あなたが遺言書を書くかどうかは、あなたの自由です。
ですが、専門家として遺言書を書くべきだと、お勧めするケースがあります。
遺言書が残されていなかったことにより、相続開始後に相続人が困っていることは多いです。
まったく同じ家族は存在しないので、すべてのケースを書くことはできませんが、代表的な事例を21説明しています。
あなたに当てはまる事例がありましたら、遺言書の作成を強くお勧めします。
1.配偶者のために書くべき場合
遺言書を配偶者のために書くべき場合です。
以下に該当する場合は、遺言書を書いていないと配偶者が苦労する可能性があります。
- 夫婦の間に子どもがいない
- 前配偶者との間に子どもがいる
1-1.配偶者と親や兄弟姉妹が共同相続する
子どもがいないご夫婦で夫(妻)が亡くなると、当然に残された妻(夫)が相続財産をすべて引き継げると思っていませんか。
子どもは第1順位の相続人なので、子どもがいなければ第2順位または第3順位の相続人が相続します。
例えば、夫が先に亡くなった場合で説明します。
遺言書を書いていない場合は妻は夫の親、夫の親が亡くなっている場合は、夫の兄弟姉妹と遺産分協議をすることになります。
①妻と夫の親が相続する場合
法定相続分は妻が3分の2、夫の親が3分の1です。
妻と舅・姑の仲があまり良くない場合は、遺産分割も大変になります。遺言書を書いておけば、余計な遺産分割協議も省けます。
ただし、親には遺留分が6分の1あるので、遺言書で妻に全財産残したい場合には揉める可能性が残っています。
②妻と夫の兄弟姉妹が相続する場合
法定相続分は妻が4分の3、夫の兄弟姉妹が4分の1です。
夫の兄弟姉妹と仲が良い人は少ないと思います。普段あまり親しくしていない人と、遺産分割協議をするのは大変です。
もっと大変なのは、夫の兄弟姉妹が亡くなっていて、代襲相続した甥や姪までが相続人になることです。
兄弟姉妹には遺留分がないので、遺言書で「妻に全財産相続させる」と書いておけば、問題なく相続できます。
1-2.再婚していて前配偶者との間に子どもがいる
離婚した相手との間に子どもがいると、配偶者は前配偶者の子どもと遺産分割協議をすることになります。
ほとんどの場合、配偶者と子どもに交流は無いと思います。交流の無い相手に連絡を取って、お金の話をするのは非常に厳しいです。
法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが2分の1です。離婚したのが何十年前であっても、子どもの法定相続分は同じです。
配偶者に不動産を残したい場合などは、必ず遺言書を書きましょう。
ただし、子どもには遺留分が4分の1あるので、子どもへの配慮は必要です。
2.子ども同士の争いを防ぐために書くべき場合
遺言書を残すことにより、子ども同士の争いを未然に防ぐこともできます。
以下のような場合は気を付けましょう。
- 子ども同士が疎遠である
- 特定の子どもと同居している
- 特定の子どもに学費や不動産の頭金などを援助している
- 子どもの生活状況に差がある
2-1.子ども同士が疎遠である
親が亡くなった際の遺産分割協議では、子ども同士で揉めやすいと言われています。
特に両親が亡くなった2度目の相続で揉めやすいです。
なぜなら、1度目の相続では、生存している親が緩衝材となっているからです。
1年に1回も会わないような兄弟姉妹も珍しくありません。お互いに家族を持っていると自分の家庭を優先します。
親の財産で兄弟姉妹が揉めたとしても、止めるべき親はすでに亡くなっています。
親の責任として、財産の行方は決めておくべきです。
2-2.特定の子どもだけが親と同居している
特定の子どもだけが親と同居していると、遺産分割協議で揉めやすいです。
お互いの主張する部分が、真っ向から対立しやすいのが特徴となります。
例として、長男は家を出て独立していて、長女が同居している場合で説明します。
相続人が子どもだけの場合は、法定相続分は長男・長女それぞれ2分の1です。
【同居していた長女の主張】
同居して親の面倒を最後まで見たので、自分の相続分は当然に増えると主張。
【独立していた長男の主張】
長女は同居していて家賃などの生活費で得をしているから、親の面倒を見たとしても相続分は増えないと主張。
一度揉めると感情論の話になるので、遺産分割協議がまとまる可能性は低くなります。
感情論のぶつかり合いを防ぐためにも、遺言書でしっかりと決めておきましょう。
2-3.特定の子どもに学費や不動産の頭金などで多額の援助をしている
親が生きている間は、兄弟姉妹間の不満を我慢していることがあります。
ですが、親が亡くなった後の遺産分割協議で、過去の学費や住宅ローンの援助について不満がでます。
自分は援助されていないから相続財産は多く貰えると主張し始めると、お互いに過去の不満を言い合うので遺産分割協議がまとまりません。
子どもに対しての援助に差がある場合は、考慮に入れて遺言書を書いておくべきです。
2-4.相続人の生活状況に差がある
相続人の生活状況が、まったく同じということはないです。
独身なのか既婚なのか、子どもは何人いるのか、持ち家なのか賃貸なのか、収入の違いもあります。
生活状況の差が大きい場合は、相続財産に対する期待もそれぞれ違います。
「兄はお金に困っていないから、自分が多く貰ってもいいはずだ」
「自分は賃貸だから、実家を貰えるはずだ」
遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ成立しません。
あらかじめ生活状況に配慮した遺言書を書いておけば、遺産分割協議が不要になります。
3.自分の希望を叶えるために書くべき場合
遺言書はあなたの意思表示なので、叶えたい希望があるなら遺言書は書くべきです。
3-1.特定の相続人に特定の財産を残したい
自分の財産の承継先を決めるのが遺言書です。
相続人に希望を伝えていたとしても、相続人が遺産分割協議で別の主張をするのは防げません。
ですので、特定の相続人に特定の財産を残したい場合は、遺言書に記載するべきです。
例えば、配偶者に不動産を残したいのであれば、遺言書に「配偶者に不動産を相続させる」と記載しましょう。
相続人任せにするのではなく、自分で財産の承継先を決めておきましょう。
3-2.事実婚の配偶者がいる
事実婚の配偶者は法定相続人ではありません。
したがって、事実婚の配偶者に財産を残すには、相続対策が必須になります。
いつ何がある分からないので、遺言書の作成は後回しにせず作成してください。
3-3.財産を渡したくない相続人がいる
どうしても財産を渡したくない相続人がいるなら、遺言書を書いておく必要があります。
遺言書を書いておかなければ、遺産分割協議で法定相続分を主張する権利があります。
ただし、遺留分を主張する可能性はあるので、遺留分対策は忘れずにしておいてください。
関連記事を読む『遺留分侵害額請求権とは金銭を請求する権利』
3-4.法定相続人がいない
法定相続人がいない場合は、あなたの財産はすべて国に帰属します。
生前お世話になった友人や団体がある場合には、遺言書で遺贈することも可能です。
遺言者に遺贈を記載するなら、遺言執行者を指定しておきましょう。
3-5.相続人以外に財産を残したい
相続人以外に財産を残したいなら、遺言書で遺贈しておきましょう。
例えば、息子さんのお嫁さんにお世話になったので、財産を残したいなら遺言書を作成しましょう。
なぜなら、どんなにお世話になっていても、息子のお嫁さんは相続人ではないからです。
3-6.相続人の中に病気等で配慮が必要な相続人がいる
相続人の中に病気等で配慮が必要な相続人がいるなら、遺言書で生活資金や住居の確保をしておく必要があります。
なぜなら、相続人が複数いると、遺産分割協議で法定相続分を主張してくる可能性があるからです。
たとえ病気等で配慮が必要であっても法定相続分は増えません。
遺言書を書いておかなければ、生活資金や住居の確保が難しくなる恐れがあります。
3-7.事業承継を考えている
特定の相続人に事業を承継してもらうなら、遺言書を書くなどの相続対策は必須です。
なぜなら、遺産分割協議で法定相続分を主張されると、事業の経営権が分散する可能性があるからです。
結果として、経営が成り立たなくなる恐れもあります。
あなたの事業が小規模であっても、相続対策が不要なわけではありません。
4.遺産分割協議を省略させるために書くべき場合
遺言書を書くことにより、相続人の手間を省くことができます。
4-1.相続財産のほとんどが不動産
相続財産のほとんどが不動産の場合、現金と違って法定相続分で分割するのが難しいです。
もちろん、不動産を売却して、売却代金を相続人で分ける方法もあります。
ですが、すぐに不動産を売却することに、抵抗がある相続人もいます。
「実家に愛着があるので今は反対」
「もっと高い値段で売却したい」
遺産分割協議がまとまらなければ、不動産を相続人全員で共有名義にすることもあります。
しかし、不動産を安易に共有名義にすると、さまざまなトラブルを招きます。
トラブルを防ぐためには、あらかじめ不動産の処分を決めておく必要があります。
誰が不動産を相続するのかや、相続が開始したら売却するのか、不動産の所有者として決めておきましょう。
4-2.家族関係が複雑である
あなたが離婚・再婚を複数回していると、家族関係が複雑になっているかもしれません。
あなたが遺言書を残していなければ、異母兄弟と遺産分割協議をすることになります。
遺産分割協議に相続人全員が参加する必要があるので、連絡を取るだけでも大変です。
遺言書を書いておけば、遺産分割協議は不要です。
4-3.相続人の中に行方不明の人がいる
相続人の中に行方不明の人がいるなら、遺言書は必ず作成しておきましょう。
なぜかというと、遺産分割協議を成立させるには、行方不明の相続人も必要だからです。
たとえ数十年以上行方不明であっても、行方不明者を除いて遺産分割協議はできません。
遺言書を書いておけば、相続人に行方不明者がいても大丈夫です。
4-4.相続人が相続財産の内容を知らない
あなたの財産を一番把握しているのは、おそらくあなた自身でしょう。
相続人が把握していない財産があれば、見つけれない可能性もあります。
最近ではネット銀行など通帳がない銀行もあるので、相続人が見つけるのも大変です。
また、遺産分割協議に漏れがあると、財産が見つかった後で再度遺産分割協議が必要になります。
相続財産を把握しているのは本人なので、遺言書に漏れなく記載しておきましょう。
5.さいごに
専門家として遺言書の作成を、お勧めするケースについて説明しました。
当然ですが、今回の事例に該当しない人であっても、遺言書が必要になることはあります。
遺言書を作成することにより、相続人同士のトラブルを防いだり、相続人の手間を省くことができます。
また、遺言書を作成しなければ、あなたの希望を叶えることが難しいケースもあります。
あなたには遺言書を作成する権利があるので、正しい遺言書を作成しておきましょう。