相続人が複数の場合、相続登記は3つに分かれます。
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亡くなった人が遺言書で不動産の取得者を決めていれば、相続人が複数でも遺産分割協議不要で相続登記できます。
一方、遺言書で不動産の取得者を決めていなければ、遺産分割協議で不動産の取得者を決めます。
ちなみに、遺産分割協議が成立するまでの間、不動産は相続人全員で遺産共有となるので、法定相続分での相続登記も可能です。
今回の記事では、相続人が複数の相続登記について説明しているので、しっかりと確認しておいてください。
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1.相続人が複数でも遺言書の内容で相続登記

亡くなった人の相続人が複数でも、まずは遺言書の有無を確認してください。
なぜなら、遺言書で不動産の取得者を決めていれば、相続人が複数でも遺産分割協議は不要だからです。
- 遺言書があれば遺産分割協議は不要
- 遺言書により取得する人が単独申請
- 遺言書に記載のない不動産は法定相続
- 遺言書に記載された相続人が相続放棄
1-1.遺言書があれば遺産分割協議は不要
亡くなった人の相続人が複数の場合、原則として遺産分割協議により不動産の取得者を決めます。
ただし、遺言書で不動産の取得者(相続人)を決めている場合は、相続発生時に不動産の所有権も移転するので、遺産分割協議は不要です。
例えば、亡くなった人が土地(宅地)を所有していた場合。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 120.00㎡
相続財産である土地(宅地)の所有権は、相続発生と同時に長男が相続します。
亡くなった人の相続人が複数でも、遺言書で不動産の取得者を決めていれば、遺産分割協議は不要です。
1-2.遺言書により取得する人が単独申請
亡くなった人が不動産の取得者(相続人)を遺言書で決めていた場合、取得者は単独で相続登記を申請できます。
たとえ相続人が複数であっても、取得者以外の相続人は相続登記に関係しません。
被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男
不動産 |遺言書により長男が相続
遺言書の効力により、相続発生と同時に不動産は長男が相続します。
そして、長男は単独で相続登記を申請できます。二男や三男の印鑑証明書等も不要です。
相続人が複数の場合でも、被相続人が遺言書で不動産の取得者を決めていれば、相続登記は単独で申請できます。
生前に不動産の取得者が決まっているなら、遺言書を作成した方が相続手続きの手間はかからないです。
関連記事を読む『相続登記は遺言書があっても必要!後回しにせず速やかに申請』
1-3.遺言書に記載のない不動産は法定相続
亡くなった人が遺言書を作成していても、記載のない不動産は原則どおり法定相続(遺産分割協議)となります。
※一部の財産しか記載がなくても遺言書は有効。
遺言者が書き忘れていた場合や、遺言書作成後に不動産を取得した場合など、さまざまなケースが考えられます。
例えば、亡くなった人が宅地と田畑を所有していた場合です。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 120.00㎡
上記の遺言書には宅地しか記載されていないので、田畑は遺産分割協議の対象となります。
亡くなった人が遺言書を作成していても、記載のない不動産は原則どおり法定相続なので注意してください。
1-4.遺言書に記載された相続人が相続放棄
遺言書に不動産を取得する相続人が記載されていても、相続したくない人は相続放棄を選べます。
なぜなら、遺言書は遺言者の一方的な意思表示であり、相続の強制はできないからです。
例えば、以下のような遺言書があったので、長男が相続放棄した場合です。
※相続人は長男・二男・三男
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の土地を、長男○○(生年月日)に相続させる。
所在 ○○市○区○○町○丁目
地番 ○○番
地目 田
地積 100㎡
長男は相続放棄により相続人ではないので、田は二男と三男の遺産分割協議で取得者を決めます。
もちろん、相続放棄した人は「その他の相続財産」も取得できないので、相続放棄するかは慎重に判断してください。
関連記事を読む『遺言書があっても相続放棄できる!公正証書遺言でも強制できない』
2.相続人が複数なら遺産分割協議により相続登記

亡くなった人が遺言書を作成していない場合、相続人が複数であれば、遺産分割協議により不動産の取得者を決めて相続登記します。
ただし、相続人の数が多いと、遺産分割協議の成立が難しくなります。
- 相続人全員の参加・同意が成立要件
- 相続人が行方不明でも除外できない
- 相続人全員の印鑑証明書が添付書類
- 相続放棄した人は遺産分割に無関係
2-1.相続人全員の参加・同意が成立要件
遺産分割協議は相続人全員の参加・同意がなければ成立しません。
誰か一人でも不参加なら不成立ですし、誰か一人でも反対なら不成立です。
以下は、相続人が3人だった場合の遺産分割協議。
| 長男 | 二男 | 三男 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 同意 | 同意 | 反対 | 不成立 |
| 同意 | 同意 | 不参加 | 不成立 |
| 同意 | 同意 | 同意 | 成立 |
遺産分割協議に相続人全員が参加・同意したら、遺産分割協議書を作成してください。
口頭でも遺産分割協議は成立しますが、相続登記には遺産分割協議書が必要だからです。
相続人が複数だと、遺産分割協議書が相続登記の添付書類に含まれます。
2-2.相続人が行方不明でも除外できない
相続人が複数の場合、行方不明者が含まれているケースもあります。
ただし、行方不明だったとしても、遺産分割協議から除外できないです。法定相続分の多い少ないは関係ありません。
相続人の中に行方不明者がいるなら、以下の方法を検討してください。
- 不在者財産管理人
- 失踪宣告
- 所在等不明共有者持分取得
不在者財産管理人の選任
行方不明の相続人に不在者財産管理人を選任します。
選任された不在者財産管理人は、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加します。
失踪宣告により行方不明者は死亡
相続人の行方不明が一定期間以上であれば、失踪宣告により死亡とみなします。
行方不明の相続人が死亡すると、遺産分割協議の参加者が変更するので、新しい参加者を含めて不動産の取得者を決めてください。
所在等不明共有者持分取得
相続開始から10年以上経過していれば、所在等不明共有者持分取得も選択肢になります。
所在等不明共有者持分取得とは、行方不明の相続人が有する不動産持分を、金銭の支払いにより取得する制度です。
詳しくは、下記の記事で説明しています。
関連記事を読む『相続登記は相続人が行方不明でもできる!単独所有にする方法も説明』
2-3.相続人全員の印鑑証明書が添付書類
相続人が複数の場合、遺産分割協議書だけでなく、相続人全員の印鑑証明書も添付書類となります。
なぜなら、遺産分割協議書には実印で押印するからです。認印では相続登記できません。
私の経験上、相続人が複数だと印鑑証明書が問題になります。
- 実印を役所に登録していない
- 印鑑証明書を取得する時間がない
- 印鑑証明書を渡してくれない
実印を役所に登録していない
すべての相続人が印鑑登録していれば問題ありませんが、役所に登録していない相続人も存在します。
ですが、相続登記を申請するには、印鑑登録してもらう必要があります。
遺産分割協議書を作成する前に、印鑑登録の有無を確認しておいてください。
印鑑証明書を取得する時間がない
印鑑証明書は郵送請求できないので、窓口で取得するしかありません。
したがって、窓口に行ってもらう時間が必要です。
仕事等で時間が無い相続人は、家族を代理人にして取得してください。
印鑑証明書を渡してくれない
相続人同士の関係が悪いと、印鑑証明書を渡してくれない可能性があります。
※疎遠な場合も含む。
例えば、返送された遺産分割協議書に押印はあるが、印鑑証明書は渡してくれない場合。
押印があるので遺産分割協議は成立していますが、相続登記への協力を拒んでいる状態です。
どうしても印鑑証明書を渡してくれない場合は、「証書真否確認の訴え」で解決してください。
証書真否確認の訴えが認められると、印鑑証明書が無くても相続登記は申請できます。
2-4.相続放棄した相続人は遺産分割に無関係
相続放棄した人は相続人ではないので、遺産分割協議にも参加しません。
したがって、遺産分割協議書への署名捺印や印鑑証明書の添付も不要です。
もし相続手続きに関わりたくない相続人がいるなら、相続放棄した方が楽かもしれません。
相続放棄は認印で可能なので、実印や印鑑証明書も不要だからです。
以下の記事では、相続手続きに関わりたくない相続人について説明しているので、ぜひ参考にしてください。
関連記事を読む『相続に関わりたくないなら相続放棄がベストな根拠』
3.相続人が複数でも法定相続分で相続登記

原則として、相続人が複数であれば、遺産分割協議の内容により相続登記します。
ただし、法定相続分での相続登記は、遺産分割協議が不成立でも可能です。
- 遺産共有とは法定相続分での共有
- 保存行為として登記は単独申請
- 自分の持分は処分(売買・贈与)できる
3-1.遺産共有とは法定相続分での共有
相続開始から遺産分割協議が成立するまでの間、不動産は相続人全員で共有(遺産共有)となります。
そして、共有者の持分割合は法定相続分です。
法定相続分は「配偶者+血族相続人」の組み合わせで決まります。
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| 配偶者 | 子 | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
|---|---|---|---|
| 2分の1 | 2分の1 | ||
| 3分の2 | 3分の1 | ||
| 4分の3 | 4分の1 |
同順位の血族相続人が複数の場合は、人数で持分を等分します。
例えば、父親が亡くなって、相続人が配偶者と子ども2人だった場合です。
配偶者|2分の1
子ども|4分の1
子ども|4分の1
相続開始から遺産分割協議が成立するまでの間、不動産は上記の割合で遺産共有となります。
不動産が遺産共有の場合、法定相続分で相続登記が可能です。
関連記事を読む『【法定相続分】割合は法律の定めにより組み合わせで変わる』
3-2.保存行為として登記は単独申請できる
法定相続分での相続登記は、相続人の1人から単独申請できます。
※複数での申請も可能。
なぜなら、不動産の現状を表しているだけであり、保存行為と判断されるからです。
被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男
相続財産|建物・土地
父親は遺言書を残していなかったので、相続人全員で不動産について話し合ったが、意見は一致しなかった。
遺産分割協議が不成立の場合、長男・二男・三男は単独で法定相続分の相続登記を申請できます。
法定相続分で相続登記を申請する場合、他の相続人の同意は必要ありません。
ただし、申請人以外の相続人に登記識別情報が発行されないなど、デメリットもあるので、以下の記事で確認しておいてください。
関連記事を読む『相続登記を法定相続分で申請するなら単独でも可能だが問題もある』
3-3.自分の持分は処分(売買・贈与)できる
不動産が遺産共有の場合、各相続人は自分の持分を自由に処分(売買・贈与)できます。
そして、自分の持分を処分する場合、法定相続分で相続登記した後に、持分移転登記を申請します。
以下は、実際にあったケースです。
被相続人は遺言書を残しておらず、相続人は甥姪を含めて8人。
相続財産である不動産の購入希望者がいたので、相続人全員で話し合ったが、売却金額などで意見が一致せず、遺産分割協議は不成立となった。
不動産売却に賛成していた相続人と購入希望者で話し合った結果、共有持分の売却で話がまとまったので、売却の前提として法定相続分で相続登記した。
一部の相続人が持分を売却したので、持分移転登記を申請した。
不動産が遺産共有であっても、自分の持分は自由に処分できます。
もちろん、不動産全体の売却に比べて、持分の売却は金額が低いです。あくまでも、話し合いが成立しない場合の対応策だと知っておいてください。
関連記事を読む『不動産の共有持分を売却するのに共有者の同意は不要』
関連記事を読む『不動産の共有持分を贈与する相手は自由に選べる』
4.まとめ
今回の記事では、「相続人が複数の相続登記」について説明しました。
相続人が複数であっても、遺言書で不動産の取得者が決まっていれば、相続登記を申請できます。
遺言書で不動産の取得者を決めていなければ、相続人全員の遺産分割協議で取得者を決めてください。
ただし、相続人全員の同意がなければ、遺産分割協議は成立しません。遺産分割協議が成立するまでの間は遺産共有となります。
不動産が遺産共有の場合、法定相続分の相続登記は可能です。相続人が複数であっても、登記は単独で申請できます。
不動産が遺産共有であっても、自分の持分は処分できるので、遺産共有から抜けたい人は検討してみてください。
相続人が複数の相続登記に関するQ&A
最後に、相続人が複数の相続登記に関して、よくある質問と回答をまとめました。
遺産分割協議で不動産の取得者を決めた場合、取得者以外の相続人は相続登記の申請人になりますか?
不動産の取得者以外は申請人になりません。
相続人が複数の場合、全員が集まらないと遺産分割協議できませんか?
遺産分割協議の内容に相続人全員が同意すれば、集まらなくても問題ありません。
一部の相続人が反対しても、法定相続分の相続登記は可能ですか?
可能です。法定相続分の相続登記に同意は必要ありません。



