遺言書に不動産を記載するなら、特定できる書き方をする必要があります。
なぜなら、遺言書は不動産の名義変更で使用するからです。
法務局の登記官が読んで分かる書き方をしていなければ、名義変更はできない恐れもあります。
不動産登記簿の記載どおりに書くのが、一番分かりやすい書き方なので、遺言書を作成する前に今回の記事を確認しておいてください。
\無料相談/
\あなたの意思表示/
1.遺言書で不動産を特定する必要がある
遺言書に不動産を記載する場合、書き方には注意してください。
なぜなら、不動産が特定できなければ、相続手続きでは使用できないからです。
1-1.遺言書は登記の申請で使用する
遺言者が亡くなった場合、遺言書に不動産が記載されていれば、法務局で不動産の名義変更をします。
ただし、法務局の登記官が遺言書を読んでも、不動産を特定できなければ名義変更できません。
例えば、以下のような遺言書があった場合。
遺言書
遺言者は、遺言者が住んでいる家を、長男○○(生年月日)に相続させる。
上記の遺言書を読んでも、登記官はどの家か分からないです。
おそらく、遺言書作成時に住んでいた家のことだと思いますが、遺言書だけ読んでも判断できません。
遺言書に不動産を記載する場合は、登記官が読んで分かるように書く必要があります。
1-2.不動産登記簿の記載どおりに書く
法務局の登記官が読んで分かる書き方とは、不動産登記簿の記載どおりに書くです。
不動産登記簿の記載どおり書けば、登記官も不動産を確認できます。
したがって、遺言書を作成するなら、前もって登記事項証明書を取得しておきましょう。
※不動登記簿と登記事項証明書は同じ。
- 登記事項証明書
-
不動産の記録が記載された書面
次章からは、具体的な書き方について説明していきます。
2.不動産によって遺言書の書き方が違う
遺言書に記載する不動産は、大きく4つに分かれています。
- 土地
- 建物
- マンション
- 共有持分
不動産の種類によって、遺言書への書き方が違うので、しっかりと確認しておいてください。
2-1.土地(宅地・農地・山林等)は4つの情報
.png)
遺言書に土地を記載する場合、4つの情報で不動産を特定します。
- 所在
- 地番
- 地目
- 地積
上記の情報も、不動産登記簿を確認すれば分かります。
以下は、不動産登記簿(土地)の記載例。
.png)
赤線で囲っている部分が、遺言書に記載する土地の情報です。
4つの情報を確認したら、遺言書に土地を記載します。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 120.00㎡
遺言書を読めば、どの土地が対象なのか判断できます。
2-2.建物(戸建て等)は5つの情報
.png)
遺言書に建物を記載する場合、5つの情報で不動産を特定します。
- 所在
- 家族番号
- 種類
- 構造
- 床面積
上記の情報も、不動産登記簿を確認すれば分かります。
以下は、不動産登記簿(建物)の記載例。
.png)
赤線で囲っている部分が、遺言書に記載する建物の情報です。
5つの情報を確認したら、遺言書に建物を記載します。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の建物を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目○番地○
家屋番号 ○番○
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 60.00㎡
2階 50.00㎡
遺言書を読めば、どの建物が対象なのか判断できます。
2-3.マンション(区分所有建物)は情報が多い
.png)
遺言書にマンションを記載する場合、戸建てや土地に比べて情報が多いです。
マンション(敷地権付区分建物)には、4つの表題部が存在します。
- 一棟の建物の表示
- 敷地権の目的である土地の表示
- 専有部分の建物の表示
- 敷地権の表示
各表題部に、それぞれ不動産を特定する情報が記載されています。
.png)
.png)
赤線で囲っている部分が、遺言書に記載する建物の情報です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を、長男○○(生年月日)に相続させる。
(一棟の建物の表示)
所在 ○○市○○町○丁目○番地○
建物の名称 ○○マンション
(敷地権の目的である土地の表示)
土地の符号 1
所在及び地番 ○○市○○町○丁目○番地○
地目 宅地
地積 ○○○○.○○㎡
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 △△○丁目○番○の○○○
建物の名称 ○○○
種類 居宅
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造1階建
床面積 ○階部分 60.00㎡
(敷地権の表示)
土地の符号 1
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 ○○○○○○分の○○○
記載する情報が多いので、自筆証書遺言を作成する場合は注意してください。
2-4.不動産の共有持分も特定情報
.png)
遺言書に記載する不動産が共有であれば、共有持分も特定する情報となります。
不動産登記簿には、共有持分も記載されているので、遺言書を書く前に確認してください。
以下は、不動産登記簿(権利部甲区)の記載例。
.png)
共有持分は、権利部(甲区)の権利者欄に記載されています。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の建物の持分を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目○番地○
家屋番号 ○番○
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 60.00㎡
2階 50.00㎡
遺言者の持分2分の1
不動産の共有者が亡くなると、共有持分が分散して不便になるので、できる限り遺言書に記載しておきましょう。
関連記事を読む『不動産の共有名義人が死亡すると持分はどうなるのか?』
3.未登記の不動産を遺言書に書く場合
未登記の不動産を遺言書に書く場合、書き方が少し違うので注意してください。
- 表題登記前の建物
- 建築中の建物
3-1.固定資産税評価証明書等から特定する
建物を新築しても自動的に登記されるわけではなく、表題登記の申請が必要です。
- 表題登記
-
不動産の物理的状況を登録する登記
表題登記が済んでいなければ、不動産登記簿も存在しません。
したがって、不動産登記簿以外で、不動産を特定する必要があります。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の建物を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目○番地○
家屋番号 未登記
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 60.00㎡
2階 50.00㎡
上記建物は未登記のため、令和○年度固定資産税評価証明書の記載による。
上記に記載されている情報は、固定資産税評価証明書に記載されています。
ただし、表題登記は義務なので、できる限り済ませておきましょう。
3-2.建築中の建物を特定する情報
遺言書を作成する時点で、建物が完成していなくても、書くことは可能です。
遺言書
遺言者は、下記の建物建築請負契約(以下「本契約」という)に基づく一切の権利及び本契約に基づき建築される建物を、長男○○(生年月日)に相続させる。
注文者 ○○○○
請負人 ○○株式会社
工事場所 ○○県○○市○○町○丁目○番
契約年月日 令和○年○月○日付
上記に記載されている情報は、工事請負契約書を確認すれば分かります。
建物完成前に遺言書を作成するなら、建築中の建物が分かるように書いてください。
4.遺言書で不動産を特定しない書き方
遺言書に不動産を記載する場合、原則として特定できるように書きます。
ただし、特定しない書き方も存在します。
4-1.全財産を相続(遺贈)させる場合
特定の人物に全財産を相続(遺贈)させる場合、遺言書で不動産を特定させなくても問題ありません。
なぜなら、全財産なので、不動産も当然に含まれるからです。
特定の相続人に全財産を相続させる
特定の相続人に全財産を相続させるなら、遺言書で不動産を特定しなくても大丈夫です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する全財産を、長男○○(生年月日)に相続させる。
上記の遺言書を読めば、長男が全財産(不動産含む)を相続すると分かります。
第3者に全財産を遺贈する
第3者に全財産を遺贈するなら、遺言書で不動産を特定しなくても大丈夫です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する全財産を、B(生年月日、住所)に包括遺贈する。
上記の遺言書を読めば、Bが全財産(不動産含む)を遺贈されたと分かります。
ちなみに、全財産を遺贈する場合、「包括」という言葉を使用しましょう。
関連記事を読む『【包括遺贈とは】遺言書で全部または一部と包括的に指定する』
4-2.すべての不動産を相続(遺贈)させる場合
特定の人物にすべての不動産を相続(遺贈)させる場合、遺言書で不動産を特定させなくても問題ありません。
なぜなら、すべての不動産なので、個別に特定する必要がないからです。
特定の相続人にすべての不動産を相続させる
特定の相続人にすべての不動産を相続させるなら、遺言書で不動産を特定しなくても大丈夫です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有するすべての不動産を、長男○○(生年月日)に相続させる。
上記の遺言書を読めば、長男がすべての不動産を相続すると分かります。
第3者にすべての不動産を遺贈する
第3者にすべての不動産を遺贈するなら、遺言書で不動産を特定しなくても大丈夫です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有するすべての不動産を、B(生年月日、住所)に遺贈する。
上記の遺言書を読めば、Bがすべての不動産を遺贈されたと分かります。
関連記事を読む『【遺言書で遺贈】文例を交えて「誰に」「何を」が分かる書き方を説明』
5.遺言書に不動産を書いても撤回は可能
遺言書に不動産を書いても、撤回は自由に認められます。
したがって、気が変わった場合や、事情が変わった場合は、遺言書を撤回してください。
遺言書の撤回方法は複数あります。
- 遺言書による撤回
- 後の遺言書の内容が抵触
- 対象物(不動産)を処分
- 遺言書を破棄
例えば、遺言書を作成した後に、不動産を処分(売却や贈与)すると、遺言は撤回したとみなされます。
遺言書の撤回方法は複数あるので、下記の記事で確認しておいてください。
関連記事を読む『遺言書の撤回はいつでも可能|みなし規定もあるので注意』
6.まとめ
今回の記事では「遺言書への不動産の書き方」について説明しました。
遺言書に不動産を記載する場合、法務局の登記官が読んで分かるように書いてください。
なぜなら、遺言書は登記の申請で使用するからです。
法務局の登記官が分かるように、不動産登記簿の記載どおりに書きましょう。
- 土地
- 建物
- マンション
不動産の種類によって項目が違うので、書く前に確認しておいてください。
ただし、全財産を相続(遺贈)する場合は、個別に不動産を特定する必要はありません。
遺言書の内容によっても、書き方は変わりますが、分かるように書く点は同じです。
不動産の書き方に関するQ&A
- 不動産の特定が曖昧だとどうなりますか?
-
法務局で名義変更する際に、相続人全員の署名捺印と印鑑証明書を求められる可能性が高いです。
- 遺言書に記載されていない不動産はどうなりますか?
-
相続人が複数なら遺産分割協議で取得者を決めます。