「相続放棄したが、思っていた結果とは違った…」そんな思いを抱いているなら、諦めるには早いかもしれません。
なぜなら、相続放棄の撤回は認められませんが、無効になるケースは存在するからです。多くの方は、一度相続放棄すると二度と取り返しがつかないと思い込んでいます。ですが、その効力を否定できる可能性は残されています。
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例えば、相続放棄を判断した事情に、重大な誤解があった場合、訴訟の中で無効を争えます。
家庭裁判所に相続放棄の申述が受理された後でも、効力を争うことは可能です。主張が認められると、相続人として財産も取得できます。
今回の記事では、相続放棄の無効について、裁判例などを交えて分かりやすく説明しています。相続で悩んでいる人にとって、参考になれば幸いです
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1.相続放棄を無効とする手続きはない

相続放棄を無効とする手続きは存在しません。
なぜなら、法律に規定がないからです。規定がないので、家庭裁判所は無効の手続きができません。
ただし、相続放棄の申述に無効原因があれば、訴訟の中で主張することは可能です。
1-1.訴訟の中で無効の主張はできる
相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されても、無効原因があれば訴訟の中で主張できます。
以下は、最高裁の判例です。
相続放棄の申述が家庭裁判所に受理された場合においても、相続の放棄に法律上無効原因が存するときは、後日訴訟においてこれを主張することを妨げない。
相続放棄の申述が受理されても、確定的に有効ではなく、無効原因があれば訴訟で争えます。
例えば、債権者は貸金返還請求訴訟を提起して、裁判の中で相続放棄は無効だから金銭を返還する義務があると主張します。
家庭裁判所で手続きが完了していても、後から無効を主張されるケースは存在するので注意してください。
1-2.取り消しの手続きは存在する
相続放棄の無効とは違い、取り消しの手続きは存在します。
以下は、民法の条文です。
第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。 2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。 (省略) 4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続放棄の取消要因が存在するなら、家庭裁判所に取消しの申述をしてください。
取り消しに関しては、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『取消事由に該当すれば相続放棄も取消し可能【債権者は不可】』
2.相続放棄の無効原因は主に3つ

相続放棄の無効を主張する場合、主な原因は3つあります。
- 錯誤無効
- 意思能力の欠如
- 単純承認
相続放棄した人と債権者では、主張する原因が違います。
2-1.本人が主張する場合は錯誤無効
本人が相続放棄の無効を争う場合、「錯誤無効」を原因として主張します。
過去の判例で、相続放棄の申述についても、錯誤無効(民法95条)の適用はあると判断されています。
以下は、最高裁の判例です。
相続放棄の申述についても、民法第九五条の適用がある。
以下は、民法の条文です。
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤 2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。 3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。 一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。 二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。 4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
- 民法95条1項1号|表示の錯誤
- 民法95条1項2号|動機の錯誤
相続放棄で問題になるのは、動機の錯誤がほとんどです。
- 高額な借金があると勘違い
- 他の相続人に譲れると勘違い
相続放棄するという意思はありますが、動機に間違いがあります。
ただし、動機の錯誤だからといって、常に無効と判断されるわけではなく、動機が表示されている必要があります。
例えば、相続放棄の申述書や回答書に動機を記載しているや、他の相続人に対して動機を伝えているなどです。
動機が表示されていなければ、錯誤無効の主張は認められません。
2-2.法定代理人が主張する場合は意思能力
相続人に意思能力(判断能力)の無い場合、相続放棄しても無効です。
以下は、民法の条文です。
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
ただし、訴訟で争うのは本人ではなく、法定代理人(成年後見人)になります。
なぜなら、本人は意思能力(訴訟能力)がないので、訴訟を提起できないからです。成年後見人を選任したうえで、無効を主張してください。
ちなみに、本人が相続放棄した時点で、成年後見人が選任されているなら、無効ではなく取消しになります。
関連記事を読む『相続放棄は認知症の人もできるのか?相続人の意思能力で判断』
2-3.債権者が主張する場合は単純承認
債権者が相続放棄の無効を争う場合、「単純承認」を原因として主張します。
- 相続財産を消費している
- 知った日から3ヶ月経過している
上記に該当した後で、相続放棄の申述が受理されても無効です。
相続財産を消費している
相続財産を消費(処分)しているのに、相続人が相続放棄している場合。
【事例】
相続財産|預貯金(200万円)・負債(500万円)
財産処分|200万円を遊興費に消費
債権者は相続放棄した人を相手として、貸金返還請求訴訟を提起します。
そして、相続財産の処分により単純承認しているので、相続放棄は無効だと主張します。
相続放棄の無効が認められると、相続人として債務を返還する義務が発生します。
預貯金口座の履歴を確認すれば、いつ引き出したか分かります。
預貯金の消費を誤魔化しても、訴訟で無効を主張される可能性はあります。
知った日から3ヶ月経過している
相続の開始を知った日から3ヶ月経過した後に、相続人が相続放棄している場合。
【事例】
督促状の到達日|令和6年2月25日
申述書の提出日|令和6年10月17日
債権者は令和6年2月25日に相続の開始を知ったと主張。
そして、3ヶ月経過により単純承認とみなされるので、相続放棄は無効として負債の返還を請求します。
債権者が「配達証明付き内容証明郵便」で督促状を送付している場合、裁判では証拠として使用されます。
知った日を誤魔化して相続放棄しても、訴訟で無効を主張される可能性はあります。
3.相続放棄と無効の注意点

相続放棄と無効の注意点を、いくつか説明します。
- 誰も主張しなければ効力は有効
- 無効を争うのに時効は存在しない
- 無効の確認訴訟は認められない
いずれも勘違いしやすいので、しっかりと確認しておいてください。
3-1.誰も主張しなければ効力は有効
相続放棄の無効原因が存在しても、誰も主張しなければ効力は有効です。
例えば、家族が勝手に申述書を提出して受理されても、本人が無効を主張しなければ、相続放棄の効力に影響はありません。
自動的に無効となる決まりはないので、主張したいなら訴訟の中でする必要があります。
訴訟の中で無効が認められない限り、相続放棄の効力は有効です。
3-2.無効を争うのに時効は存在しない
相続放棄の無効を訴訟の中で争うのに、時効(期間制限)は存在しません。
ただし、債権自体には時効があるので、争うなら早めにする必要があります。
※債権者が争う場合。
また、本人が主張する場合でも、時間が経ちすぎると証明しにくいので、争うなら早めに行動しましょう。
3-3.相続放棄の無効確認訴訟はできない
相続放棄の無効は、訴訟の中で主張する必要が必要あります。
ただし、無効を確認するだけの訴訟は認められません。
相続放棄の無効だけを確認する規定は存在せず、確認の対象となる法律関係(遺産分割や貸金返還請求等)が必要になるからです。
個別具体的な訴訟の中で、前提問題として主張してください。
4.相続放棄の無効に関する判例
今回の記事を作成するのに、相続放棄の無効に関する判例を調べたので、いくつか紹介します。
- 無効を理由とする取消しはできない
- 不在者財産管理人の処分行為も単純承認
- 申述の受理に審判官の署名を欠いている
4-1.無効を理由とする取消しはできない
相続放棄に無効原因があっても、無効を理由とする取消しの申述は認められないとした判例になります。
以下は、高等裁判所の判例です。
相続放棄申述が錯誤により無効であることを理由とする相続放棄の取消しの申述は不適法である
相続放棄の取消しが認められるのは、取消要因がある場合です。
無効については、訴訟の中で主張してください。
4-2.不在者財産管理人の処分行為も単純承認
不在者財産管理人がした処分行為も単純承認とみなし、相続放棄を無効とした判例になります。
以下は、高等裁判所の判例です。
不在者財産管理人が,不在者が相続した財産を家庭裁判所の許可を得て売却した行為が,不在者にとって,民法921条1号の単純承認に当たるため,後に,不在者が相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にした相続放棄は無効であるとされた事例
たとえ不在者(相続人)が相続の開始を知らなかったとしても、法定代理人である不在者財産管理人が処分行為をすると、単純承認したとみなされます。
4-3.申述の受理に審判官の署名を欠いている
相続放棄の申述の受理に家事審判官の署名(記名)を欠いても、無効にならないとした判例になります。
以下は、最高裁の判例です。
相続放棄の申述の受理に家事審判官の押印のみがあつてその署名または記名を欠く場合でも、申述が申述者の真意に基づき適式になされたものであるかぎり、放棄の実体上の効力は妨げられない。
申述人の真意に基づき手続きがされている以上、相続放棄の効力は有効です。
5.まとめ
今回の記事では「相続放棄の無効」について説明しました。
相続放棄の申述が受理されると撤回はできず、無効とする手続きも存在しません。
ただし、訴訟の中で無効を主張することは可能です。
- 錯誤無効を主張
- 意思能力の欠如を主張
- 単純承認を主張
相続放棄の無効を主張する場合は、訴訟を通じて行う必要があります。誰も訴訟を提起しなければ、効力に影響はありません。
訴訟には専門的な法律知識が必要となるので、相続を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。
今回の記事が、悩みを解決する参考になれば幸いです。
相続放棄の無効に関するQ&A
- 家族が勝手に相続放棄した場合も無効の主張は可能ですか?
-
可能です。遺産分割調停や審判の中で、相続放棄の無効を主張してください。
- 債権者が無効の主張をする可能性はありますか?
-
あります。私が実際に相談を受けたケースでは、3ヶ月経過による単純承認を主張されていました。