受遺者が遺言執行者に指定されている場合、相続人に対する通知義務に注意してください。
なぜなら、通知義務違反により相続人に損害が発生すると、損害賠償請求される可能性があるからです。
たとえ相続人に遺留分が無くても、通知義務が免除されるわけではありません。
今回の記事では、遺言執行者の通知義務違反について説明しているので参考にしてください。
目次
1.遺言執行者は相続人に通知する義務がある
まず初めに、遺言執行者には複数の義務が存在します。
そして、義務の中には相続人に対する通知も含まれています。
- 遺言の内容を通知する義務
- 相続財産目録の交付義務
上記の義務について説明していきます。
1-1.遺言書の内容を相続人に通知する義務
遺言執行者が就任を承諾した場合、遺言書の内容を相続人に通知する義務を負います。
以下は、民法の条文です。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
相続人に対する通知義務なので、相続人が財産を取得するかどうかは無関係です。
また、相続人が遺留分を有していなくても、遺言の内容を通知する必要があります。
※兄弟姉妹等は遺留分を有していない。
一般的には、遺言書のコピーを相続人に郵送しています。
1-2.相続財産目録を相続人に交付する義務
遺言執行者は相続財産目録を作成して、相続人に交付する義務を負います。
(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
遺言書の内容が「特定の相続人に全部相続させる」や「第3者に全部遺贈する」だったとしても、相続財産目録を作成して相続人に交付する義務があります。
ただし、遺言書に記載されているのが相続財産の一部であれば、相続財産目録に記載するのも一部となります。
遺言執行者は遺言書に記載されていない相続財産については、記載する権利を有していないからです。
2.通知義務違反により相続人に損害は発生するのか?
相続人が遺言執行者に対して損害賠償請求するには、通知義務違反により損害が発生している必要があります。
当然ですが、損害が発生していなければ、損害賠償請求をすることはできません。
以下の項目では、相続人に損害が発生しそうなケースを考えていきます。
2-1.遺留分が侵害されているか確認する必要がある
相続人が遺留分を有しているのであれば、遺言書の内容は重要になります。
なぜなら、遺留分の侵害を調べるためにも、遺言書の内容を確認する必要があるからです。
遺言執行者が遺言書の内容を通知しなかったせいで、相続人が遺留分の侵害に気付けなければ損害が発生します。
遺留分を有する相続人に、遺言書の内容を通知するのは当然と言えます。
2-2.遺留分が無くても遺言書の内容を知る法的利益がある
相続人に遺留分が無くても、遺言書の内容を知る法的な利益はあります。
- 遺言書が存在しなければ相続できる
- 遺言書に記載されていない財産は相続する
遺言執行者が遺言書の内容を通知しなければ、自分で調べる費用が損害となります。
遺言書が存在しなければ相続できる
遺言書の内容が分からなければ、本当に遺言書が有るのか調べる必要があります。
なぜなら、遺言書が存在しなければ、遺留分が無くても相続できるからです。
遺言執行者が言っている内容が真実かどうかは、遺言書を確認しなければ分かりません。
遺言書に記載されていない財産は相続する
本当に遺言書が存在していても、遺言書に記載されていない財産が有れば、遺留分が無くても相続します。
もし遺言書から漏れている財産があれば、知らない間に相続している可能性もあります。
例えば、受遺者にとって不要な財産だけ遺言書から除かれていれば、遺留分の無い相続人は不要な財産だけ相続しています。
ですので、自分が相続していないことを確認するためにも、遺言書の内容を知る必要があります。
2-3.遺言書の存在を知らずに相続手続をする可能性
相続人が遺言書の存在(内容)を知らずに、相続手続をする可能性があります。
例えば、亡くなった人が不動産を所有していれば、相続登記の申請をするかもしれません。
相続登記の申請をするために、司法書士費用や登録免許税を支払っていれば、支払った費用が相続人の損害となります。
相続人の相続手続を止めるためにも、遺言執行者は遺言書の内容を通知する必要があります。
3.全部包括遺贈でも相続財産目録は交付するのか?
全財産を第3者に遺贈している場合、遺言書のコピーは渡すが相続財産目録は渡したくないと思うかもしれません。
ですが、全部包括遺贈であっても、相続財産目録の交付義務が免除されるわけではありません。
実際、過去には相続財産目録の交付義務違反により、遺言執行者が損害賠償請求された事例もあります。
※相続人は兄弟姉妹で第3者に全部包括遺贈しているケース。
遺留分の有無や遺贈の内容に関わらず、相続財産目録を交付しないことにより損害が発生すれば、遺言執行者が責任を負うことになります。
4.通知義務により遺言執行者の就任を辞退する人が増える?
法改正前は相続人に対する通知義務も無かったので、遺言執行者の指定を承諾していた人もいます。
ですが、法改正により遺言執行者の通知義務も発生するので、遺言書の効力発生後(死亡後)に就任を辞退する人が増えると考えられます。
遺言書の内容によっては相続人同士がトラブルになるので、関わり合いを避けたい人もいるでしょう。遺言執行者に指定されている人が、遺言書の文案作成に関わっているかもしれません。
遺言執行者に指定されていても、辞退する自由は認められています。
遺言執行者に指定されている人が就任を拒否した場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任申し立てができます。
関連記事を読む『遺言執行者の選任申立てを家庭裁判所にすることもできる』
5.遺言執行者の通知義務違反と遺言書の効力は別問題
意外と勘違いしている人が多いのですが、遺言執行者が通知義務に違反したからといって、遺言書は無効になりません。
遺言執行者の通知義務と遺言書の効力は別問題です。
遺言書の効力は遺言者が死亡した時点で発生しています。遺言執行者の通知義務は、遺言書の効力が発生した後の問題です。
遺言執行者が法定相続人に通知をしなくても、遺言書の効力により相続財産は移転します。
6.さいごに
遺言執行者には相続人に対する通知義務があります。
たとえ相続人に遺留分が無くても、遺言書の内容を知る法的利益は存在します。
通知義務に違反して相続人に損害が発生すると、遺言執行者は損害賠償請求される恐れがあります。
また、遺言執行者は相続財産目録を作成して交付する義務も負っているので、遺言執行者に指定されているなら注意してください。