法定後見制度の1つに「保佐」という類型があります。後見は有名なのでご存知な方も多いと思いますが、保佐は詳しく知らないのではないでしょうか。
実際の申立件数も後見が多数を占めているので、保佐があまり知られていないとも言えます。
保佐について知っておけば、判断能力が完全に低下する前であっても本人を支援することが可能です。
1.保佐の対象となる人
法定後見の3類型の内、どの類型にするかを決めるのは家庭裁判所です。ちなみに、3類型とは「後見」「保佐」「補助」のことです。保佐の対象となるのは、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な状況にある人です。
精神上の障がいとは認知症だけではなく、「統合失調症」「高次脳機能障害」等や事故による脳の損傷も含みます。判断能力が著しく不十分とは、日常生活に支障はないが重要な法律行為をするには不安がある状態です。
家庭裁判所は申立書に添付されている医師の診断書等を検討して、保佐の対象であるかを判断します。
保佐開始の申立てをした場合でも、後見相当であると判断することもあります。逆に後見開始の申立てをした場合に、保佐相当であると判断されることもあります。
保佐開始の申立てと後見開始の申立ては申請書も同じです。ですので、後見開始の申立て手続きを参考にしてください。
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2.保佐人が行使できる権利
保佐人は重要な行為に対する同意権と取消権で本人を支援します。
ですので、保佐人に代理権は当然には付与されていません。法律上当然に代理権が付与される後見人との違いです。
2-1.保佐人は同意権で本人を支援する
本人が重要な法律行為をするには、保佐人の同意を得る必要があります。
同意を得ずに行った行為は、保佐人が取り消すことができます。もちろん、同意を得なかったからといって、当然に無効になるわけではないです。
本人の意思決定を最大限尊重すると共に、不利益が発生するなら取り消せるようになっています。
2-2.すべての行為が取り消せるわけではない
すべての行為ではなく、同意を得ずに行った重要な法律行為に限定されています。保佐人の同意を得て行った行為は取消すことはできません。
また、本人が相手を騙して契約した場合は、同意を得ていなくても取消すことはできません。
関連記事を読む『保佐人の取消権は対象行為が限定されている』
3.重要な法律行為は法律で定められている
保佐人の同意が必要な重要な法律行為とは、民法13条1項各号で定められている行為のこと。
具体的には、以下のような法律行為です。
- 借金
- 不動産の売買
- 訴訟
- 遺産分割協議
判断能力が著しく不十分な状況にある人が単独で行うと、本人に損害が発生しやすい行為となります。
ですので、法律で定められている重要な法律行為に関しては、保佐人に同意権と取消権が与えられています。
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4.同意が必要な行為の拡張
法律で定められた重要な法律行為以外にも、同意権を拡張することができます。
*日常生活に関することは除かれます。
同意が必要な行為を拡張している場合は、申立てをした行為に関しては同意権と取消権が発生します。
保佐開始の申立てと同時にすることもできますし、後から追加で申立てをすることもできます。13条1項各号の行為だけでは不安がある場合等は、同意権の拡張を検討されてみてはどうでしょうか。
5.代理権の付与も可能
保佐人は代理権が付与されていないのですが、本人を保護するために必要な行為であれば、家庭裁判所に代理権の付与を申立てることができます。
ただし、代理権を付与できるのも特定の行為のみとなります。
5-1.法律行為を具体的に特定
代理権付与の申立てをする際に、ある程度具体的に行為を特定しておく必要があります。特定の行為には13条1項各号以外も含まれます。
例えば、以下のような行為です。
- 本人の不動産を売却する
- 預貯金に関する銀行との取引
- 保険金の請求や受領
- 相続の承認(遺産分割協議等)や放棄
家庭裁判所に申請する場合には、代理行為目録にレ点を入れるようになっています。
『家庭裁判所のホームページ』から確認できます。
5-2.代理権付与には本人の同意が必要
家庭裁判所への代理権付与の申立ては、本人または親族・保佐人等からできます。
本人以外から申立てをする場合は、本人の同意が必要となります。
6.さいごに
法定後見には「後見」「保佐」「補助」という3つがあります。ただし、保佐は後見のように有名ではありません。
後見のように代理権が当然に認められることもないですし、重要な法律行為以外は取消すこともできません。あくまでも、本人の意思を尊重するのが保佐です。
本人の判断能力が完全に低下する前であっても、法定後見制度の「保佐」を利用することで支援することができます。重要な法律行為をするのに不安がある場合等は、保佐の利用も検討してみてください。