遺産分割協議書に金額を書かないケースは珍しくありません。
なぜなら、遺産分割協議書の書き方に、法律上のルールはないからです。金額を書いてなくても、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議は有効に成立しています。
もちろん、後日のトラブルを防ぐ目的で、遺産分割協議書に金額を記載するケースもあります。
本記事では、
- 金額を書かなくても有効なのか
- 実務上、書かないことが多いケース
- あえて書いた方がよいケース
- 書かない場合の具体的な対策
について説明しているので、遺産分割協議書を作成する際の参考にしてください。
1.遺産分割協議書に金額を書かなくても有効に成立
遺産分割協議書に「金額」を記載しなくても、遺産分割協議自体は有効に成立しています。
なぜなら、遺産分割協議の成立要件は、相続人全員の参加と合意であり、書面の書き方は関係ないからです。
※書面を作成しなくても遺産分割協議は成立する。
遺産分割協議書に金額が書かれてなくても、「誰が」「どの財産」を取得するのか分かれば、相続手続きでも使用できます。
実際、相続登記などで使用する遺産分割協議書に、不動産の評価額や時価は記載していないケースが多いです。
もちろん、金額を書かないからといって、金額を確認しなくて良いというわけではありません。金額を確認したうえで、書面には書かないケースもあるだけです。
次章では、実務上「金額を書かないことが一般的なケース」を具体的に説明していきます。
2.遺産分割協議書に金額を書かないケース
遺産分割協議書に金額を書かない主なケースを4つ説明します。
- 残っている現金が少額
- 相続登記に使用する
- 預貯金残高のズレを防ぐ
- 一人がすべての財産を取得
なぜ金額を書かないのかについても説明しているので、参考にしてください。
2-1.手元に残っている現金が少額である場合
現金を遺産分割するのに相続手続きは不要なので、現金が少額であれば書かないケースが多いでしょう。
※現金自体を書かないケースも多い。
以下は、遺産分割協議書に現金の額を記載しない場合です。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |A・B
▼相続財産
不動産|2,000万円
預貯金|1,000万円
現金 |3万円
遺産分割協議書
(省略)
Aは、被相続人が保有する現金をすべて取得する。
上記の書き方であっても、誰が現金を取得するかは分かります。
一般的に、高額な現金が残っている可能性は低いので、わざわざ金額を書かないことが多いです。
関連記事を読む『遺産分割協議書に現金を書くかどうかは相続人同士で決める』
2-2.相続登記申請を目的として作成する場合
相続登記のために遺産分割協議書を作成する場合、金額を書かないケースが多いでしょう。
なぜなら、法務局は「誰が」「どの不動産」を取得するのか、遺産分割協議書で確認できれば問題ないからです。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |A・B
▼相続財産
不動産|2,000万円
預貯金|1,000万円
▼遺産分割協議
A|不動産
B|預貯金
遺産分割協議書
Aは、下記の不動産を取得する。
(土地)
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番
地目 宅地
地積 ○○㎡
不動産の価値(時価)が2,000万円だったとしても、相続登記で使う遺産分割協議書に金額の記載は不要です。
法務局に提出する遺産分割協議書に金額の記載がなくても、相続登記は問題なくできるので安心してください。
遺産分割協議書に不動産のみを記載するケースについては、下記の記事で説明しています。
関連記事を読む『遺産分割協議書に不動産のみを記載しても問題ないのか?』
2-3.預貯金残高とのズレを防ぎたい場合
預貯金残高は変動する可能性があるので、あえて金額を書かないケースも少なくありません。
※利息による増加や公共料金の引き落としなど。
金額を書かない場合は、口座単位で取得する人を記載するや、取得する割合を記載するなどします。
▼相続財産
甲銀行|200万円
乙銀行|1,000万円
▼遺産分割協議
A|700万円
B|500万円
遺産分割協議書
次の預金は、Aが取得する。
甲銀行 ○○支店 普通預金
口座番号 ○○○○○○○
口座名義 被相続人
次の預金は、Aが2分の1、Bが2分の1の割合で取得する。端数が生じたときはAが端数を取得する。
乙銀行 ○○支店 普通預金
口座番号 ○○○○○○○
口座名義 被相続人
上記のように記載しておけば、残高に変動があっても問題ありません。
預貯金口座の残高を遺産分割する場合、細かい金額を書かない方が、スムーズに手続きできるかもしれません。
2-4.一人の相続人がすべての財産を取得する場合
一人の相続人がすべての財産を取得する場合、金額を書かないケースもあります。
なぜなら、すべての財産(全財産)と書いてあれば、金額の記載が無くても意味は通じるからです。
▼家族構成
被相続人|A
相続人 |配偶者B・子C
▼相続財産
不動産|2,000万円
預貯金|1,000万円
▼遺産分割協議
B|不動産・預貯金
遺産分割協議書
(省略)
Bは、被相続人が保有する財産をすべて取得する。
上記の記載でも、配偶者であるBが全財産を取得すると分かります。
一人の相続人がすべての財産を取得する場合、金額を書いて特定しても良いですが、漏れが生じると面倒になるので、すべての財産(全財産)という記載にした方が楽かもしれません。
3.遺産分割協議書に金額を書いた方が良いケース
前章とは逆に、遺産分割協議書に金額を書いた方が良いケースも説明していきます。
- 高額な相続財産を分割する場合
- 各相続人の取得額に差がある場合
- 相続人の間で代償金の支払いがある場合
法律上の問題ではなく、後日のトラブルを防ぐ目的があります。
3-1.高額な相続財産を分割する場合
被相続人の相続財産が高額な場合は、遺産分割協議書に金額を記載した方が良いでしょう。
なぜなら、金額が高額だと、後から認識のズレによるトラブルが起きやすくなるからです。
▼相続財産
預貯金A|1,040万円
預貯金B|1,035万円
預貯金C|970万円
預貯金D|950万円
▼遺産分割協議
長男|預貯金AとB
二男|預貯金CとD
遺産分割協議書
長男は預貯金AとBを取得する。
二男は預貯金CとDを取得する。
二男は預貯金の残高を知らなかったが、長男から各口座とも約1,000万円だと聞いていたので、遺産分割協議に合意した。
ところが、後になって長男の方が100万円以上多いと分かった。長男に差額を渡すよう要求したが、遺産分割協議は終わっていると相手にされなかった。
遺産分割協議書に金額を書いておけば、認識のズレは起こりにくいので、トラブルの可能性も低くできます。
相続財産が高額な場合は、認識を一致させるためにも、金額を書いた方が良いでしょう。
3-2.各相続人の取得額に差が生じる場合
相続人ごとの取得額に大きな差が生じる場合、遺産分割協議書に金額を書いた方が良いでしょう。
なぜなら、後になって「そんなに差があると知らなかった」と主張してくる人もいるからです。
▼相続財産
預貯金A|2,000万円
預貯金B|1,000万円
▼遺産分割協議
長男|預貯金A
二男|預貯金B
遺産分割協議書
長男は預貯金Aを取得する。
二男は預貯金Bを取得する。
長男は二男に預貯金Aの方が多いと説明していましたが、二男は預貯金Bだけで大丈夫と言ったので、上記のように遺産分割協議しました。
ところが、後になって二男から「預貯金Aが2,000万円だとは知らなかった」と、差額の支払いを要求してきた。
遺産分割協議書に金額を書いておけば、取得額の差を知らなかったと主張するのは難しいので、余計なトラブルも防げます。
取得額に差のある内容で合意したことを証明するためにも、遺産分割協議書に金額を書いた方良いケースはあります。
3-3.相続人の間で代償金の支払いがある場合
特定の相続人が不動産などを取得し、他の相続人に対して代償金を支払う場合は、金額を書いておいてください。
なぜなら、金額を書いておかないと、支払い義務の内容がはっきりしないからです。
▼相続財産
不動産|1,000万円
▼遺産分割協議
長男|不動産
長男は二男に対して500万円を支払う
遺産分割協議書
長男は不動産を取得する。
長男は不動産を取得する代償として、二男に代償金を支払う。
上記の遺産分割協議書を見ても、代償金がいくらなのか分かりません。
万が一、長男と二男が代償金の支払いで揉めると、二男が不利になる可能性もあります。
遺産分割協議の内容に代償金の支払いがある場合は、金額をしっかりと書いておいてください。
曖昧な書き方をしていると、トラブルが起きた際に困ることになります。
以下の記事では、代償分割について詳しく説明しているので、参考にしてください。
関連記事を読む『遺産分割協議書には代償分割による支払いであると分かるように記載』
4.遺産分割協議書に金額を書かないなら気を付ける点
遺産分割協議書に金額を書くかは、最終的に相続人同士が決めることです。
ただし、遺産分割協議書に金額を書かないなら、気を付ける点もあるので説明していきます。
4-1.記載の有無に関わらず金額の認識は一致させる
遺産分割協議書に金額を書くかどうかに関わらず、金額の認識は一致させてください。
なぜなら、相続人同士で金額の認識が違う場合もあるからです。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男
※父親と長男は同居していた
▼相続財産
預貯金|A口座
預貯金|B口座
※二男は口座の残高を知らない
▼遺産分割協議
長男|A口座
二男|B口座
二男は長男からA口座とB口座の残高は同じぐらいだと聞かされていたので、金額を確認せず遺産分割協議書にも記載しなかった。
ですが、実際はA口座の方が金額は多かった。
遺産分割協議書に金額を書かない場合でも、金額の認識は一致させておかないと、後から金額の不一致でトラブルになる可能性もあります。
預貯金口座であれば、相続発生時の残高証明書を取得すれば、いくら残っているかは確認できます。
※遺産分割協議前に記帳するでも確認できる。
相続財産の内容(金額)を確認したうえで、遺産分割協議書に署名捺印した方が安全です。
4-2.手続用の遺産分割協議書とは別の書面に金額を書く
相続登記や銀行手続きのために遺産分割協議書を作成する場合、誰がいくら取得したか金額を記載しないケースは少なくありません。
なぜなら、金額の記載がなくても手続き可能ですし、法務局や銀行の職員に金額を知られるのが嫌な人もいるからです。
ただし、手続用の遺産分割協議書に金額を書かない場合でも、別の書面に金額を書いて相続人同士で認識を一致させておいた方が良いでしょう。
※提出用とは別に保管用の遺産分割協議書を作っても良い。
相続手続きでは金額の記載が不要でも、相続人同士では金額の確認をしておいてください。
5.遺産分割協議書に金額を書かないに関するQ&A
遺産分割協議書に金額を書かないについて、よくある質問と回答を説明していきます。
遺産分割協議書に金額を書かないと、遺産分割協議は無効になりますか?
無効にならないです。相続人全員が分割内容に同意していれば、金額を書かなくても有効に成立しています。
相続人の一人だけが金額を把握していれば問題ありませんか?
お勧めできません。金額を書かない場合でも、相続人全員が財産内容を把握している状態が望ましいです。
金額を書かない遺産分割協議書でも、金融機関の手続きはできますか?
原則として可能ですが、口座の特定はできるように記載してください。
遺産分割協議書に金額を書かないことで、後から「聞いていない」と言われることはありますか?
金額の確認を省いた場合には言われる可能性があります。
相続税の申告で使う遺産分割協議書に、金額の記載は必須でしょうか?
必須ではないです。残高証明書などを添付するので、割合で記載されていても取得額は分かります。
6.まとめ
今回の記事では「遺産分割協議書に金額を書かない」について説明しました。
遺産分割協議は相続人全員の同意があれば成立するので、遺産分割協議書に金額を書いてなくても、法律上は問題ありません。
実務上でも、次のような場合は、金額を書かないケースが多いです。
- 相続登記などの手続用に作成する場合
- 残高が変動する預貯金を扱う場合
- 一人の相続人が全財産を取得する場合
一方、金額を書いた方が良いケースもあります。
- 高額な財産を分ける場合
- 取得額に差がある場合
- 代償金の支払いがある場合
法律上は問題なくても、トラブルを防ぐために金額を書いています。
重要なのは、遺産分割協議書に金額を書く・書かないではなく、相続人同士の認識が一致しているかです。
遺産分割協議書に金額を書かない場合でも、必要な確認を行っておけば、トラブルが発生する可能性は低いでしょう。



