限定承認をすると、亡くなった人に譲渡所得が発生する可能性が有ります。
なぜなら、所得税法では限定承認をすると、亡くなった人から相続人へ譲渡があったとみなされるからです。
亡くなった人の財産に不動産や株式等がある場合は、譲渡所得税により負債が増えることもあります。
限定承認を検討されている人は、譲渡所得についても知っておいてください。
目次
1.亡くなった人から相続人への譲渡とみなされる
限定承認をしても相続であることに違いはありません。
ただし、税制上は亡くなった人から相続人に対して、時価で財産を譲渡(売却)したとみなされます。
(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)出典:e-Govウェブサイト
譲渡があったとみなすので、「みなし譲渡」といいます。
単純承認 | 限定承認 | |
民法 | 相続 | 相続 |
所得税法 | 相続 | 譲渡 |
限定承認は民法と所得税法で扱いが違う点に注意しましょう。
2.みなし譲渡による利益は譲渡所得
みなし譲渡により利益が発生すると譲渡所得になります。
- みなし譲渡による計算
- 相続時の時価-取得価格=利益(プラスの場合)
亡くなった人の財産に値上がりしている物があれば、利益が発生するというイメージです。
(例)1,000万円で購入した土地が、相続時に1,500万円になっていれば、500万円がみなし譲渡所得となります。
計算の結果がマイナスであれば、譲渡所得は発生していません。
2-1.相続財産は時価で評価する
みなし譲渡所得を計算する際は、時価で相続財産を評価します。
例えば、不動産であれば不動産業者に売却査定を取るか、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼します。有価証券であれば死亡日の最終価格が時価となります。
2-2.譲渡所得の対象となる資産
亡くなった人の財産が、すべて譲渡所得の対象になるわけではないです。
以下が主な対象です。
- 土地・建物
- 借地権
- 株式等
- 金(きん)・宝石
- 特許権・著作権
その他の財産については『国税庁のホームページ』でご確認ください。
当然ですが、預貯金や現金等は譲渡所得の対象とはなりません。譲渡所得が関係するのは、相続財産に不動産や株式等がある場合です。
3.亡くなった人の所得税も相続財産
みなし譲渡により利益が発生すると、亡くなった人に譲渡所得税が課税されます。
つまり、限定承認により亡くなった人に譲渡所得税が発生すると、譲渡所得税も負債として相続財産となります。
債務の方が明らかに上回っていれば、譲渡所得税が発生しても影響は少ないです。あくまでもプラスの財産を限度として負債を支払うからです。
それに対して、プラスの財産が上回っていた場合は、譲渡所得税の分だけ負債が増えるので、手元に残る金額が減ってしまいます。
相続財産の中に不動産や株式等がある場合は、最初に想定していたより負債が増えることもあります。
4.準確定申告が必要になる
限定承認により亡くなった人に譲渡所得が発生する場合、準確定申告が必要となります。
- 準確定申告
- 亡くなった人の所得税の申告
亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が代わりに申告・納税します。
4-1.準確定申告書の提出先
準確定申告書の提出先は、亡くなった人の住所地を管轄する税務署長です。
準確定申告書は相続人全員が提出する必要があります。連名または各相続人が提出します。
4-2.申告期間が短いので注意
準確定申告の申告・納付期限は、亡くなったことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。
準確定申告の期限は伸長できません。限定承認の判断に時間がかかると、間に合わなくなる恐れがあります。
準確定申告にも延滞税と加算税があるので、期限の確認は必ずしておきましょう。
5.さいごに
限定承認をすることにより、プラスの財産を限度としてマイナスの財産を負担します。
ただし、亡くなった人の財産構成によっては、譲渡所得が発生し負債が増えることもあります。当初の計算では手元に金銭が残るはずだったとしても、譲渡所得税の分だけ誤差が生じます。
また、譲渡所得が発生すると準確定申告も必要になります。申告期限が短いので注意してください。
相続財産に不動産や株式等がある場合は、限定承認の手続きをする際にあらかじめ確認をしておいてください。