公正証書遺言を撤回する方法は3つある

公正証書遺言の撤回
  • URLをコピーしました!

公正証書遺言を作成しても、遺言者は自由に撤回できます。

ただし、決められた方法以外では、効力が発生しません。

以下の3つが、公正証書遺言の撤回方法です。

  • 遺言の方式
  • 新たな遺言書の内容が抵触
  • 遺言者の行為が内容に抵触

みなし規定による撤回もあるので、間違えないように注意してください。

目次

1.遺言の方式で公正証書遺言を撤回

公正証書遺言を撤回する方法1つ目

1つ目の方法は、遺言の方式で公正証書遺言を撤回するです。

公正証書遺言を作成しても、遺言者は遺言の方式に従っていつでも撤回できます。

以下は、民法の条文です。

(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
出典:e-Govウェブサイト(民法1022条)

遺言の方式は指定されていないので、公正証書遺言または自筆証書遺言どちらの方式でも、遺言の撤回はできます。

1-1.公正証書遺言の方式で手続き

公正証書遺言の方式で撤回するなら、公証役場にて作成時と同じ手続きをします。

  • 公証人が作成
  • 証人を2人用意
  • 公証人手数料

以下は、公正証書遺言の方式で撤回する場合の文言です。

遺言者は、令和〇年〇月〇日、〇〇法務局所属公証人〇〇作成同年第〇〇号公正証書遺言による遺言者の遺言の全部を撤回する。

上記公正証書に遺言者と証人2人が署名捺印します。

公証人手数料は1万1,000円です。

1-2.自筆証書遺言の方式で手続き

自筆証書遺言の方式でも、公正証書遺言の撤回はできます。

以下は、自筆証書遺言の方式で撤回する場合の文言です。
※公正証書遺言と文言は同じ。

遺言者は、令和〇年〇月〇日、〇〇法務局所属公証人〇〇作成同年第〇〇号公正証書遺言による遺言者の遺言の全部を撤回する。

令和〇年〇月〇日

遺言者 〇〇 〇〇 

自筆証書遺言の要件を満たす必要があるので、以下の点に注意してください。

  • 遺言者の手書き
  • 作成日の記入
  • 遺言者の署名捺印

上記が一つでも欠けていると、公正証書遺言の撤回は不成立となります。

2.新たな遺言の内容で公正証書遺言を撤回

公正証書遺言を撤回する方法2つ目

2つ目の方法は、新たな遺言の内容で公正証書遺言を撤回するです。

新しい遺言書を作成すると、結果として公正証書遺言を撤回できます。

以下は、民法の条文です。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

出典:e-Govウェブサイト(民法1023条)

新しい遺言と古い遺言の内容が抵触するときは、抵触する部分については撤回したとみなされます。

2-1.遺言の内容が抵触すると後の遺言が優先

前の遺言と後の遺言が抵触すると前の遺言は撤回

遺言の内容が抵触すると、後の遺言が優先されます。

例えば、長男に不動産を相続させる旨の遺言書を作成していたとします。

新しい遺言書の内容が、次男に不動産を相続させるであれば、長男に不動産を相続させる旨の遺言書は撤回したとみなされます。

ちなみに、新しい遺言書は公正証書遺言・自筆証書遺言のどちらでも可能です。

2-2.一部分だけ抵触すると手続きが複雑

新たに作成した遺言書の内容が、公正証書遺言の一部分だけに抵触すると、相続手続きが複雑になります。

なぜなら、抵触していない部分に関しては、公正証書遺言を使用するからです。

【事例】

公正証書遺言|不動産は長男、預貯金は二男
新たな遺言書|不動産は二男

不動産の相続手続きでは、新たな遺言書を使用します。

一方、預貯金の相続手続きでは、公正証書遺言を使用します。

相続手続きを簡単にするなら、公正証書遺言を撤回したうえで、新たな遺言書を作成した方が良いでしょう。

3.抵触する行為で公正証書遺言を撤回

公正証書遺言を撤回する方法3つ目

3つ目の方法は、遺言者の行為により公正証書遺言を撤回するです。

遺言者が遺言書の内容に抵触する行為をすると、抵触する部分は撤回したとみなされます。

以下は、民法の条文です。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

出典:e-Govウェブサイト1023条

遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触するときは、その抵触する部分については、生前処分その他の法律行為で遺言を撤回したものとみなす。

遺言書に記載した財産であっても、遺言者は自由に処分できます。

2-1.遺言者の行為が優先される

遺言作成後の行為が抵触すると撤回

相続財産を生前に処分する行為も、遺言者の意思表示なので優先されます。

例えば、長男に不動産を相続させる旨の遺言書を作成していたとします。

その後、不動産を二男に贈与すると、長男に不動産を相続させるという部分は、撤回したとみなされます。

気を付ける点としては、自分の行為が遺言書に抵触すると気付かず、撤回とみなされる可能性がある点です。

公正証書遺言を作成した後に相続財産を処分する場合、内容をしっかりと確認しておいてください。

3-2.抵触するかどうかの判断は難しい

遺言者の行為が公正証書遺言の内容に抵触するのか、判断するのが難しいケースもあります。

【事例】

公正証書遺言|不動産は長男、預貯金は二男
遺言者の行為|不動産を売却

遺言書の作成後に不動産を売却しているので、長男に関する部分が抵触します。

ただし、売却によって得た金銭を、長男に相続させる考えだったかもしれません。そうであれば、遺言者の行為は内容に抵触していないと考えられます。

遺言者の考えは本人しか分からないので、撤回する意思がなければ、新たに遺言書を作成した方が良いです。

4.公正証書遺言を撤回するケース

公正証書遺言を作成した後に、撤回するケースは主に3つあります。

  • 作成後に配偶者と離婚した
  • 相続人や受遺者が先に亡くなった
  • 相続財産の内容に変更があった

上記に該当しているなら、撤回が必要かもしれません。

4-1.遺言書の作成後に配偶者と離婚した

公正証書遺言の内容が、配偶者に財産を残すだった場合、撤回しないと不都合が生じます。

なぜなら、配偶者と離婚しても、原則として遺言書の内容は有効だからです。

【事例】

遺言者|A
内容 |配偶者(B)に全財産を残す
作成日|令和2年4月22日
離婚日|令和6年12月15日

離婚後にAが亡くなると、遺言書にしたがってBが全財産を取得します。

離婚した配偶者に財産を残したい場合は別ですが、公正証書遺言は忘れずに撤回しておきましょう。

4-2.相続人や受遺者が先に亡くなった

公正証書遺言に記載した相続人や受遺者が先に亡くなった場合、当該相続人等が取得する予定だった財産は相続人全員で相続します。
※予備的記載がある場合を除く。

【事例】

遺言者|A
受遺者|B
相続人|C・D
内容 |Bに不動産、CとDに預貯金

Bが先に亡くなると、Bに遺贈する予定だった不動産は、CとDが相続します。

したがって、財産の承継者に希望があれば、遺言書を撤回したうえで改めて作成する必要があります。

4-3.相続財産の内容に変更があった

公正証書遺言を作成した後に、相続財産の内容が変更した場合、撤回しないと不都合が生じるケースもあります。

【事例】

相続財産|定期預金(5,000万円)
     預貯金(200万円)
相続人 |配偶者と甥(弟の子)
遺言書 |定期預金は配偶者、預貯金は甥
内容変更|定期預金を解約して不動産を購入

相続財産の内容が変わっているので、新たに遺言書を作成しないと、不動産は遺産分割協議による取得者を決めます。

複数の相続人に財産を分けて承継させる場合、相続財産の変更には注意してください。

5.公正証書遺言の撤回に関する注意点

公正証書遺言の撤回に関する注意点を4つ説明します。

  • 自筆証書遺言にはリスクあり
  • 破棄では効力が発生しない
  • 撤回権の放棄は認められない
  • 相続発生後に事実上の撤回

細かい点ですが、確認しておいて損はありません。

5-1.自筆証書遺言にはリスクがある

自筆証書遺言の方式による撤回、新たに作成した自筆証書遺言の内容による撤回、どちらであっても法律上は有効です。

ただし、自筆証書遺言での撤回には、以下のようなリスクがあります。

  • 形式不備により不成立
  • 紛失により確認できない

形式不備により不成立

自筆証書遺言が形式不備により不成立だと、撤回自体も不成立となります。

したがって、遺言者が亡くなると、公正証書遺言の効力が発生します。

自筆証書遺言で公正証書遺言を撤回するなら、形式不備には十分に注意してください。

紛失により確認できない

自筆証書遺言を紛失してしまうと、撤回を確認できません。

結果として、公正証書遺言の効力が発生します。紛失を防ぐなら、法務局に保管しておきましょう。

5-2.公正証書遺言の破棄は意味がない

間違えやすい撤回方法として、公正証書遺言の破棄が挙げられます。

なぜ間違いやすいかというと、遺言者が遺言書を故意に破棄すると、撤回とみなす規定は存在するからです。

以下は、民法の条文。

(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第千二十四条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

出典:e-Govウェブサイト(民法1024条)

ですが、公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているので、手元にある正本(謄本)を破棄しても、遺言書の破棄にはなりません。単なるコピーを破棄しているだけです。

公正証書遺言は破棄による撤回ができないので、間違えないように注意してください。

5-3.撤回する権利を放棄しても無効

公正証書遺言を作成しても、遺言者はいつでも撤回できます。

そして、撤回する権利は放棄できません。

以下は、民法の条文です。

(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第千二十六条 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
出典:e-Govウェブサイト(民法1026条)

公正証書遺言を撤回しない旨を、推定相続人や受遺者と約束しても、撤回するのは自由です。

撤回権の放棄が禁止されているので、約束も無効になります。

5-4.相続発生後に事実上の撤回

公正証書遺言を撤回できるのは遺言者なので、相続が発生した後(遺言者が亡くなった後)は認められません。

ただし、相続人全員(受遺者含む)の同意があれば、事実上の撤回は可能です。

遺言書は遺言者の意思ですが、相続人全員(受遺者含む)が内容に反対であれば、遺産分割協議により財産の取得者を決めれます。

つまり、結果的に公正証書遺言を撤回したのと同じです。

遺言書と遺産分割協議については、下記の記事で詳しく説明しています。

6.まとめ

今回の記事では「公正証書遺言の撤回」について説明しました。

作成した公正証書遺言を、遺言者が撤回する方法は3つあります。

  • 遺言の方式で撤回
  • 新たな遺言書の内容が抵触
  • 遺言書の内容に抵触する行為

ただし、公正証書遺言を破棄しても、撤回になりません。原本は公証役場に保管されているからです。

公正証書遺言の作成後に、相続人や受遺者が亡くなった場合や、相続財産の内容が変更した場合は、撤回が必要か検討しておきましょう。

目次