養子縁組による重要な変更には、相続関係だけでなく苗字も含まれます。
相続関係は死後に関係しますが、苗字の変更は養子縁組直後から生涯にわたり関係するからです。
ですが、養子縁組による苗字の変更については、意外と知られていません。
- 成人していても養親の苗字に変わる
- 結婚していても養親の苗字に変わる
苗字の変更について知らなければ、養子縁組によりトラブルも発生します。
今回の記事では、養子縁組と苗字の変更について説明しているので、養子縁組をする際の参考にしてください。
目次
1.原則として養子は養親の苗字に変わる
まず初めに、養子は養親の苗字(氏)を使うのが原則となります。
以下は、民法の条文です。
法律上、養親の苗字を称すると決まっているので、養子縁組をすると養親の苗字に変わります。
1-1.養子が成人していても養親の苗字に変わる
養子縁組により苗字が変わるのは、養子が成人していても同じです。
成人している人が養子縁組をしても、苗字が変わらないと勘違いしている人も多いです。
実際、養子縁組後に苗字の変更を知って、慌てて養子縁組を解消する人もいます。
また、養子が結婚していると、配偶者の苗字も関係するので注意が必要です。
2.結婚後に養子縁組しても苗字は変わる
結婚後に養子縁組をしても、原則どおり養親の苗字に変わります。
ただし、結婚の際にどちらの苗字を名乗っているかで、苗字の変更に違いがあります。
2-1.配偶者がいても筆頭者なら養親の苗字に変わる
養子になる人が婚姻により苗字を変えていない場合、養子縁組により養親の苗字に変更します。
例えば、佐藤さんが婚姻により苗字を変えていない場合、養子縁組により養親の苗字(高橋)に変わります。
注意が必要なのは、養子の配偶者も苗字が変わる点です。
養子の配偶者も苗字が変わる
苗字が変わるのは養子だけでなく、養子の配偶者も養親の苗字に変わります。
例えば、山田さんが婚姻により佐藤に苗字を変えていれば、配偶者の養子縁組により高橋に変わります。
養子縁組をすると配偶者の苗字にも影響があるので、養子縁組の前に確認しておいてください。
2-2.配偶者の苗字に変えているなら苗字は変わらない
養子になる人が婚姻により苗字を変えている場合、養子縁組をしても苗字は変わりません。
以下は、民法の条文です。
例えば、山田さんが婚姻により佐藤に苗字を変えているなら、養子縁組をしても苗字は佐藤のままで変わりません。
イメージとしては、養親の苗字よりも配偶者の苗字を優先するような感じです。
養子縁組後に離婚すると苗字はどうなるのか?
養子縁組後に離婚した場合、養子の苗字は以下のどちらかになります。
- 養親の苗字
- 婚姻の際の苗字
離婚することにより元の苗字に戻るのですが、養子縁組をしているので養親の苗字になります。
ただし、離婚の日から3か月以内に戸籍法の届出をすると、婚姻の際の苗字を使うことができます。
養子縁組後に離婚して再婚すると苗字はどうなるのか?
養子縁組後に離婚して再婚した場合は、上記の苗字または再婚相手の苗字になります。
3.養子に子どもがいても苗字は変わらない
子どものいる人が養子縁組により苗字が変わっても、子どもの苗字は変わりません。
意外に思われるかもしれませんが、養子縁組により親と子の苗字は分かれます。
例えば、子どものいる佐藤さんが、山田さんの養子になったケースです。
養子縁組前 | 養子縁組後 | |
養親 | 山田 | 山田 |
養子 | 佐藤 | 山田 |
養子の子ども | 佐藤 | 佐藤 |
簡単にですが、仕組みについて説明します。
民法810条により、養子は養親の苗字に変わります。
ですが、養子縁組した人の子どもの苗字については、法律上の定めがないので苗字は変わりません。
親の苗字が変わったからといって、子どもの苗字が自動的に変わるわけではありません。
ただし、子どもの苗字を親の苗字に変えることは可能なので、子どもの苗字を変えるのであれば手続きを忘れずにしましょう。
4.実親と養親の苗字が同じだと見た目は変わらない
養子縁組の当事者が同じ苗字だと、養子縁組をしても見た目の苗字は変わりません。
ただし、戸籍の手続き上は、養子縁組により実親から養親の苗字に変わっています。
分かりにくいので、下記の図で説明します。
漢字は同じ山田ですが、別の苗字(山田)になります。
養子の苗字は養子縁組により、実親の苗字(山田)から養親の苗字(山田)に変わっています。
例えば、親族間で養子縁組をすると、苗字は変わらないのに新戸籍を編纂することがあります。
なぜかというと、養子縁組により別の苗字に変わっているからです。
実親と養親の苗字が同じであれば、見た目の苗字は変わりませんが、戸籍の手続き上は別の苗字に変わっています。
5.養子縁組を複数回すると苗字はどうなるのか?
あまり知られていないのですが、養子縁組に回数制限はありません。同時に複数人と養子縁組をすることも可能です。
では、複数人と養子縁組をすると、苗字はどうなるのでしょうか。
結論から言うと、最後の養親の苗字に変わります。
例えば、山田さんが佐藤さんと養子縁組をした後に、高橋さんとも養子縁組を結んだ場合です。
養子縁組をするたびに、養子の苗字は養親の苗字に変わります。
養子縁組を複数人とする予定があるなら、順番を変えることで苗字も調整することができます。
6.養子縁組を解消すると苗字は元に戻る
原則として、養子縁組を解消すると、養子の苗字は元の苗字に戻ります。
養子縁組の解消方法は複数ありますが、苗字の変更については同じです。
以下は、民法の条文です。
例えば、山田さんが養子縁組により佐藤に苗字を変えていれば、養子離縁により苗字は山田に戻ります。
ただし、例外により養親の苗字を名乗るケースがあります。
- 片方の養子縁組は継続している
- 戸籍法の届出をしている
それぞれ説明していきます。
6-1.片方の養子縁組が継続中なら苗字は変わらない
養子縁組を解消しても片方の養子縁組が継続しているなら、養子の苗字は変わりません。
例えば、祖父母と孫が養子縁組をしていたケースです。
祖父との養子縁組を解消しても、祖母との養子縁組が継続していれば、養子の苗字は変わらないです。
養子の苗字を元に戻したいなら、両方の養子縁組を解消する必要があります。
関連記事を読む『孫と養子縁組を結ぶなら法定相続分の変更に注意』
6-2.養子縁組を解消後も苗字をそのままにしたい
養子縁組を解消しても、法律の条件を満たせば養親の苗字をそのまま使用できます。
以下は、民法の条文です。
- 養子縁組の期間が7年以上
- 養子離縁の日から3か月以内に届出
上記を2つとも満たすと、養子縁組解消後も養親の苗字を使用できます。
ちなみに、3か月以内と書いていますが、養子離縁届と同時に「離縁の際に称していた氏を称する届」を提出することが多いです。
関連記事を読む『【離縁の際に称していた氏を称する届】苗字の使用条件は2つ』
7.養子縁組による苗字の変更と実親の相続
意外と間違えている人が多いのですが、養子縁組による苗字の変更と実親の相続は無関係です。
養子縁組により苗字が変わっても、実親の相続人であることに変わりはありません。養子になった人は、養親および実親の相続人となります。
たとえ結婚する際に婿養子になっても、実親の相続から外れるわけではないです。
相続は苗字で判断するのではなく、法律により判断されるので気を付けてください。
関連記事を読む『養子縁組をした後に元の親の相続に関係するのか?』
8.養子縁組せずに苗字は変更できるのか?
養子縁組せずに苗字を変更したい人もいます。
養子縁組以外であれば、以下の2つがあります。
- 婚姻による変更
- 氏の変更許可の申立て
婚姻は説明不要なので省略します。
家庭裁判所に氏の変更許可の申立てをして、許可を得られると氏(苗字)を変更できます。
ただし、よほどの理由がない限り、家庭裁判所の許可は下りません。苗字を変更しなければ、生活に支障がでるような理由が必要です。
一般的には、養子縁組または婚姻でしか苗字を変更できません。
9.さいごに
養子縁組により養子は養親の苗字に変わります。
養子が成人であっても養親の苗字に変わりますし、結婚していても養親の苗字に変わります。
ただし、結婚の際に配偶者の苗字に変えていれば、養親の苗字には変わりません。
原則として、養子縁組を解消すると、養子の苗字は元に戻ります。
養子縁組をすると苗字が変わるだけでなく、相続関係も変わるので十分に気を付けてください。