遺言書で財産を遺贈するなら、「誰に」「何を」が分かるように書いてください。
曖昧な書き方をした結果、遺贈が無効になる可能性があるからです。
ただし、遺贈の文例は多く、ある程度書き方は決まっているので、同じように書けば問題ありません。
遺言書を自分で作成するなら、今回の記事を参考にしてください。
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1.受遺者(遺贈の相手方)の書き方

まずは、受遺者(遺贈の相手方)の書き方について説明します。
遺言書を作成しても、受遺者が特定できなければ、遺贈は成立しません。「誰に」遺贈するのか分かるように記載してください。
1-1.氏名・生年月日・住所で特定
遺言書には受遺者の氏名・生年月日・住所を記載します。
遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
アンダーラインの部分が受遺者です。住所は住民票のとおり書きましょう。
ちなみに、受遺者が親族であれば、氏名の前に遺言者との関係を記載した方が良いです。
※受遺者が特定しやすい。
遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、遺言者の孫・○○(生年月日、住所)に遺贈する。
- 遺言者の甥(姪)
- 遺言者の従兄弟(従姉妹)
- 遺言者の内縁の妻(夫)
- 遺言者の事実上の養子
上記以外でも、受遺者を特定する情報があるなら、遺言書に記載しておきましょう。
関連記事を読む『遺贈は法定相続人に対しても有効だが第3者との違いに注意』
1-2.受遺者が複数なら分けて記載する
遺言書で遺贈する相手は複数でも問題ありません。
ただし、「誰に」遺贈するのか、分けて記載してください。
遺言書
第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、A(生年月日、住所)に遺贈する。
(土地の記載省略)
第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の建物を、B(生年月日、住所)に遺贈する。
(建物の記載省略)
遺贈の相手が複数でも書き方は同じです。
次章からは「何を」の部分について説明していきます。
2.遺言書で遺贈する財産の書き方

次に、目的物(遺贈する財産)の書き方について説明します。
遺言書を作成しても、目的物が特定できなければ、遺贈は成立しません。「何を」遺贈するのか分かるように記載してください。
文例(1)不動産の書き方
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不動産を遺贈する場合は、不動産登記簿の記載どおりに書いてください。
ただし、不動産の種類によって、記載する情報が違います。
- 戸建て
- 土地
- マンション
- 共有持分
遺言書を作成する前に、確認しておいてください。
関連記事を読む『遺言書で不動産を特定する書き方|曖昧な記載だと名義変更で困る』
戸建て
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戸建てを遺贈する場合、5つの情報を記載します。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の建物を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
所在 ○○市○○町○丁目○番地
家屋番号 ○番
種類 居宅
構造 〇〇
床面積 ○○.○○㎡
不動産登記簿の記載どおり書けば、何の問題もありません。
土地
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土地を遺贈する場合、4つの情報を記載します。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番
地目 宅地
地積 ○○.○○㎡
宅地以外の土地も遺贈可能ですが、農地の遺贈は農業委員会の許可が必要です。
関連記事を読む『【農地の遺贈】種類や受遺者によって3条許可の有無が違う』
マンション
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マンションを遺贈する場合、戸建てや土地に比べて、遺言書に記載する情報が多いです。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
(一棟の建物の表示)
所在 ○○市○○町○丁目○番地
建物の名称 ○○マンション
(敷地権の目的である土地の表示)
土地の符号 1
所在及び地番
地目 宅地
地積 ○○.○○㎡
(専有部分の建物の表示)
家屋番号
建物の名称 ○○○
種類 居宅
構造
床面積 ○○.○○㎡
(敷地権の表示)
土地の符号 1
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 ○○○○○分の○○○
マンション(敷地権付区分建物)は、以下の4つを合わせて記載します。
- 一棟の建物の表示
- 敷地権の目的である土地の表示
- 専有部分の建物の表示
- 敷地権の表示
記載する情報が多いので、自筆証書遺言を作成するなら注意してください。
不動産の共有持分
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遺言者が不動産の共有持分を所有している場合、共有持分も遺贈できます。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地の持分を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番
地目 宅地
地積 ○○.○○㎡
遺言者の持分2分の1
不動産の持分を遺贈する旨および遺言者の持分を記載します。
複数の不動産
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受遺者に複数の不動産を遺贈する場合は、組み合わせて記載すれば大丈夫です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の不動産(その有する権利が持分であるときは持分の全部)を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
所在 ○○市○○町○丁目○番地
家屋番号 ○番
種類 居宅
構造 〇〇
床面積 ○○.○○㎡
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番
種類 宅地
地積 ○○.○○㎡
所在 ○○市○○町○丁目
地番 ○番
種類 宅地
地積 ○○.○○㎡
遺言者の持分2分の1
ただし、不動産の数が多い場合は、書き間違いのリスクもあるので、下記のように書いても大丈夫です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する不動産の一切を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
不動産を1人だけに遺贈するなら、上記のような書き方でも問題ありません。
関連記事を読む『不動産を遺贈する相手は自由に選べるが注意点もある』
文例(2)預貯金の書き方
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預貯金を遺贈する場合は、通帳の記載どおりに書いてください。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の金融資産を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
○○銀行〇〇支店 普通預金
口座番号 ○○○○○○○
口座名義 ○○
ゆうちょ銀行 通常貯金
記号 ○○○○○
番号 ○○○○○○○
口座名義 ○○
※アンダーラインの部分は、預貯金や財産と書いても問題ありません。
一般的には、以下の情報を記載すれば、銀行口座は特定できます。
- 銀行名
- 支店名
- 種類
- 口座番号
※郵貯は記号・番号 - 名義人
預貯金を遺贈する場合、遺言書に残高は記載しません。残高は変動するからです。
3.遺言書で全財産を遺贈する場合
遺言書で全財産を遺贈する場合、前章とは書き方が違います。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する全財産を、○○(生年月日、住所)に包括遺贈する。
受遺者の部分は同じですが、「何を」の部分は全財産なので、特定の財産を書く必要がありません。
ただし、遺贈の前に包括という言葉を追加しておいてください。誰が読んでも包括遺贈と分かるようにするためです。
包括遺贈については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『【包括遺贈とは】遺言書で全部または一部と包括的に指定する』
4.受遺者死亡に備える遺贈の書き方
遺言書に遺贈を記載しても、遺言者よりも受遺者が先に亡くなると、遺贈は無効になります。
※遺言書は有効。
そして、遺贈されるはずだった財産の行方は、以下のように分かれます。
- 遺言書に指定がない→法定相続人
- 遺言書に指定がある→遺言書のとおり
遺言書に指定がなければ、法定相続人が相続します。
一方、遺言書に指定があれば、別の人に遺贈できます。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
ただし、○○が遺言者よりも先または遺言者と同時に死亡した場合は、下記の土地を○○(生年月日、住所)に遺贈する。
(土地の記載省略)
上記のような記載を、予備的遺言といいます。
受遺者が先に死亡していた場合に、財産を渡したい人がいるなら、第2候補も記載しておきましょう。
関連記事を読む『遺贈の受遺者が死亡すると遺言書の効力はどうなるのか?』
5.遺言書で遺贈するなら遺言執行者を指定
遺言書で財産を遺贈するなら、遺言執行者を指定しておきましょう。
なぜなら、遺言執行者を指定していないと、相続手続きが不便になるからです。
例えば、遺言書で不動産を遺贈した場合、遺贈の登記は登記義務者と登記権利者(受遺者)の共同申請です。遺言執行者を指定していなければ、登記義務者は相続人全員となります。
※家庭裁判所に選任申立ても可能。
遺言書で遺言執行者を指定しておけば、遺贈の登記は遺言執行者と受遺者で申請可能です
遺言書
(省略)
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
住所
職業
氏名
生年月日
遺言執行者に資格は不要なので、誰でも指定できます。
ちなみに、遺言執行者は相続登記の申請も可能です。
関連記事を読む『遺言執行者は遺贈登記だけでなく相続登記も申請できる』
6.公正証書遺言なら遺贈の書き方は気にしない
前章までの説明は、遺言書を自分で作成(自筆証書遺言)する場合です。
一方、遺言書を公正証書で作成(公正証書遺言)するなら、遺贈の書き方を気にする必要はありません。
なぜなら、公正証書遺言は公証人が作成するので、あなた(遺言者)は作成しないからです。
遺言書に記載する内容が多い場合、公正証書遺言を選んだ方が作成は楽でしょう。
7.まとめ
今回の記事では「遺贈の書き方」について説明しました。
遺言書に遺贈を記載する際は、「誰に」「何を」が分かるように記載します。
「誰に」は受遺者のことなので、氏名・生年月日・住所を書いてください。
「何を」は財産のことなので、不動産なら登記簿の記載事項、預貯金なら銀行名や口座番号等で書きます。
ただし、全財産を遺贈する場合は、財産を特定する必要がありません。
遺言書に遺贈を記載しても、受遺者が先に亡くなると、遺贈は無効になります。別の人に遺贈する希望があるなら、予備的遺言を記載しておきましょう。