任意後見人が本人の居住用不動産を売却するのに、家庭裁判所の許可は不要です。
なぜなら、任意後見契約において、自らの意思で不動産の処分権限を与えているからです。
ただし、代理権目録に記載されているかの確認や、任意後見監督人への相談は忘れずに行いましょう。実際に売却する際は本人の利益を害さないように慎重な判断も必要です。
今回の記事では、任意後見人による不動産売却について説明しているので、売却をする際の参考にしてください。
目次
1.代理権目録に記載されているか
まず初めに確認するのは、任意後見契約の代理権目録に居住用不動産の処分が記載されているかです。
当然ですが、代理権目録に記載されていなければ、任意後見人は処分することができません。
任意後見人が代理できる行為は、代理権目録に記載されている行為のみです。
代理権目録が1号様式であれば住居に関する事項をチェック、2号様式であれば該当する記載があるかチェックしてみてください。
以下は1号様式の住居に関する部分です。
代理権目録が1号様式であれば、居住用不動産の処分にチェックが入っています。
2.本人の意思で処分権限を与えている
法定後見人が本人の居住用不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が必要となっています。
それに対して、任意後見人が本人の居住用不動産を売却するのに、家庭裁判所の許可は不要となっています。
家庭裁判所の許可が不要になっている理由としては、任意後見契約において本人が自らの意思で処分権限を与えているからです。
例えば、本人の老後プランで介護施設等に入所する際は、居住用不動産を処分しておくとします。ですが、処分するのに家庭裁判所の許可が必要になると、本人の意思よりも家庭裁判所の許可の方が重要になってしまいます。
あくまでも、本人の意思を尊重するのが任意後見となります。
関連記事を読む『成年後見人が不動産売却をするには許可や同意が必要』
3.任意後見監督人の同意は必要か
居住用不動産を売却するのに監督人の同意は必要なのでしょうか。ちなみに、法定後見では後見監督人が選任されているときは、監督人の同意が必要とされています。
任意後見では任意後見監督人は必ず存在します。ただし、法定後見と違い同意は基本的に不要となっています。
例外は、任意後見契約で同意特約を定めている場合です。
3-1.任意後見契約で同意特約を定めている
任意後見契約で居住用不動産を売却する際は、任意後見監督人の同意を書面で得ることを特約で定めることができます。
同意特約を定めていれば、任意後見監督人の同意が必要となります。
以下は同意特約の見本です。乙が任意後見人となります。
同意を要する特約目録
乙が以下の行為を行うには、個別に任意後見監督人の書面による同意を要する。
1.居住用不動産の購入及び処分
2.・・・
3.・・・
3-2.任意後見監督人に相談はした方がいい
同意特約を定めていない場合であっても、任意後見監督人に相談はした方が良いです。
居住用不動産を売却する等の重大な行為をする際は、任意後見監督人と相談や協議をしながら進めていく方が安全です。
4.任意後見人は善管注意義務を負う
任意後見契約も委任契約なので、任意後見人は善管注意義務を負っています。
任意後見人が不動産を売却する代理権を与えられていても、本人の利益を害するような売却はするべきではないです。
不動産の売却により本人に損害を与えると、本人の親族とトラブルになる可能性もあります。不動産の売却については慎重に判断しましょう。
以下のよう売却は控えた方がいいです。
- 知人の不動産業者からしか見積を取っていない
- 一般的な不動産売買価格よりも安い金額で売却
4-1.知人の不動産業者からしか見積もりを取っていない
知人の不動産業者に売却を依頼するのは、法律上禁止されていません。
ただし、知人の不動産業者にしか見積もりを依頼していないと、知り合いに便宜を図ったと疑われてしまいます。
*不動産業者の報酬は仲介手数料。
疑いを避けるためにも、複数の不動産業者から見積もりを取っておきましょう。
4-2.一般的な不動産売買価格よりも安い金額で売却
一般的な不動産売買価格よりも安い金額で売却すると、本人に損害を与えたと判断されるかもしれません。
不動産を処分する際は、本人の利益の為に1円でも高く売れるように努力しましょう。もちろん、急な出費に対応するために、売却を急ぐ等の理由があれば話は別です。
5.不動産売却には登記事項証明書が必要
実際に不動産を売却する際には、任意後見人の代理権を証明するために登記事項証明書が必要となります。
登記事項証明書には代理権目録も記載されていますので、不動産業者や取引の相手方も確認することができます。
登記事項証明書の取得方法は下記の記事をご覧ください。
関連記事を読む『後見登記事項証明書を郵送請求する方法を分かりやすく説明』
6.さいごに
任意後見人が本人の居住用不動産を売却するのに、家庭裁判所の許可は不要です。もちろん、代理権目録に記載されていることが前提となります。
ただし、実際に不動産を売却する際は、任意後見監督人と慎重に相談をしながら進めてください。
任意後見人には善管注意義務があるので、本人の利益を害するような売却は避けなければなりません。損害を与えてしまうと賠償責任が発生する恐れもあります。
あらかじめ本人と不動産売却について、しっかりと話し合っておいてください。