相続が発生して、すでに相続放棄すると決めている人もいるでしょう。
ですが、安易に判断すると、後になって「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースも少なくありません。本来得られるはずだった利益を失ったり、予期せぬトラブルが発生したりもするので、相続放棄しない方が良いケースもあるからです。
今回の記事では、相続放棄しない方が良いケースを6つ説明しています。
- 実は借金が残っていなかった
- 後順位相続人へ相続を移したくない
- 相続財産の中に取得したい財産がある
- 相続人が連帯保証人になっている
- 特定の相続人に財産を譲りたい
- 不動産の共有関係を複雑にしたくない
もちろん、上記に該当しても最終的に相続放棄するかは、相続人が自由に決めて問題ありません。しっかりと確認したうえで決めてください。
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相続放棄しない方が良い(1)借金が残っていなかった
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相続放棄しない方が良いケース1つ目は、借金が残っていなかった場合です。
もし借金が残っていなければ、プラスの財産だけ相続できます。
- 団体信用生命保険に加入していた
- 消滅時効の要件を満たしていた
- 被相続人の借金ではなかった
1-1.団体信用生命保険に加入していた
被相続人が団体信用生命保険に加入していた場合、相続放棄しない方が良いかもしれません。
なぜなら、団体信用生命保険により、住宅ローンの残高は完済されるからです。
- 団体信用生命保険
-
住宅ローンの債務者が死亡した場合に、保険会社から金融機関へローンの残高を支払う生命保険
被相続人|父親
相続人 |配偶者・長男・長女
相続財産|不動産・住宅ローン(3,000万円)
生命保険|団体信用生命保険に加入
父親には負債が3,000万円(住宅ローン)ありますが、団体信用生命保険により3,000万円は完済されます。
したがって、相続財産は不動産のみとなります。
被相続人の負債が住宅ローンの場合は、団体信用生命保険に加入しているか確認してください。
団体信用生命保険に加入していれば、住宅ローンの残高は相続しないので、相続放棄しない方が良いかもしれません。
関連記事を読む『相続放棄と住宅ローンの関係|間違えやすい点を3つ説明』
1-2.消滅時効の要件を満たしていた
被相続人に借金があっても、消滅時効の要件を満たしているなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
なぜなら、時効により借金は消滅するので、実質的に無いのと同じだからです。
- 消滅時効
-
一定期間権利を行使しない場合、権利が消滅する制度
(債権等の消滅時効) 第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
被相続人|父親
相続人 |長男・長女
相続財産|不動産・借金(500万円)
消滅時効|10年以上返済も催促もない
父親には借金が500万円ありますが、10年以上返済も催促もされていないので、消滅時効は完成しています。
したがって、相続人が時効を援用すれば、借金を返済する義務はなくなります。
亡くなった人に借金があっても、時効により消滅するなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
ただし、消滅時効には注意点が2つあります。
- 時効を援用しなければ借金は消滅しない
- 時効が完成していなければ単純承認になる
時効を援用しなければ借金は消滅しない
消滅時効が完成していても、相続人が時効を援用しなければ、借金は消滅しません。
相続人が債権者に対して時効の援用をしない限り、借金は消滅せずに残り続けます。
たとえ何十年経過していても、債権者に対する意思表示がなければ、借金は消滅せずに残り続けます。
時効が完成していなければ単純承認になる
相続人が債権者に対して意思表示(時効の援用)をした場合、時効が完成していなければ単純承認したとみなされます。
なぜなら、消滅時効の援用は相続財産の処分と考えられるからです。
亡くなった人の時効を援用する場合は、前もって弁護士等に相談して、間違いがないか確認しておいてください。
1-3.亡くなった人の負債ではなかった
負債があっても亡くなった人の負債でなければ、相続放棄しない方が良いでしょう。
例えば、亡くなった人が会社の経営者だった場合です。
被相続人|父親(社長)
相続人 |長男・長女
相続財産|借金(2,000万円)・不動産
父親には借金があると思っていたが、会社の借金であり父親の借金ではなかった。
会社の借金であれば相続財産ではないので、不動産だけ相続できます。
亡くなった人が会社の経営者だった場合、誰の名義で借金しているのか確認してください。会社名義の借金であれば、相続の対象ではありません。
ただし、亡くなった人が会社の連帯保証人になっている場合は別です。連帯保証人の地位は相続の対象なので、実質的に借金を相続しているのと同じ扱いになります。
相続放棄しない方が良い(2)後順位に移したくない
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相続放棄しない方が良いケース2つ目は、後順位相続人に相続を移したくない場合です。
後順位相続人に相続を移したくないなら、誰か1人は相続する必要があります。
- 親戚との関係を悪くしたくない
- 後順位に判断能力が無い人がいる
2-1.親戚との関係を悪くしたくない

後順位相続人である親戚との関係を悪くしたくないなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
亡くなった人に借金や負動産がある場合、先順位相続人が相続放棄すると、後順位相続人である親戚に財産は移るからです。
後順位相続人が相続放棄の手続きをすれば問題ないのですが、手続きが面倒だと先順位相続人に文句を言ってくる人もいます。
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親に借金があるので相続放棄しました



面倒ごとを押し付けてくるな!親の借金は子どもが責任取れ!
後順位相続人は先順位相続人よりも年齢の高い人が多いので、文句を言いやすい立場にあります。
親戚との関係を悪くしたくないなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
関連記事を読む『相続放棄で親戚に迷惑をかけたくなければ4つの方法を検討』
2-2.後順位に判断能力の無い人がいる
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後順位相続人に判断能力(意思能力)の無い人がいるなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
なぜなら、後順位相続人に相続が移っても、判断能力が無いと相続放棄できないからです。
被相続人|父親
先順位 |長男・長女
後順位 |父の姉(重度の認知症)
相続財産|借金(50万円)
先順位である長男と長女が相続放棄すると、後順位の姉に相続が移ります。
ですが、父親の姉は数年前から重度の認知症であり、相続放棄を判断する能力がありません。
相続放棄するためには、後見人を選任する必要があります。
すでに後見人が選任されているなら別ですが、相続放棄のために後見人が必要になると、後順位相続人の家族が迷惑に感じるでしょう。
後順位相続人に判断能力の無い人がいるなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
関連記事を読む『相続放棄は認知症の人もできるが本人の意思能力は必要!』
相続放棄しない方が良い(3)取得したい財産がある
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相続放棄しない方が良いケース3つ目は、取得したい相続財産がある場合です。
相続財産を取得したいなら、単純承認または限定承認の方が良いでしょう。
- 相続財産はすべて取得できない
- 知らなかった財産も取得できない
3-1.相続財産はすべて取得できない
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相続放棄すると相続財産はすべて取得できません。
なぜなら、相続放棄した人は相続人ではないからです。相続人ではないので、相続財産の中に欲しい財産があっても取得できません。
被相続人|父親
相続人 |子
相続財産|不動産・借金(500万円)
父親の借金を相続したくないので相続放棄した場合、借金だけでなく不動産も取得できないです。
相続放棄は財産を選んで放棄する制度ではないので、取得したい財産があるなら相続放棄しない方が良いでしょう。
関連記事を読む『相続の一部放棄はできない!相続放棄すると全財産を引き継げない』
3-2.知らなかった財産も取得できない
相続放棄する際に知らなかった財産があっても取得できません。
なぜなら、相続財産を知っていたかに関わらず、相続放棄の効力は発生するからです。
被相続人 |父親
相続放棄 |子
知っていた |借金(500万円)
知らなかった|定期預金(1,000万円)
相続放棄した際に定期預金の存在を知らなかった。
ですが、子は相続人ではないので、定期預金を取得できません。
相続放棄する前に調査するかは相続人の自由ですが、知らなかった財産があっても相続できないので注意してください。
預貯金や株券などが見つかる可能性があるなら、相続放棄しない方が良いでしょう。
相続放棄しない方が良い(4)連帯保証人になっている
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相続放棄しない方が良いケース4つ目は、相続人が連帯保証人になっている場合です。
亡くなった人の連帯保証人になっているなら、相続放棄では解決できません。
- 連帯保証人としての責任は残る
- 債務を弁済しても財産は相続できない
4-1.連帯保証人としての責任は残る
亡くなった人の連帯保証人になっている場合、相続放棄しても連帯保証人としての責任は残ります。
なぜなら、連帯保証人としての責任は、相続とは別の法律関係(連帯保証契約)に基づいているからです。
被相続人 |夫
相続人 |妻・子
相続財産 |借金(50万円)
連帯保証人|妻
妻が夫の相続放棄をすると借金は引き継ぎませんが、連帯保証人としての地位は変わらないです。
相続人が全員相続放棄しても、債権者は妻(連帯保証人)に請求できます。
亡くなった人に借金があっても、相続人が連帯保証人になっているなら、相続放棄しても意味がないかもしれません。
もちろん、他にも借金がある場合などは、相続放棄する意味があります。
関連記事を読む『相続人が連帯保証人なら相続放棄しても責任は残るので注意』
4-2.債務を弁済しても財産は相続できない
亡くなった人の連帯保証人(相続放棄した相続人)が債務を弁済しても、相続財産は相続できません。
あくまでも連帯保証人として債務を弁済しているので、相続放棄の効力に影響はないからです。
ちなみに、相続人に対する求償権は取得できますが、相続人が全員相続放棄していると、相続財産清算人を選任しなければ相続財産に求償権を行使できません。
連帯保証人として債務を弁済するなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
相続放棄しない方が良い(5)特定の相続人に譲りたい
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相続放棄しない方が良いケース5つ目は、特定の相続人に財産を譲りたい場合です。
相続人の人数や組み合わせによっては、財産を譲れない可能性があります。
- 配偶者に譲れるとは限らない
- 意図しない相続人の相続分も増える
5-1.配偶者に譲れるとは限らない
子供が相続放棄しても、亡くなった人の配偶者に相続財産を譲れるとは限りません。
なぜなら、相続順位の変更により、第2順位や第3順位が相続人になるからです。
※配偶者は順位変更に関係しない。
被相続人|夫
相続人 |妻・長男・二男
相続放棄|長男・二男
亡くなった人の長男と二男は、母親(妻)に相続財産を譲るため相続放棄しました。
ところが、亡くなった人には疎遠だった兄がいたので、母親(妻)と第3順位である兄が相続人になります。
配偶者に相続財産を譲るために相続放棄する場合、第2順位や第3順位を戸籍を取得して確認しておいてください。
もし第2順位や第3順位がいるなら、相続放棄しない方が良いでしょう。
5-2.意図しない相続人の相続分も増える
同順位の相続人が3人以上いる場合、相続放棄すると意図しない相続人の相続分も増えます。
なぜなら、法定相続分の計算を初めからやり直すからです。
被相続人|父親
相続人 |長男・二男・三男
相続放棄|三男
亡くなった人の三男は、長男に相続財産を譲るため相続放棄しました。
ですが、長男だけ相続分が増えるわけではなく、二男の相続分も増えます。
相続人 | 相続放棄前 | 相続放棄後 |
---|---|---|
長男 | 3分の1 | 2分の1 |
二男 | 3分の1 | 2分の1 |
三男 | 3分の1 | ー |
同順位の相続人に相続分を譲りたいなら、相続放棄ではなく遺産分割協議内で自分の相続分を譲ればよいでしょう。
関連記事を読む『相続放棄により法定相続分が変更するので計算をやり直す』
相続放棄しない方が良い(6)不動産の共有が複雑になる
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相続放棄しない方が良いケース6つ目は、不動産の共有関係を複雑にしたくない場合です。
亡くなった人と不動産を共有していると、共有関係は複雑になります。
- 亡くなった人の持分が取得できない
- 意図しない人が共有者に加わる
- 自分の共有持分は残ってしまう
6-1.亡くなった人の持分が取得できない
亡くなった人が不動産の共有者だった場合、相続放棄すると共有持分が取得できません。
なぜなら、共有持分も相続財産だからです。共有持分だけ相続はできません。
被相続人|兄
相続人 |弟
相続財産|借金・不動産(兄弟共有)
兄弟で不動産を共有していた場合、兄の相続を相続放棄すると、借金だけでなく兄の共有持分も取得できません。
亡くなった人の持分が必要であれば、相続放棄しない方が良いかもしれません。
もちろん、相続以外で共有持分を取得する方法はあるので、相続放棄するのも自由です。
- 相続財産清算人を選任する
- 所在等不明共有者持分取得の申立て
相続財産清算人を選任する
亡くなった共有者の相続人が全員相続放棄した場合、相続財産清算人を選任すれば、共有持分の取得も可能です。
- 相続財産清算人から持分を買い取る
- 相続人の不存在確定により共有者に移転
上記どちらであっても、前提として相続財産清算人の選任が必要になります。
ただし、選任申立てには予納金の問題があるので、下記の記事で確認しておいてください。
関連記事を読む『【相続財産管理人と予納金】金額は流動資産の額により違う』
所在等不明共有者持分取得の申立て
亡くなった共有者の相続人が全員相続放棄した場合、所在等不明共有者持分取得の申立ても可能です。
所在等不明共有者と記載されていますが、共有者の相続人が全員相続放棄した場合も利用できます。
※共有持分を取得した事例の経験あり。
詳細は省きますが、持分相当額の金銭を供託して共有持分を取得する方法です。
6-2.意図しない人が共有者に加わる
亡くなった人が不動産の共有者だった場合、相続放棄すると意図しない人が共有者に加わる可能性もあります。
なぜなら、亡くなった人が知らない兄弟姉妹も存在するからです。
被相続人|父
相続人 |子
後順位 |いないと思っていた
相続財産|借金・不動産(父と子で共有)
父と子で不動産を共有していたが、相続放棄したうえで相続財産清算人を選任するつもりだった。
ところが、父の母親の戸籍を集めた結果、父には異父弟がいると判明した。
叔父(父の異父弟)が相続放棄しない限り、不動産は子と叔父で共有です。
親子で不動産を共有している場合、親の兄弟姉妹(代襲相続人である甥姪を含む)も相続放棄しないと、不動産は共有になります。
不動産の共有を避けたいなら、相続放棄しない方が良いかもしれません。
6-3.自分の共有持分は残ってしまう
不動産共有者の相続を相続放棄しても、自分の共有持分は残ります。
あくまでも、亡くなった人の共有持分を放棄するだけなので、自分の共有持分は相続放棄できません。
下記の事例は、実際によくある失敗例です。
被相続人|兄
相続人 |弟
相続財産|不動産(父名義)
父親と兄は同居しており、父親が亡くなった後も、兄が不動産に住んでいた。
その後、兄が亡くなったので、相続人である弟は不動産が不要だったので相続放棄した。
ですが、弟が所有している2分の1は残るので、相続放棄した後も所有者のままです。
親名義の不動産を名義変更せずに相続人の1人が使用している場合、その他の相続人は共有になっていると気付きにくいです。
亡くなった人の共有持分も取得できないですし、自分の共有持分も残ったままになるので、相続放棄しない方が良いかもしれません。
7.最終的に相続放棄するかは相続人の自由


各章で相続放棄しない方が良いケースを6つ説明しました。
ただし、相続放棄するかどうかは、相続人が自由に決めて問題ありません。
相続放棄しない方が良いケースに該当していても、相続放棄している人はいます。実際、私が受けている依頼人の中にもいます。
例えば、借金が残っていなくても、亡くなった人と絶縁状態なので相続放棄する人はいます。亡くなった人の連帯保証人であっても、他にも借金があるので相続放棄する人もいます。
あくまでも、相続放棄しない方が良いケースなので、最終的な判断は相続人が自由に決めて問題ないです。
8.相続放棄の判断も専門家に相談できる
相続放棄の依頼だけでなく、した方が良いかの判断も専門家(弁護士・司法書士)に相談できます。
以下は、実際にあった会話例です。



父親が亡くなりました。母親に相続財産を集中させたいので、子供全員での相続放棄を検討しています。



亡くなった父親に兄弟姉妹はいますか?



父親には姉が1人います。



母親に相続財産を集中させるには、伯母も相続放棄する必要があります。伯母とは連絡が取れますか?



伯母は認知症なので特別養護老人ホームに入居しています。



伯母さんに判断能力が無い場合は、子供全員での相続放棄はしない方が良いでしょう。
専門家は事情を聞いたうえで、相続放棄しない方が良いならアドバイスしてくれます。
相続放棄の手続きを自分でする場合でも、判断に問題がないか確認してもらった方が安全です。
9.まとめ
今回の記事では、「相続放棄しない方が良いケース」について説明しました。
主なケースとしては、以下の6つがあります。
- 被相続人の借金が残っていなかった
- 後順位相続人に相続を移したくない
- 取得したい相続財産がある
- 相続人が連帯保証人になっている
- 特定の相続人に相続財産を譲りたい
- 不動産の共有を複雑にしたくない
ただし、上記に該当しても、事情によっては相続放棄を選びます。最終的な判断は相続人が自由に決めて問題ありません。
相続放棄で解決できると思っていても、実際は解決できないケースもあります。最終的な判断をする前に、専門家には相談しておいてください。
相続放棄しない方が良いに関するQ&A
- 借金が残っていませんでした。相続放棄は撤回できますか?
-
できないです。法律で禁止されています。
- 父親の両親や兄弟姉妹は亡くなっています。後順位相続人は気にしなくて大丈夫ですか?
-
父親の兄弟姉妹に子がいれば、代襲相続人になります。
- 借金だけ相続放棄する方法はありますか?
-
ありません。相続財産はすべて放棄となります。
- 後順位相続人も全員相続放棄すれば、配偶者に財産を集中できますか?
-
配偶者に集中できます。ただし、すべての戸籍を取得して相続人を確認しておいてください。