【成年後見人による相続放棄】本人の代理人として手続きをする

成年後見人が相続放棄
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亡くなった人の相続人が成年被後見人なら、自分で相続放棄の手続きはできません。

成年後見人が本人の代理人として手続きをするからです。

ただし、相続放棄が利益相反行為に該当すると、成年後見人も手続きができません。

後見監督人または特別代理人が、代わりに手続きをするので注意してください。

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目次

1.成年被後見人は相続放棄の手続きができない

亡くなった人に借金等があっても、「成年被後見人」は相続放棄の手続きができません。

成年被後見人

後見開始の審判により成年後見人が付されている人

なぜなら、法律により禁止されているからです。

以下は、家事事件手続法の条文です。

第十七条 当事者能力、家事事件の手続における手続上の行為(以下「手続行為」という。)をすることができる能力(以下この項において「手続行為能力」という。)、手続行為能力を欠く者の法定代理及び手続行為をするのに必要な授権については、民事訴訟法第二十八条、第二十九条、第三十一条、第三十三条並びに第三十四条第一項及び第二項の規定を準用する。
出典:e-Govウェブサイト(家事事件手続法17条)

家事事件手続法17条で民事訴訟法31条を準用しています。

第三十一条未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。
出典:e-Govウェブサイト(民事訴訟法31条)

上記の条文をまとめると、以下のようになります。

成年被後見人は法定代理人によらなければ、家事事件の手続き(相続放棄)ができない。

成年被後見人の法定代理人は成年後見人です。

したがって、成年被後見人の相続放棄は、法定代理人である成年後見人が行います。

2.成年後見人が代わりに相続放棄する

成年後見人が相続放棄の手続き

成年後見人が相続放棄する場合、相続人(本人)が手続きする場合と違う部分があります。

  • 相続の開始を知った日
  • 相続放棄申述書の記載
  • 法定代理人の資格を証する書面

しっかりと確認しておいてください。

2-1.成年後見人が知った日から期間開始

相続放棄ができる期間は、相続人が相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。

ただし、相続人が成年被後見人の場合は、成年後見人が知ってから3ヶ月以内となります。

以下は、民法の条文です。

第九百十七条 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
出典:e-Govウェブサイト(民法917条)

成年後見人が気付いていない限り、3ヶ月の期間は開始しないので安心してください。

2-2.相続放棄申述書の法定代理人欄に記載

成年後見人が相続放棄する場合、申述書の記載に注意してください。

なぜなら、亡くなった人(被相続人)や申述人(成年被後見人)だけでなく、成年後見人(法定代理人)も記載する必要があるからです。

以下は、相続放棄申述書の一部。

相続放棄申述書の法定代理人欄に記入

間違えやすいのですが、申述人欄に記載するのは成年被後見人の情報です。

一方、成年後見人の情報は法定代理人の欄に記載します

あくまでも、相続放棄するのは成年被後見人で、法定代理人が成年後見人です。

2-3.法定代理人の資格を証する書面を添付

家庭裁判所に相続放棄申述書を提出する際は、戸籍等以外に「法定代理人の資格を証する書面」を添付する必要があります。

なぜなら、戸籍には後見に関する事項が記載されないので、後見の有無が確認できないからです。

一般的には、「後見登記事項証明書」を添付して提出します。

相続放棄の準備をする際に、後見登記事項証明書も取得しておきましょう。

3.成年後見人が相続放棄で利益相反

成年後見人と成年被後見人が利益相反だと相続放棄できない

成年後見人が相続放棄する場合、利益相反行為に該当しないか注意してください。

なぜかというと、相続放棄が利益相反行為に該当すると、成年後見人は成年被後見人を代理できないからです。

3-1.利益相反行為に該当するケースは2つ

相続放棄が利益相反行為に該当するケースは2つあります。

  • 成年被後見人が先順位で成年後見人が後順位
  • 成年被後見人と成年後見人が同順位の相続人

それぞれ説明していきます。

成年被後見人が先順位で成年後見人が後順位

成年被後見人が先順位相続人で成年後見人が後順位相続人だと利益相反に該当

上記の相続順位は以下のようになります。

  • 第1順位|不存在
  • 第2順位|成年被後見人
  • 第3順位|成年後見人

成年被後見人(先順位相続人)が相続放棄すると、成年後見人(後順位相続人)に相続権が移ります。

たとえ相続放棄の理由が借金だとしても、外形では分からないので利益相反行為に該当します。

成年被後見人と成年後見人が同順位の相続人

成年後見人と成年被後見人が共同相続人だと利益相反に該当

成年後見人と成年被後見人が共同相続人の場合、成年被後見人が相続放棄すると、成年後見人の相続分が増えます。

後見人被後見人
相続放棄前2分の12分の1
相続放棄後1分の1
相続放棄による相続分の変化

相続放棄する理由は外形では判断できないので、利益相反行為に該当します。

司法書士から一言成年後見人も一緒に相続放棄する場合は利益相反行為に該当しません。

3-2.利益相反に該当すると特別代理人が必要

成年後見人の相続放棄が利益相反行為に該当すると、特別代理人が必要になります。

以下は、民法の条文です。

(利益相反行為)
第八百六十条 第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
 
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
出典:e-Govウェブサイト(民法860条・826条)

成年後見人が家庭裁判所に特別代理人の選任を請求してください。

その後、選任された特別代理人が、成年被後見人の代理人として相続放棄します。

3-3.後見監督人がいれば代わりに相続放棄

成年後見人と成年被後見人が利益相反なら後見監督人が代理する

成年後見人の相続放棄が利益相反行為に該当する場合でも、後見監督人が選任されていれば特別代理人は不要です。

以下は、民法の条文です。

(利益相反行為)
第八百六十条 第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
出典:e-Govウェブサイト(民法860条)

成年後見人と成年被後見人の利益が相反する場合、後見監督人が成年被後見人を代理します。

したがって、相続放棄の手続きも、後見監督人が法定代理人として行います。

3-4.誰が手続きをするのか図で整理

成年後見人が利益相反行為に該当すると誰が相続放棄するのか

上記の図は、誰が相続放棄の手続きをするのか表しています。

成年後見人が相続放棄

利益相反行為に該当しなければ、成年後見人が相続放棄します。

後見人監督人が相続放棄

利益相反行為に該当して、かつ、後見監督人が選任されていれば、後見監督人が相続放棄します。

特別代理人が相続放棄

利益相反行為に該当して、かつ、後見監督人が選任されていなければ、特別代理人が相続放棄します。

相続人が成年被後見人なら、誰が相続放棄の手続きをするのか、しっかりと確認しておいてください。

4.成年後見人と相続放棄の注意点

成年後見人と相続放棄の注意点

成年後見人が相続放棄するなら、細かい注意点もあるので説明していきます。

4-1.家庭裁判所と事前協議した方が良い

成年後見人が相続放棄する場合、事前に家庭裁判所の許可等は不要です。

ただし、借金以外の理由で相続放棄するなら、事前協議(報告)はした方が良いでしょう。

例えば、不動産が不要だからという理由なら、なぜ不要という判断をしたかです。もし不動産に価値があれば、成年被後見人に損害を与えたことになります。

成年後見人が相続放棄する場合、理由も重要になるので注意してください。

4-2.放置すると成年後見人の責任になる

成年後見人が相続の開始を知った日から3ヶ月経過すると、成年被後見人は単純承認したとみなされます。

したがって、亡くなった人に借金等があるなら、忘れずに相続放棄の手続きをしてください。

万が一、相続放棄の手続きを放置した結果、成年被後見人に損害が発生すると、成年後見人の責任となります。

4-3.相続放棄が終了しても成年後見は続く

相続放棄のために成年後見人を選任する場合、知っておくべき注意点があります。

何かというと、相続放棄が終了しても、成年後見は終了しない点です。

原則として、成年後見は本人(成年被後見人)が亡くなるまで続きます。相続放棄に必要だから選任した場合であっても、結論は変わりません。

知らずに選任して後悔する人もいるので、しっかりと確認しておいてください。

5.まとめ

今回の記事では「成年後見人の相続放棄」について説明しました。

亡くなった人の相続人が成年被後見人の場合、自分では相続放棄の手続きができません。

成年後見人が法定代理人として、代わりに相続放棄の手続きをします。

相続の開始を知った日も成年後見人で判断しますし、申述書の法定代理人欄にも記載が必要です。

ただし、相続放棄が利益相反行為に該当すると、成年後見人は相続放棄できません。

特別代理人または後見監督人が、代わりに相続放棄の手続きをします。

相続放棄の判断に迷われた場合は、家庭裁判所に事前協議した方が良いでしょう。万が一、成年被後見人に損害が発生すると、成年後見人の責任問題となるからです。

親族の成年後見人に就任しているなら、今回の記事を参考にしてみてください。

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