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保佐人の取消権は対象行為が限定されている

保佐人の取消権
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保佐人にも取消権があるのはご存知でしょうか。

ただし、後見人の取消権とは違い、保佐人の取消権は対象行為が限定されています。

保佐人が取り消せるのは、保佐人の同意を得ずに行った重要な法律行為です。

今回の記事では、保佐人の取消権について説明しているので、保佐を検討しているなら参考にしてください。

1.保佐人は重要な法律行為の同意権を有する

「保佐」の対象となるのは、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な状況にある人です。日常生活に支障はないですが、重要な法律行為を単独で行うのは難しい状態。

ですので、保佐人重要な法律行為について同意権を有しています。後見人のような代理権ではなく、あくまでも同意権となっています。

保佐人は同意権

重要な法律行為は民法13条で定められていますが、主な行為には以下があります。

  • 借金
  • 不動産の売買
  • 訴訟
  • 遺産分割協議

本人が保佐人の同意を得ずに重要な法律行為を行うと、保佐人は取消権を行使することができます。

 

2.同意を得ていなければ取消権を行使できる

本人が保佐人の同意を得ずに重要な法律行為を行った場合、保佐人は取消権を行使して重要な法律行為を取消すことができます。

(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 (省略)
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

出典:e-Govウェブサイト(民法13条4項)

保佐人が取消権を行使

保佐人の取消権で気を付ける点が2つあります。

  • 無効ではなく取り消しである
  • 取り消しは重要な法律行為のみ

2-1.保佐人の同意を得ていなくても無効ではない

勘違いしやすいのですが、保佐人の同意を得ていなくても、法律行為が無効になるわけではありません。保佐人の同意を得ていなくても法律行為は成立しています。

あくまでも、保佐人の同意を得ていなければ取り消せるだけで、取り消さなければ法律行為はそのままです。

2-2.取り消せるのは重要な法律行為のみ

保佐人に認められているのは、重要な法律行為についての同意権です。

したがって、取消権の対象となるのも、重要な法律行為のみです。重要な法律行為以外は取り消すことができません。

後見人と保佐人では、取消権の範囲が違うので注意しましょう。

注意同意権の範囲を拡張している場合は除きます。

 

3.保佐人が取り消した行為は初めから無効

保佐人が取消権を行使した場合、法律行為は初めから無効だったとみなされます。

(取消しの効果)
第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

出典:e-Govウェブサイト(民法121条)

例えば、本人が保佐人の同意を得ずに不動産を売却した場合、保佐人が取り消すことにより初めから無効な契約となります。

本人が不利な内容で売却している場合や、そもそも売却する必要が無かった場合には、保佐人が取り消すことにより不動産を取り戻すことができます。

ただし、保佐人が取消権を行使できない場合もあります。

 

4.保佐人が取消権を行使できない場合

本人が保佐人の同意を得ずに重要な法律行為をしても、保佐人が取消権を行使できない場合があります。

  • 保佐人が追認した
  • 保佐人が追認とみなされた
  • 本人が詐術を用いた

上記に該当する場合は、保佐人の同意を得ていなくても、法律行為を取消すことはできません。

保佐人が取り消せない場合

4-1.保佐人が追認すると取り消せない

本人が保佐人の同意を得ずに行った行為でも、保佐人が追認すれば取消すことはできません。

(取り消すことができる行為の追認)
第百二十二条 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。

出典:e-Govウェブサイト(民法122条)
追認
取消しできる行為を、取消権者が後から有効にすること

保佐人が追認することで、重要な法律行為は確定的に有効な行為となります。

保佐人が追認

例えば、本人が保佐人の同意を得ずに不動産を売却しても、保佐人が追認した後は取消すことができません。

本人の法律行為を追認する前に、内容をしっかりと確認しておいてください。

4-2.保佐人が追認したとみなされる場合がある

保佐人が追認しなくても、追認したとみなされると取消すことはできません。

(制限行為能力者の相手方の催告権)
第二十条 (省略)一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。

出典:e-Govウェブサイト(民法20条2項)

上記の条文を分かりやすく説明すると、契約の相手方が保佐人に対して、一ヶ月以上の期間を定めて追認するかどうか催告した場合、保佐人から回答が無ければ追認したとみなされます。

保佐人が追認したとみなされる

契約の相手方から催告されているのに、保佐人が回答しなければ取り消しもできません。

4-3.本人が詐術を用いると取消せない

本人が保佐人の同意を得ていなかったしても、相手を騙した場合は取消すことができません。

(制限行為能力者の詐術)
第二十一条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。

出典:e-Govウェブサイト(民法21条)

例えば、本人が契約の相手方に対して、自分に保佐人はいないと嘘をついた場合です。嘘をついた本人よりも、契約の相手方を保護するために取消すことができません。

相手を騙す行為には、本人が黙秘していた場合を含むことがあります。

無能力者であることを黙秘することは、無能力者の他の言動などと相まつて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときには、民法二〇条にいう「詐術」にあたるが、黙秘することのみでは右詐術にあたらない。

出典:最高裁判所判例集(昭和44年2月13日 最高裁判所第一小法廷)

本人が黙秘していただけなら騙す行為にはなりませんが、他の言動などと合わせて騙す行為になる可能性はあります。

 

5.さいごに

保佐人が取消権を行使できるのは、本人が保佐人の同意を得ずに重要な法律行為を行った場合です。

間違いやすいのですが、保佐人の同意を得ていなくても、法律行為は無効ではなく有効です。取消権を行使することにより、法律行為は初めから無効となります。

ただし、以下の場合には取消権の行使ができません。

  • 保佐人が追認した
  • 保佐人が追認したとみなされた
  • 本人が詐術を用いた

保佐人の取消権は後見人とは違い、範囲が限定されているので間違えないように気を付けてください。