下のようになります。
- 遺言書により長男に相続登記
- 贈与を原因に長男から二男に所有権移転登記
法務局は権利変動の流れを忠実に記録します。
不動産登記が2回必要になるので、専門家報酬や登録免許税が増えてしまいます。
ただし、実務上では、別の方法を採用している専門家も存在するので、登記を申請する前に相談した方が良いです。
5-2.遺産分割協議書の記載によっては法務局から指摘
法務局に対して、以下のような記載をした遺産分割協議書を添付すると、遺言書による相続登記を申請してくださいと言われます。
遺産分割協議書
(省略)
なお、被相続人は自筆証書遺言を作成しているが、遺言書作成時とは相続人の状況も変化しているので、相続人全員の合意により遺産分割協議書を作成した。
上記のような記載があると、法務局は遺言書の存在を無視できないので、遺言書による相続登記が必要になります。
遺産分割協議で決めた相続人に直接相続登記を申請したい場合は、依頼する専門家に遺産分割協議書の記載について相談してみてください。
関連記事を読む『相続登記と遺産分割協議書について徹底解説』
6.さいごに
亡くなった人が遺言書を残していても、遺言書の内容と違う遺産分割協議をすることは可能です。
ただし、以下の条件を満たす必要があります。
- 遺言書で遺産分割が禁止されていない
- 相続人全員の同意がある
- 受遺者や遺言執行者の同意がある
誰か1人でも遺言書を優先させる意思があれば、遺産分割協議をすることはできません。
亡くなった人の財産に不動産がある場合、遺産分割協議書の記載内容によっては、遺言書による相続登記が先に必要になります。
遺言書の内容と違う遺産分割協議をするなら、専門家に相談しておきましょう。



