作成した自筆証書遺言を訂正するなら、訂正方法を確認したうえで直してください。
訂正方法は法律で決められているので、違反すると訂正は無効になります。
- 訂正箇所を示す
- 変更した旨を付記
- 遺言者の署名
- 訂正箇所に押印
どれか1つでも抜けていると、訂正の効力は発生しません。
今回の記事では、自筆証書遺言の訂正について説明しているので、自筆証書遺言を直す際の参考にしてください。
目次
1.自筆証書遺言の訂正方法は法律で決まっている
自筆証書遺言を訂正する方法は法律で決まっています。
法律で決められた方法以外で訂正しても効力は発生しません。
以下は、民法の条文です。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 (省略)
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
自筆証書遺言を訂正するなら、細かいルールを知っておく必要があります。
1-1.自筆証書遺言を訂正できるのは遺言者のみ
自筆証書遺言は遺言者が全文を自書しなければ成立しないので、訂正ができるのも遺言者のみになります。
たとえ明らかなミスを見つけたとしても、遺言者以外が遺言書に手を加えると無効になるので注意してください。
また、遺言者の相続人が自筆証書遺言に手を加えると、相続人の欠格事由に該当する可能性もあります。
1-2.自筆証書遺言の本文だけでなく財産目録も対象
自筆証書遺言の財産目録を訂正する際も、法律によって定められた方法で訂正してください。
民法968条3項は自筆証書遺言の本文だけでなく、自筆証書遺言に添付された財産目録も対象になってます。
ただし、財産目録を訂正するぐらいなら、新しく作成した方が簡単なはずです。
関連記事を読む『自筆証書遺言の財産目録【手書きでなくても大丈夫】』
1-3.自筆証書遺言の訂正等には4つの作業が必要
自筆証書遺言を訂正するには、4つの作業が必要です。
- 訂正箇所を示す
- 変更した旨を付記
- 遺言者の署名
- 訂正箇所に押印
どれか1つでも欠けると効力は発生しません。
具体的な訂正の仕方は、次の項目で説明していきます。
2.自筆証書遺言の具体的な訂正の仕方
自筆証書遺言の具体的な訂正の仕方を説明していきます。
基本的な訂正等の仕方は同じなので、訂正する際の参考にしてください。
2-1.自筆証書遺言の文字を訂正する
自筆証書遺言の文字を訂正するとは、書き間違えた箇所を書き直すことです。
以下は、訂正の例です。
上記は、「預貯金を次男に相続させる」と書きたかったところ、間違えて「不動産を次男に相続させる」と書いていた事例です。
不動産に二重線を引いて印鑑を押し、預貯金と書き直します。
右側の開いている箇所に、訂正箇所(本行)と訂正した旨(3字削除3文追加)を書き、遺言者の署名をしています。
2-2.自筆証書遺言に文字を加筆する
自筆証書遺言の文字を加筆するとは、文字が抜けていた箇所に書き足すことです。
以下は、加筆の例です。
上記は、「預貯金を次男に相続させる」と書きたかったところ、預貯金という文字が抜けていた事例です。
文字を追加する箇所に預貯金という文字を加筆して印鑑を押します。
右側の開いている箇所に、訂正箇所(本行)と加筆した旨(3文追加)を書き、遺言者の署名をしています。
2-3.自筆証書遺言の文字を削除する
自筆証書遺言の文字を削除するとは、間違えて書いた余計な文字を削除することです。
以下は、削除の例です。
上記は、「2の預貯金を次男に相続させる」と書きたかったところ、間違えて「1と2の預貯金」と書いてしまった事例です。
「1と」に二重線を引いて印鑑を押します。
右側の開いている箇所に、訂正箇所(本行)と削除した旨(2文削除)を書き、遺言者の署名をしています。
2-4.自筆証書遺言の訂正等に関する注意点
自筆証書遺言の訂正等に関する注意点になります。
- 印鑑は遺言書と同じ印鑑を使用する
- 訂正箇所の指示や署名は何処でも大丈夫
訂正等に使用する印鑑は遺言書と同じ印鑑
法律上、訂正箇所に押印する印鑑に決まりはありません。
ですが、遺言書と同じ印鑑を使用してください。
わざわざ違う印鑑を使用するメリットがありません。別人が訂正していると疑われる可能性もあります。
訂正箇所の指示や署名は何処でも大丈夫
訂正箇所の指示、変更した旨、遺言者の署名は遺言書の何処に書いても大丈夫です。
具体例では右側に書いていますが、スペースが無ければ遺言書の下側に書いても問題ありません。
「上記2行目2字削除2字追加」のように、訂正箇所や変更した旨が分かるように書きましょう。
3.訂正が無効になると自筆証書遺言の効力は?
自筆証書遺言の訂正方法を間違えると、自筆証書遺言の効力はどうなるのでしょうか。
法律の条文には訂正等の効力は発生しないとだけ記載されています。
したがって、自筆証書遺言がどうなるかは判断が分かれています。
3-1.自筆証書遺言の内容や訂正箇所によって違う
訂正方法を間違えている場合、自筆証書遺言の内容や訂正箇所によって判断が分かれています。
- 訂正等だけが無効
- 訂正箇所の元の内容も無効
- 自筆証書遺言自体も無効
例えば、訂正を二重線ではなく塗りつぶしで行っていれば、元の内容も分からないので無効になります。
また、訂正は遺言者の意思表示といえるので、元の内容も無効と考えることもできます。
自筆証書遺言の訂正等をするなら、訂正等が無効にならないように気をつけてください。
3-2.明かな誤記の訂正なら自筆証書遺言は有効
法律で定めた訂正方法を満たしていなくても、明らかな誤記の訂正は遺言書の効力に影響を及ぼさないとした判例があります。
以下は、判例です。
自筆証書遺言における証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、民法九六八条二項所定の方式の違背があつても、その違背は、遺言の効力に影響を及ぼさない。
例えば、書いた字が読みにくかったので、二重線を引いて綺麗に書き直している場合です。
自筆証書遺言の内容は変わっていないので、訂正が無効だったとしても自筆証書遺言の効力に影響はありません。
ただし、元の字が常に読めるとは限らないので、明らかな誤記の訂正であっても訂正方法は守ってください。
4.訂正箇所が複数なら書き直した方が安全
自筆証書遺言に訂正箇所が複数あるなら、訂正ではなく書き直した方が安全です。
なぜなら、訂正箇所が増えるほど遺言書は読みにくいですし、訂正方法を間違える可能性も高くなるからです。
自筆証書遺言の訂正は最後の手段ぐらいに思っておきましょう。
4-1.古い自筆証書遺言は処分した方が良い
古い自筆証書遺言を処分しなくても、新しく作成した遺言書で撤回したとみなされます。
※内容が抵触する部分。
ですが、自筆証書遺言を書き直すなら、古い自筆証書遺言は処分した方が良いです。
古い自筆証書遺言を残すメリットがないので、相続人が間違えないように処分しておきましょう。
4-2.自筆証書遺言は公正証書遺言でも撤回できる
自筆証書遺言は書き間違えるので嫌になる人もいます。
書き直しが嫌になったら、公正証書遺言で撤回することも可能です。
公正証書遺言であれば公証人が作成するので、手書きで作成する手間は省けます。
書き直す手間と公証人手数料を比べて、ご自身に合った方を選んでください。
5.書き間違いを防ぐなら遺言書の内容はシンプル
自筆証書遺言の書き間違いを防ぐなら、遺言書の内容はシンプルにした方が良いです。
例えば、遺言書に複数の相続財産を記載するなら、財産目録の利用をお勧めします。
財産目録を利用することで、手書きの部分が減るので書き間違いの可能性も低くなります。
また、遺言書に記載する相続人や受遺者が多くなるなら、公正証書遺言の利用も検討しましょう。
遺言書に書く文字が多くなるほど、書き間違える可能性も高くなります。
6.さいごに
自筆証書遺言を訂正するなら、訂正方法を守ってください。
法律で定められた訂正方法を守っていなければ、訂正の効力は発生しません。
- 訂正箇所を示す
- 変更した旨を付記
- 遺言者の署名
- 訂正箇所に押印
どれか1つでも抜けていると訂正等は無効です。
作成した自筆証書遺言にミスが多いなら、訂正するのではなく書き直した方が良いです。訂正箇所が多くなると遺言書も読みにくいですし、訂正自体を間違える可能性もあります。
自筆証書遺言の訂正はできる限り少なくしましょう。