配偶者が被相続人の建物に住んでいる場合、相続放棄しても配偶者短期居住権により建物に住み続けることが可能です。
ただし、居住できる期間には限りがあるので、無期限に住めるわけではありません。
また、居住期間内であっても権利が消滅するケースや、第三者には権利を主張できない点には注意が必要です。
この記事では、相続放棄と配偶者短期居住権の関係について説明しているので、相続放棄を検討しているなら最後までお読みください。
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司法書士 小嶋高士
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1.相続放棄しても配偶者短期居住権は認められる

亡くなった人の配偶者が相続放棄した場合でも、配偶者短期居住権は認められます。
なぜなら、相続人としての権利ではなく、配偶者としての権利だからです。
もちろん、無条件で認められるわけではなく、相続開始時に建物に住んでいる必要があります。
1-1.相続人ではなく配偶者が取得する権利
配偶者短期居住権は、相続により取得する権利ではなく、亡くなった人の配偶者が取得する権利です。
相続放棄すると相続人ではありませんが、配偶者であることに変わりはありません。
そのため、配偶者が相続放棄した場合でも、配偶者短期居住権の取得は可能です。
相続放棄の有無と配偶者短期居住権の取得に関係はありません。
1-2.相続開始時に被相続人の建物に居住が条件
配偶者短期居住権を取得するには、相続開始時に被相続人の建物に住んでいる必要があります。
(配偶者短期居住権) 第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、(後略)
配偶者が相続開始時に被相続人の建物に住んでいれば、相続放棄しても配偶者短期居住権を取得します。
※同居は条件に含まれていない。
▼家族構成
被相続人|A
相続人 |B(配偶者)、C(子)
※BはAの建物に住んでいる
▼相続財産
不動産|建物
負債 |1,000万円
債務超過を理由にBは相続放棄したが、相続開始時にAの建物に住んでいるので、配偶者短期居住権を取得します。
配偶者が相続開始時に被相続人の建物に住んでいたら、相続放棄しても配偶者短期居住権を取得できます。
2.相続放棄した配偶者はいつまで住めるのか

相続放棄した配偶者が配偶者短期居住権を取得した場合、いつまで建物に住めるのかは法律で決まっています。
第千三十七条 配偶者は、(省略)次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、(省略)居住建物について無償で使用する権利(省略)を有する。(省略) 二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日 (省略) 3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
※1037条1項1号は配偶者が相続人の場合であり、相続放棄した場合は1037条1項2号が該当します。
居住建物取得者とは、相続人または遺贈により建物を取得した人のことです。
2-1.配偶者短期居住権消滅の申入れから6ヶ月
相続放棄した配偶者が建物に住める期間は、居住建物取得者が配偶者短期居住権消滅の申入れをした日から6ヶ月経過する日までになります。
▼日付
相続発生 |4月12日
相続放棄の審判|5月16日
消滅の申入れ |4月30日
居住建物取得者から4月30日に消滅の申入れを受けた場合、10月30日までは建物に住めます。
相続発生日や相続放棄した日は関係ないので、間違えないよう注意してください。
亡くなった人の不動産を取得した人(相続人や受遺者)から、短期居住権消滅の申入れを受けた日から6ヶ月経過するまでは建物に住めます。
最低でも相続発生から6ヶ月は住めると覚えておきましょう。
2-2.全員が相続放棄した場合は誰が申入れするのか?
一般的に、配偶者だけが相続放棄するケースは少なく、配偶者を含めて相続人全員が相続放棄するケースの方が多いです。
ですが、民法には相続人が全員相続放棄して、かつ、建物の受遺者も存在しない場合について、何も記載されていません。
では、誰が短期居住権消滅の申入れをするかというと、私は相続財産清算人だと考えています。
なぜなら、相続人が全員相続放棄すると、相続財産(建物含む)は相続財産法人になるからです。
※包括受遺者が存在しない場合。
相続財産清算人は相続財産法人を代理するので、配偶者に対して短期居住権消滅の申入れができるという考えです。
関連記事を読む『相続財産清算人は相続放棄により必要な場合がある』
3.相続放棄後に配偶者短期居住権が消滅するケース

相続放棄した後に配偶者短期居住権が消滅するケースは、大きく4つに分かれます。
- 存続期間の満了
- 配偶者が死亡
- 居住建物が滅失
- 建物の使用違反
存続期間の満了(消滅申入時から6ヶ月経過)は前章で説明済なので、残りの消滅ケースについて説明していきます。
3-1.存続期間満了前に配偶者が死亡
配偶者短期居住権の消滅申入時から6ヶ月経過していなくても、配偶者が死亡すると権利は消滅します。
※消滅申入前に死亡した場合を含む。
(使用貸借等の規定の準用) 第千四十一条 第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。 第五百九十七条(省略) 3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
たとえ配偶者に相続人がいても、配偶者短期居住権は相続の対象になりません。
▼日付
夫の死亡日 |3月12日
妻の相続放棄|4月25日
消滅の申入れ|4月30日
妻の死亡日 |6月14日
妻は居住建物取得者から4月30日に消滅の申入れを受けています。
しかし、妻は6月14日に亡くなったので、権利は10月30日ではなく6月14日に消滅します。
配偶者短期居住権は配偶者の居住権保護が目的なので、配偶者が亡くなると存続期間が残っていても終了です。
配偶者の相続人が存続期間満了まで建物に住めるわけではありません。
3-2.居住建物の滅失による使用不能
配偶者短期居住権の消滅申入時から6ヶ月経過していなくても、居住建物が滅失により使用不能になると権利は消滅します。
※消滅申入前に死亡した場合を含む。
(使用貸借等の規定の準用) 第千四十一条 第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。 第六百十六条の二 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
権利の対象となる建物が滅失した以上、期間が残っていても終了です。
ちなみに、居住建物取得者が他の建物を用意する義務はありません。
3-3.建物の使用違反による権利消滅
相続放棄した配偶者が短期居住権を取得した場合でも、法律に従って建物を使用する義務があります。
もし配偶者が違反した場合は、居住建物取得者は意思表示により権利を消滅できます。
(配偶者による使用) 第千三十八条 配偶者(省略)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。 2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。 3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。
従前の用法と違う使い方をしている
相続放棄した配偶者は、従前の用法に従って建物を使用する義務があります。
例えば、配偶者が相続発生後に建物で商売を始めた場合、従前の用法と違うので居住建物取得者は権利消滅の意思表示が可能です。
配偶者短期居住権を取得したからといって、何をしても良いわけではないので注意してください。
無断で第三者に建物を使用させた
相続放棄した配偶者が無断で第三者に建物を使用させた場合、居住建物取得者は権利消滅の意思表示が可能です。
あくまでも、配偶者が建物を使用する権利であり、第三者に使用させる権利ではありません。
どうしても第三者に建物を使用させたい場合は、居住建物取得者の承諾を得てください。
4.配偶者短期居住権で注意すべき点
相続放棄した配偶者が、配偶者短期居住権を取得した場合、注意すべき点が3つあります。
- 固定資産税は配偶者が負担
- 第三者には権利を対抗できない
- 全員相続放棄すると保存義務
相続放棄を検討しているなら、しっかりと確認しておいてください。
4-1.固定資産税は配偶者が負担する
配偶者短期居住権に建物を使用する場合、固定資産税は配偶者が負担します。
(使用貸借等の規定の準用) 第千四十一条 第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。 第千三十四条 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
居住建物および敷地の固定資産税は通常の必要費に該当する1ので、配偶者に負担義務があります。
建物を無償で使用する権利の代償として、通常の必要費は配偶者が負担するという考えです。
4-2.第三者には権利を対抗できない
配偶者短期居住権には第三者への対抗力がありません。
分かりやすく言うと、居住建物取得者以外の人に対して、配偶者短期居住権は主張できないです。
▼建物の所有者
夫
↓
子(居住建物取得者)
↓
第三者
子が第三者に建物を売却した場合、妻は第三者に配偶者短期居住権を主張できないので、建物に住むことはできません。
居住建物取得者が建物を処分した場合だけでなく、強制競売により処分された場合も、配偶者は建物に住めません。
配偶者短期居住権は、居住建物取得者に対してのみ主張できる権利です。
4-3.全員相続放棄すると建物の保存義務
配偶者だけでなく他の相続人も全員相続放棄した場合、建物の保存義務が問題になります。
なぜなら、相続放棄した人が建物を現に占有していた場合、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が発生するからです。
(相続の放棄をした者による管理) 第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
相続人(居住建物取得者)がいれば建物を引き渡すだけです。
しかし、相続人が全員相続放棄していると、相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が続きます。
相続財産清算人の選任は予納金の問題等により、誰も申立てをしない可能性があり、いつまでも保存義務が続くという問題があるので注意してください。
関連記事を読む『【相続放棄後の管理義務】法改正後の940条で責任者が明確になる』
5.相続放棄と配偶者短期居住権に関するQ&A
相続放棄と配偶者短期居住権について、よくある質問と回答をまとめました。
配偶者短期居住権を使用せずに引っ越すことは可能ですか?
可能です。権利を取得しても使用するかは配偶者の自由です。
居住建物取得者が建物を取り壊した場合、権利はどうなりますか?
建物の滅失により権利は消滅します。
ただし、配偶者は期間満了までの家賃相当額を、居住建物取得者に請求できると考えられます。
第三者に建物が処分された場合、いつまで住めますか?
建物の所有者である第三者が決めます。
第三者が同意すれば、改めて賃貸借契約を結ぶことは可能です。
上記以外にも、相続放棄のQ&Aは100以上あるので参考にしてください。

6.まとめ

配偶者が相続放棄しても、条件を満たしていれば配偶者短期居住権を取得できます。
なぜなら、相続によって取得する権利ではなく、配偶者という立場によって取得する権利だからです。
ただし、以下の点には注意が必要です。
- 消滅の申入れから6ヶ月経過するまで
- 配偶者の死亡や建物の滅失で権利は消滅
- 第三者に対しては権利を対抗できない
- 固定資産税は配偶者が負担する
相続放棄は受理されると撤回できないので、注意点も理解したうえで配偶者短期居住権にメリットを感じるか判断してください。
- 最判昭36・1・27 集民48ー179 ↩︎



