遺留分侵害額の請求をしても、相手方との話し合いが上手く進まないこともあります。
当事者同士の話し合いで解決できなければ、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立てができます。
調停では第3者である調停委員を介して、解決に向けての話し合いを進めていきます。
調停委員は解決の助言や解決案の提示等をしてくれるので、当事者が納得して合意すれば調停は成立です。
今回の記事では、遺留分侵害額の請求調停について説明しているので、遺留分を侵害されているなら解決の参考にしてください。
目次
1.遺留分侵害額の請求調停とは何なのか?
遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができます。
ですが、当事者間で話し合いが上手くいかない場合や、相手方が話し合いに応じない場合もあります。
遺留分侵害額の請求に関する話し合いが進まない時には、家庭裁判所の調停手続きを利用することができます。
遺留分侵害額の請求調停では、調停委員が間に入り解決に向けて話し合いを進めます。
当事者間の話し合いでは解決できないと感じたら、調停手続きの利用を検討してみましょう。
関連記事を読む『遺留分侵害額請求権は金銭を請求する権利』
2.遺留分侵害額の請求調停の申立てについて
遺留分侵害額の請求調停の申立てをするなら、必要事項を確認しておいてください。
2-1.遺留分侵害額の請求調停の申立人
遺留分侵害額の請求調停の申立人は限られています。
- 遺留分を侵害された相続人(兄弟姉妹や甥姪以外)
- 遺留分を侵害された相続人の承継者(相続人や相続分譲受人)
兄弟姉妹や甥姪には遺留分が無いので申立てできません。
2-2.遺留分侵害額の請求調停の管轄家庭裁判所
遺留分侵害額の請求調停の申立て先は、家事事件手続法により決められています。
- 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 当事者が合意で定める家庭裁判所
原則として、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に調停申立書を提出します。
当事者が合意すれば別の家庭裁判所も可能ですが、揉めている相手方が同意することは少ないでしょう。
2-3.調停申し立てに必要な書類と費用
遺留分侵害額の請求調停の申立てには、必要な書類と費用があります。
戸籍謄本等と遺産に関する書類
必要な書類は、相続人を証明する書類と遺産を証明する書類に分かれます
相続人を証明する戸籍謄本等
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言書
被相続人の戸籍等は全部必要になるので、漏れが無いように気をつけてください。
遺産に関する書類等
- 不動産登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 預貯金通帳のコピー
- 有価証券等のコピー
上記以外でも、遺産に関する書類があれば提出します。
収入印紙と予納郵券を購入
遺留分侵害額の請求調停に必要な費用は、収入印紙と予納郵券の2つです。
収入印紙:1,200円分
予納郵券:家庭裁判所により異なる
収入印紙の額は共通なのですが、予納郵券は家庭裁判所ごとに違います。
ですので、前もって管轄家庭裁判所に確認しておいてください。
2-4.調停申立書の記載ポイント
調停申立書をご自身で作成するなら、申立ての趣旨と理由も記載する必要があります。
記載例は、裁判所のウェブサイトで公開されています。
申立ての趣旨とは目的のこと
申立ての趣旨とは、遺留分侵害額の請求調停をする目的です。
相手方に遺留分侵害額を支払ってほしいので、記載例と同じ文言で大丈夫です。
「相手方は申立人に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うとの調停を求めます。」
自分で書類を作成するなら、記載例どおりに書くことをお勧めします。
申立ての理由は要点を記載する
申立ての理由欄には、遺留分侵害額の請求に至った要点を記載します。
家庭裁判所の記載例を分析すると、以下の項目が記載されています。
- 被相続人の氏名・本籍・死亡日
- 相続人の人数
- 遺産の内容
- 遺言書の有無・内容
- 相手方との交渉の経緯
自分で書類を作成するなら、記載例を参考にして必要な情報を記載しましょう。
注意申立ての理由欄には事実だけを淡々と記載しましょう。申立書は相手方に通知されるので、感情的な文章は逆効果になります。
3.遺留分侵害額の請求調停の流れ
遺留分侵害額の請求調停の申立てをした後の流れです。
3-1.初回期日を決めて相手方に通知
申立書が家庭裁判所に受理されると、申立人と家庭裁判所で初回期日を決めます。
一般的には、申立てより1カ月から2ヶ月先が初回期日になりやすいです。
初回期日が決まると、相手方に申立書のコピーと呼出状が送付されます。
3-2.初回期日で調停が終わることは少ない
初回期日では調停委員から当事者に調停手続の説明が行われます。
説明が終了すると、当事者が交互に調停委員と話し合います。原則として、相手方と話すことは無く、調停委員を介して解決を目指します。
ちなみに、初回期日の日程は相手方の事情を考慮していないので、相手方が来ていないケースもあります。
初回期日で紛争が解決することは少ないので、次回調停期日を調整して終了となります。
3-3.2回目以降の調停で解決を目指す
2回目以降の調停でも、調停委員が当事者双方から話を聞いて解決を目指します。
話し合いがまとまらなければ、次回調停期日を調整して終了です。
調停を重ねて当事者双方の情報が出揃えば、調停委員から調停案を提示されることもあります。
3-4.遺留分侵害額の請求調停の終了
遺留分侵害額の請求調停は成立・不成立のどちらでも終了となります。
調停成立の場合
調停を重ねる間に当事者双方が合意すれば、調停は成立となります。
遺留分侵害額の請求調停が成立すると、調停調書にその旨が記載されます。
調停成立が記載された調停調書は、確定判決と同一の効力を有します。
したがって、調停調書記載のとおりに支払いがされない場合、遺留分権利者は強制執行の手続きをとることが可能です。
調停不成立の場合
調停委員の提示する調停案に同意しなかった場合や、そもそも相手方が調停に出席しない場合等は、家庭裁判所から調停は不成立とされます。
調停が不成立になった後の行動は2つに分かれます。
- 当事者同士で話し合いを続ける
- 遺留分侵害額請求訴訟の提起
当事者同士で話し合いを続けることも可能ですが、合意に至ることは少ないでしょう。
通常は、最終手段として裁判で争うことになります。
4.遺留分侵害額の請求調停をスムーズに進めるポイント
一般の人が遺留分侵害額の請求調停を何回も経験しているとは思えないです。
弁護士に依頼している場合は別ですが、自分で手続きを進めるなら気を付けておくポイントがあります。
- 主張したい内容は書面で準備しておく
- 早く解決したいなら譲歩も必要
- 調停委員は敵でも味方でもない
4-1.主張したい内容は書面で準備しておく
調停で主張したい内容は、あらかじめ書面で準備しておきましょう。
なぜなら、調停の時間は限られていますし、説明に慣れている人ばかりではないからです。
口頭の説明だけでは調停委員に上手く伝わらない可能性もあるので、主張の内容を書面でまとめておきましょう。
また、自分の主張を裏付ける証拠があるなら、証拠も準備しておいてください。
司法書士から一言主張と根拠はセットになります。主張だけにならないように注意しましょう。
4-2.早く解決したいなら譲歩も必要
遺留分侵害額の請求調停は、調停委員を介しての話し合いなので、当事者双方が同意しなければ成立しません。
つまり、申立人または相手方あるいは当事者双方が譲歩しなければ、調停が成立することはありません。
相手方が譲歩するのを待つのも戦略ですが、早く終わらせるなら自分が譲歩するのも戦略です。
どちらも譲歩しなければ、最後は訴訟になります。弁護士費用も増えますし時間もかかります。
遺留分侵害額だけでなく、費用や時間も計算に入れて調停に臨みましょう。
4-3.調停委員は敵でも味方でもない
調停委員は中立の立場で当事者双方に接します。
つまり、調停委員はあなたの敵ではないですが、あなたの味方でもありません。
あなたの主張に同意しないこともありますし、相手方の味方をしているように感じることもあります。
ですが、調停委員は相手方の味方もしません。中立の立場で解決に向けて助力しているだけです。
調停委員と揉めても時間の無駄なので、解決することに集中しましょう。
5.遺留分侵害額の請求調停をするメリット
遺留分侵害額の請求調停をするかは当事者の自由です。申立てをせずに当事者で話し合いを続けることもできます。
ですが、遺留分侵害額の請求調停にはメリットもあります。
5-1.調停委員が間に入るので感情的になりにくい
遺留分侵害額の請求調停を利用するのは、当事者同士で話し合いが成立しなかった場合です。
話し合いが成立しない理由はさまざまですが、当事者が感情的になっているケースもあります。
第3者である調停委員が間に入ることで、冷静になり話し合いが成立しやすくなります。
遺留分侵害で争っている金額にもよりますが、早めに解決した方が得な場合も多いです。
5-2.調停委員が解決に向けて助力してくれる
遺留分侵害額の請求調停の目的は、当事者が遺留分侵害額の請求について合意することです。
そして、調停委員は当事者双方の意見を聞いたり、提出された資料等を参考にしながら、解決案の提示や助言をしてくれます。
※調停委員の発言に強制力はありません。
弁護士に依頼している場合は別ですが、自分で手続きを進めているのなら、調停委員の助力が解決の役に立つ可能性はあります。
6.遺留分侵害額の請求調停に関する注意点
遺留分侵害額の請求調停に関する注意点も確認しておいてください。
- 調停の申立てと請求の意思表示は別もの
- 被相続人の死亡日によっては遺留分減殺請求
- 訴訟をするなら先に調停申立てが必要
6-1.遺留分侵害額の請求調停の申立てと消滅時効は別
遺留分侵害額の請求は権利行使の意思表示を相手方にしなければ、一定期間経過で時効により消滅します。
- 相続の開始及び遺留分侵害を知った時から1年
- 相続の開始から10年
上記のどちらかに該当すると、遺留分侵害額請求権は時効により消滅です。
そして、遺留分侵害額の請求調停の申立てをしても、相手方に対する意思表示にはなりません。
相手方に内容証明郵便等を送るなどして、申立てとは別に権利行使の意思表示をしておく必要があります。
家庭裁判所に調停申立てをしても、時効により消滅しては意味がありません。
関連記事を読む『遺留分にも時効があるので請求期限は確認しておこう』
6-2.遺留分減殺による物件返還請求調停は別の手続き
令和元年(2019年)7月1日より前に被相続人が亡くなっている場合、遺留分侵害額の請求調停の申立てはできません。
上記の場合は、遺留分減殺による物件返還請求調停の申立てになります。
令和元年(2019年)7月1日に民法が改正されているので、被相続人の死亡日により申し立てる調停が違います。
被相続人の死亡から数年経過している場合は、死亡日を確認しておきましょう。
6-3.調停前置主義により訴訟をするなら先に調停が必要
遺留分侵害額の請求調停の申立てをするかは、遺留分権利者の自由です。
家庭裁判所に申立てをするのは面倒だから、当事者同士の話し合いで解決したい人もいるからです。
ただし、遺留分侵害額請求訴訟を提起するなら、先に調停申立てを済ませておく必要があります。
遺留分侵害額の請求調停の申立てをせずに、遺留分侵害額請求訴訟を提起しても却下されます。
当事者同士の話し合いで解決できないなら、まずは調停の申立てをしましょう。
7.さいごに
遺留分侵害額の請求調停とは、第3者である調停委員を介して話し合いを進める手続きです。
調停委員が間に入って、解決に向けての助言や解決案の提示等をしてくれます。
調停をスムーズ進めるなら、気を付ける点もあります。
- 主張は書面で準備しておく
- 譲歩が無ければ成立しない
- 調停委員は中立の存在
遺留分侵害額の請求調停が成立すれば問題ないですが、不成立であれば最後は訴訟になります。
遺留分侵害額だけでなく、時間や費用も考慮して調停での話し合いを進めましょう。