亡くなった人の相続人が成年被後見人なら、自分で相続放棄の手続きはできません。
成年後見人が本人の代理人として手続きをするからです。
ただし、相続放棄が利益相反行為に該当すると、成年後見人も手続きができません。
後見監督人または特別代理人が、代わりに手続きをするので注意してください。
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1.成年被後見人は相続放棄の手続きができない
亡くなった人に借金等があっても、「成年被後見人」は相続放棄の手続きができません。
- 成年被後見人
-
後見開始の審判により成年後見人が付されている人
なぜなら、法律により禁止されているからです。
以下は、家事事件手続法の条文です。
家事事件手続法17条で民事訴訟法31条を準用しています。
上記の条文をまとめると、以下のようになります。
成年被後見人は法定代理人によらなければ、家事事件の手続き(相続放棄)ができない。
成年被後見人の法定代理人は成年後見人です。
したがって、成年被後見人の相続放棄は、法定代理人である成年後見人が行います。
関連記事を読む『【相続放棄の手続きは家庭裁判所】その他の方法では成立しない』
2.成年後見人が代わりに相続放棄する
成年後見人が相続放棄する場合、相続人(本人)が手続きする場合と違う部分があります。
- 相続の開始を知った日
- 相続放棄申述書の記載
- 法定代理人の資格を証する書面
しっかりと確認しておいてください。
2-1.成年後見人が知った日から期間開始
相続放棄ができる期間は、相続人が相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。
ただし、相続人が成年被後見人の場合は、成年後見人が知ってから3ヶ月以内となります。
以下は、民法の条文です。
成年後見人が気付いていない限り、3ヶ月の期間は開始しないので安心してください。
関連記事を読む『相続放棄の期間は3ヶ月以内|相続の開始を知った日が重要』
2-2.相続放棄申述書の法定代理人欄に記載
成年後見人が相続放棄する場合、申述書の記載に注意してください。
なぜなら、亡くなった人(被相続人)や申述人(成年被後見人)だけでなく、成年後見人(法定代理人)も記載する必要があるからです。
以下は、相続放棄申述書の一部。
間違えやすいのですが、申述人欄に記載するのは成年被後見人の情報です。
一方、成年後見人の情報は法定代理人の欄に記載します
あくまでも、相続放棄するのは成年被後見人で、法定代理人が成年後見人です。
2-3.法定代理人の資格を証する書面を添付
家庭裁判所に相続放棄申述書を提出する際は、戸籍等以外に「法定代理人の資格を証する書面」を添付する必要があります。
なぜなら、戸籍には後見に関する事項が記載されないので、後見の有無が確認できないからです。
一般的には、「後見登記事項証明書」を添付して提出します。
相続放棄の準備をする際に、後見登記事項証明書も取得しておきましょう。
3.成年後見人が相続放棄で利益相反
成年後見人が相続放棄する場合、利益相反行為に該当しないか注意してください。
なぜかというと、相続放棄が利益相反行為に該当すると、成年後見人は成年被後見人を代理できないからです。
3-1.利益相反行為に該当するケースは2つ
相続放棄が利益相反行為に該当するケースは2つあります。
- 成年被後見人が先順位で成年後見人が後順位
- 成年被後見人と成年後見人が同順位の相続人
それぞれ説明していきます。
成年被後見人が先順位で成年後見人が後順位
上記の相続順位は以下のようになります。
- 第1順位|不存在
- 第2順位|成年被後見人
- 第3順位|成年後見人
成年被後見人(先順位相続人)が相続放棄すると、成年後見人(後順位相続人)に相続権が移ります。
たとえ相続放棄の理由が借金だとしても、外形では分からないので利益相反行為に該当します。
成年被後見人と成年後見人が同順位の相続人
成年後見人と成年被後見人が共同相続人の場合、成年被後見人が相続放棄すると、成年後見人の相続分が増えます。
後見人 | 被後見人 | |
---|---|---|
相続放棄前 | 2分の1 | 2分の1 |
相続放棄後 | 1分の1 | ー |
相続放棄する理由は外形では判断できないので、利益相反行為に該当します。
3-2.利益相反に該当すると特別代理人が必要
成年後見人の相続放棄が利益相反行為に該当すると、特別代理人が必要になります。
以下は、民法の条文です。
成年後見人が家庭裁判所に特別代理人の選任を請求してください。
その後、選任された特別代理人が、成年被後見人の代理人として相続放棄します。
関連記事を読む『相続放棄で特別代理人が必要になるのは未成年者と被後見人』
3-3.後見監督人がいれば代わりに相続放棄
成年後見人の相続放棄が利益相反行為に該当する場合でも、後見監督人が選任されていれば特別代理人は不要です。
以下は、民法の条文です。
成年後見人と成年被後見人の利益が相反する場合、後見監督人が成年被後見人を代理します。
したがって、相続放棄の手続きも、後見監督人が法定代理人として行います。
関連記事を読む『成年後見監督人を選任するかは家庭裁判所が決める』
3-4.誰が手続きをするのか図で整理
上記の図は、誰が相続放棄の手続きをするのか表しています。
利益相反行為に該当しなければ、成年後見人が相続放棄します。
利益相反行為に該当して、かつ、後見監督人が選任されていれば、後見監督人が相続放棄します。
利益相反行為に該当して、かつ、後見監督人が選任されていなければ、特別代理人が相続放棄します。
相続人が成年被後見人なら、誰が相続放棄の手続きをするのか、しっかりと確認しておいてください。
4.成年後見人と相続放棄の注意点
成年後見人が相続放棄するなら、細かい注意点もあるので説明していきます。
4-1.家庭裁判所と事前協議した方が良い
成年後見人が相続放棄する場合、事前に家庭裁判所の許可等は不要です。
ただし、借金以外の理由で相続放棄するなら、事前協議(報告)はした方が良いでしょう。
例えば、不動産が不要だからという理由なら、なぜ不要という判断をしたかです。もし不動産に価値があれば、成年被後見人に損害を与えたことになります。
成年後見人が相続放棄する場合、理由も重要になるので注意してください。
4-2.放置すると成年後見人の責任になる
成年後見人が相続の開始を知った日から3ヶ月経過すると、成年被後見人は単純承認したとみなされます。
したがって、亡くなった人に借金等があるなら、忘れずに相続放棄の手続きをしてください。
万が一、相続放棄の手続きを放置した結果、成年被後見人に損害が発生すると、成年後見人の責任となります。
4-3.相続放棄が終了しても成年後見は続く
相続放棄のために成年後見人を選任する場合、知っておくべき注意点があります。
何かというと、相続放棄が終了しても、成年後見は終了しない点です。
原則として、成年後見は本人(成年被後見人)が亡くなるまで続きます。相続放棄に必要だから選任した場合であっても、結論は変わりません。
知らずに選任して後悔する人もいるので、しっかりと確認しておいてください。
関連記事を読む『相続放棄は認知症の人もできるのか?相続人の意思能力で判断』
5.まとめ
今回の記事では「成年後見人の相続放棄」について説明しました。
亡くなった人の相続人が成年被後見人の場合、自分では相続放棄の手続きができません。
成年後見人が法定代理人として、代わりに相続放棄の手続きをします。
相続の開始を知った日も成年後見人で判断しますし、申述書の法定代理人欄にも記載が必要です。
ただし、相続放棄が利益相反行為に該当すると、成年後見人は相続放棄できません。
特別代理人または後見監督人が、代わりに相続放棄の手続きをします。
相続放棄の判断に迷われた場合は、家庭裁判所に事前協議した方が良いでしょう。万が一、成年被後見人に損害が発生すると、成年後見人の責任問題となるからです。
親族の成年後見人に就任しているなら、今回の記事を参考にしてみてください。