遺産分割協議が詐害行為に該当するのは条件を満たした場合のみ

遺産分割協議も詐害行為になる
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遺産分割協議が「詐害行為」に該当するのか、不安に感じて調べている方は少なくありません。

インターネット上では「遺産分割協議も詐害行為取消権の対象になる」といった説明をよく見かけますが、これを読んで遺産分割協議をすると危ないのでは?と誤解してしまう人も多いです。

しかし、原則として遺産分割協議は詐害行為ではありません。

問題になるのは、一定の条件を満たす「例外的なケース」に限られます。

この記事では、

  • どのような場合に詐害行為になるのか
  • 該当しないケースはどこまで安全なのか
  • もし詐害行為に該当した場合、何が起こるのか

相続人の立場から分かりやすく整理して解説します。

目次

1.原則として遺産分割協議は詐害行為ではない

原則として、相続人が遺産分割協議をしても、詐害行為には該当しません。

なぜなら、遺産分割協議とは相続人同士が自由に話し合って決める手続きであり、協議自体が直ちに債権者を害する行為ではないからです。

相続人に借金があっても、普通に遺産分割協議を行っただけでは、詐害行為には該当しません。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |長男・二男

▼相続財産

預貯金|1,000万円

▼二男の資産状況

預貯金|なし
借金 |100万円

▼遺産分割協議

長男|500万円
二男|500万円

二男に借金があっても、遺産分割協議は有効に成立しますし、詐害行為にも該当しません。


相続人に借金があっても、法定相続分で分割するようなケースであれば、遺産分割協議は詐害行為に該当しません。

問題になるのは、債権者を害すると知っていて、意図的に不利な遺産分割をした場合です。

次章では、遺産分割協議が詐害行為に該当する条件を説明します。

2.例外的に遺産分割協議が詐害行為に該当する条件

相続人(債務者)の遺産分割協議が詐害行為に該当するには、3つの条件を満たす必要があります。

  1. 相続人(債務者)が無資力だった
  2. 債務者が債権者を害すると知っていた
  3. 共同相続人も債権者を害すると知っていた

上記の条件をそれぞれ説明していきます。

2-1.相続人(債務者)が無資力だった

詐害行為の条件1つ目は、相続人(債務者)が無資力だったです。

遺産分割協議の結果により、相続人(債務者)が無資力になると、詐害行為に該当する可能性があります。

なぜなら、共有していた相続財産を遺産分割協議により他の相続人に譲ったことで、相続人(債務者)が借金を返済できない状態になっているからです。

本来であれば、相続財産から借金を返済できたにもかかわらず、遺産分割協議によって無資力となり、返済ができなくなっています。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |長男・二男

▼相続財産

預貯金|1,000万円

▼二男の資産状況

預貯金|なし
借金 |100万円
※2か月前から支払いを滞納

▼遺産分割協議

長男|1,000万円

二男は相続財産全部を長男に譲った結果、無資力になっています。


遺産分割協議の結果により相続人(債務者)が無資力になる場合、詐害行為の条件1つ目を満たすことになります。

注意無資力とは0円という意味ではなく、弁済するのに十分な資産が無い状態のこと。

2-2.債務者が債権者を害すると知っていた

詐害行為の条件2つ目は、債務者が債権者を害すると知っていたです。

相続人(債務者)が遺産分割協議の結果により、債権者を害すると知っていた場合、詐害行為に該当する可能性があります。

上記の「害すると知っていた」とは、積極的に損害を与える意思があったかではありません。遺産分割協議の結果、債権者に損害が生じると分かっていたかどうかです。


▼相続財産

預貯金|1,000万円

▼債務者の資産状況

預貯金|なし
借金 |100万円

▼遺産分割協議

債務者|何も取得しなかった

債務者の資産状況では、相続財産を取得しなければ借金を返済できないことは、通常であれば分かる状態です。
したがって、債権者を害すると知っていたと判断される可能性があります。


遺産分割協議の結果により債権者への支払いができなくなると分かっている場合、詐害行為の条件2つ目を満たすことになります。

2-3.共同相続人も債権者を害すると知っていた

詐害行為の条件3つ目は、共同相続人も債権者を害すると知っていたです。

共同相続人(受益者)も遺産分割協議の結果により、債権者を害すると知っていた場合、詐害行為に該当する可能性があります。

相続人(債務者)だけでなく、財産を取得する側の共同相続人も、その結果を認識できていたかどうかです。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |長男・二男
※長男と二男は同居している

▼相続財産

預貯金|1,000万円

▼二男の資産状況

預貯金|なし
借金 |100万円
※6か月前から支払いを滞納

▼遺産分割協議

長男|1,000万円

長男と二男は同居しており、二男が借金を滞納していると長男も知っていました。
このような事情がある場合、長男も債権者を害すると知っていたと判断される可能性があります。


遺産分割協議の結果により、債務者が債権者へ支払いできなくなると共同相続人も認識していた場合、詐害行為の条件3つ目を満たすことになります。

3.遺産分割協議が詐害行為の条件を満たさないケース

前章では、遺産分割協議が詐害行為に該当する条件を説明したので、勘違いしやすいケースについても説明していきます。

相続人(債務者)が相続財産を取得しないからといって、すべてが詐害行為に該当するわけではありません。

3-1.相続人(債務者)に資産があるなら問題ない

相続人(債務者)が遺産分割協議で財産を取得しなくても、遺産分割協議の時点で借金を返済できる資産を保有しているなら詐害行為には該当しません。

なぜなら、遺産分割協議の結果により無資力になるわけではなく、債権者にも損害はないからです。

相続財産を取得しなかったこと自体ではなく、「その結果として返済不能になるかどうか」が判断のポイントになります。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |長男・二男

▼相続財産

預貯金|1,000万円

▼二男の資産状況

預貯金|300万円
借金 |100万円

▼遺産分割協議

長男|1,000万円

遺産分割協議により長男が全財産(1,000万円)を取得しても、二男は自分の預貯金(300万円)で借金を返済できるので、無資力には該当しません。


遺産分割協議により相続財産を譲っても、相続人(債務者)が無資力にならなければ、相続財産を取得しなくても詐害行為には該当しません。

3-2.相続財産を取得しなくても返済に支障がない

相続人(債務者)に預貯金がなくても、安定した収入があり、遺産分割協議の時点で滞納もなく返済できていれば、相続財産を取得しなかったとしても、「債権者を害すると知っていた」とは判断されにくいでしょう。

なぜなら、毎月返済できているにも関わらず、遺産分割協議が詐害行為に該当してしまうと、相続人同士が自由に協議できなくなるからです。

そもそも債権者は、債務者の収入や返済能力を考慮したうえで金銭を貸しているはずです。そのため、相続財産を取得しなかったとしても、直ちに返済計画に影響が生じるとはいえません。


▼相続財産

預貯金|1,000万円

▼債務者の資産状況

預貯金|なし(給料は毎月30万円)
借金 |100万円(月2万円払い)
※毎月の給料で返済はできている

▼遺産分割協議

債務者|何も取得しなかった

債務者に預貯金はありませんが、毎月の給料から返済はできており、相続財産を取得しなくても返済できる状態です。
したがって、相続財産を取得しなくても、債権者を害すると知っていたとは判断されにくいでしょう。


相続人(債務者)が相続財産を取得しなくても、毎月の返済ができている以上、債権者を害すると知っていたとは判断されにくいです。

3-3.共同相続人が債権者を害すると状況的に知り得ない

共同相続人(受益者)が、遺産分割協議の結果により債権者を害することを、状況的に知り得ない場合、詐害行為に該当する可能性は低いでしょう。


▼家族構成

被相続人|父親
相続人 |長男・二男
※二男は父親と絶縁していた
※長男と二男は別居

▼相続財産

預貯金|1,000万円

▼二男の資産状況

預貯金|なし
借金 |100万円
※6か月前から支払いを滞納

▼遺産分割協議

長男|1,000万円

長男と二男は別居しており、二男の生活状況や借金の有無について把握していませんでした。また、二男からは「父親とは絶縁しており、相続財産を取得するつもりはない」と説明を受けていました。

このような事情がある場合、共同相続人である長男が、遺産分割協議によって債権者を害することになると知り得たとはいえず、詐害行為と判断されない可能性が高いでしょう。


遺産分割協議の結果により、債務者が債権者へ支払いできなくなるとしても、その事情を共同相続人が知り得ない場合には、詐害行為に該当しないと考えられます。

4.遺産分割協議が詐害行為に該当した場合の扱い

遺産分割協議が詐害行為に該当した場合についても説明していきます。

  • 詐害行為に該当しても直ちに無効ではない
  • 取り消すには債権者からの訴訟が必要
  • 訴訟で遺産分割協議が取り消された場合

遺産分割協議が詐害行為に該当するケースは少ないですが、確認しておいて損はありません。

4-1.詐害行為に該当しても直ちに無効ではない

相続人(債務者)の遺産分割協議が詐害行為に該当したとしても、直ちに無効とはならないです。

詐害行為に該当する場合でも、債権者が行使できるのは「詐害行為取消権」であり、取消権が行使されない限り、遺産分割協議の効力自体に影響はありません。

共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となる。

出典:裁判所ウェブサイト(平成11年6月11日最高裁判所第二小法廷判決)

あくまでも取消しの対象となるにとどまり、詐害行為に該当したからといって、当然に遺産分割協議が無効になるわけではない点には注意が必要です。

4-2.取り消すには債権者からの訴訟が必要

詐害行為取消権の仕組み

債権者が遺産分割協議を詐害行為として取り消したくても、口頭や書面での意思表示では取り消せません。

詐害行為取消権を行使するには、受益者(共同相続人)を相手に訴訟を提起する必要があります。

(詐害行為取消請求)
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。(省略)
(被告及び訴訟告知)
第四百二十四条の七 詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者
二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者

出典:e-Govウェブサイト(民法424条1項・424条の7)

※転得者とは、受益者から財産を取得した人のこと。

そのため、詐害行為に該当するとしても、債権者が直ちに遺産分割協議を取り消せるわけではなく、実際に取消しが認められるかどうかは、訴訟を通じて判断されることになります。

4-3.訴訟で遺産分割協議が取り消された場合

詐害行為取消訴訟により遺産分割協議が取り消された場合について簡単に説明します。

分かりやすくするため、相続財産が預貯金だけのケースと、不動産だけのケースを例題にしています。

相続財産が預貯金だけのケース

▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男

▼法定相続分
長男|2分の1
二男|2分の1

▼相続財産
預貯金|1,000万円

▼二男の状況
借金 |700万円

▼遺産分割協議
長男|1,000万円

この遺産分割協議が詐害行為として取り消された場合、債権者は、「二男が本来取得できたはずの相続分」を前提に請求できます。

1,000万円×2分の1(二男の法定相続分)
=500万円

二男の借金は700万円ですが、法定相続分に該当する500万円が詐害行為取消権の対象です。

相続財産が不動産だけのケース

▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男

▼法定相続分
長男|2分の1
二男|2分の1

▼相続財産
不動産|評価額2,000万円

▼遺産分割協議
長男|不動産を単独取得
※長男に名義変更済み

▼二男の状況
借金 |300万円

上記の場合、長男の相続登記を抹消したうえで、長男と二男の共有名義に変更して、二男の共有持分を差し押さえる流れになります。

5.相続に関する他制度と詐害行為の関係について

前章までで、遺産分割協議と詐害行為の関係について説明しました。

そこで、相続に関する他制度と詐害行為の関係についても、簡単にまとめておきました。

5-1.相続放棄は詐害行為取消権の対象とならない

遺産分割協議により相続財産を取得しない場合と、相続放棄により相続財産を取得しない場合、どちらも相続人(債務者)は相続財産を取得していないので、結果は同じと言えます。

ですが、詐害行為に該当するかという点では違いがあります。

遺産分割協議と違い、相続放棄は詐害行為取消権の対象となりません。

以下は、最高裁の判例です。

 相続の放棄は、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならない。

出典:裁判所ウェブサイト(昭和49年9月20日最高裁判所第二小法廷判決)

相続放棄は財産を目的とする法律行為ではなく、相続に関する身分行為なので、詐害行為取消権の対象から除かれています。

相続放棄と詐害行為については、下記の記事で詳しく説明しているので参考にしてください。

5-2.遺留分侵害額請求は代位行使の問題になる

被相続人が遺言書で相続財産の帰属先を決めていた場合、原則として遺産分割協議は行われません。

ただし、遺言書により相続人(債務者)が財産を取得できなかった場合、遺留分が問題になります。

なぜなら、相続人(債務者)が遺留分を侵害されているなら、遺留分侵害額請求権の行使により、財産を取得できるからです。

意図的に遺留分侵害額請求権を行使しない場合、詐害行為ではなく債権者による代位行使の問題になります。

興味のある方は、以下の記事で説明していますので参考にしてください。

6.遺産分割協議と詐害行為に関するQ&A

遺産分割協議と詐害行為について、よくある質問と回答を説明します。

借金があることを知らずに遺産分割協議をした場合でも詐害行為になりますか?

原則として、債務や債権者を害する認識がなければ詐害行為とは評価されないです。ただし、状況によっては認識があったと判断される可能性はあります。

法定相続分どおりの遺産分割協議でも詐害行為になりますか?

法定相続分どおりであれば、通常は詐害行為に該当しにくいと考えられます。

債権者は必ず詐害行為取消訴訟を起こしますか?

実際に訴訟を起こすかどうかは債権者の判断によります。訴訟費用や回収の見込みなどから、起こさないケースも少なくありません。

遺産分割協議よりも相続放棄の方が安全でしょうか?

詐害行為だけで判断するなら相続放棄の方が安全と言えます。ただし、相続放棄にもデメリットはあるので、一概には判断できません。

結論|条件を満たすと遺産分割協議も詐害行為になる

遺産分割協議は、相続人同士が自由に話し合って決めることができる手続きです。

そのため、遺産分割協議をしたからといって、直ちに詐害行為になるわけではありません。

詐害行為に該当するかどうかは、

  • 相続人(債務者)が無資力だったか
  • 債権者を害すると認識していたか
  • 共同相続人もその事情を知っていたか

といった 複数の条件をすべて満たすかどうかで判断されます。

仮に遺産分割協議が詐害行為に該当したとしても、

  • 遺産分割協議が自動的に無効になるわけではない
  • 債権者が訴訟を提起しなければ取り消されない

といった点も重要です。

遺産分割協議が詐害行為に該当するかどうかは、結果だけで決まるものではなく、当時の状況や認識が大きく影響します。

まずは、この記事で紹介した原則と例外を踏まえ、ご自身のケースがどこに当てはまるのかを整理してみてください。

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