相続人の中に相続放棄した人がいても、相続税の基礎控除額は変わりません。
なぜなら、基礎控除の計算では、相続放棄する前の人数で計算するからです。
例えば、相続人が3人から1人に減っても、計算上は3人となります。
基礎控除は相続放棄した人にも適用されるので、しっかりと確認しておいてください。
1.相続放棄しても基礎控除の額は同じ
相続税の基礎控除を計算する際は、相続人の人数を使用します。
ただし、相続放棄により相続人の人数が変わっても、基礎控除の額は同じです。
1-1.基礎控除額は人数が関係する
相続税の基礎控除額は、相続人の人数によって変動します。
以下は、相続税法の条文です。
基礎控除額は最低3,000万円であり、相続人1人につき600万円ずつ増えていきます。
相続人 | 基礎控除 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
上記の金額は、相続人の中に相続放棄した人がいても変わらないです。
1-2.相続放棄する前の人数で計算
相続放棄すると相続人ではありませんが、基礎控除の額は変わりません。
なぜなら、相続放棄はなかったものとして、基礎控除を計算するからです。
以下は、相続税法の条文です。
以下の表は、相続人が相続放棄(1人)した場合の、相続人の人数を表しています。
放棄前 | 放棄後 | 基礎控除 |
---|---|---|
1人 | 0人 | 1人 |
2人 | 1人 | 2人 |
3人 | 2人 | 3人 |
基礎控除は相続放棄する前の人数で計算するので、間違えないように注意してください。
2.相続放棄した場合の基礎控除を計算
相続放棄した人がいる場合の基礎控除について、事例を用いて計算していきます。
あなたの相続に該当するケースがあれば、参考にしてください。
2-1.共同相続人の人数が減った
共同相続人が相続放棄すると、相続人の人数が減ります。
ただし、基礎控除の計算上は、相続放棄する前の人数で計算します。
【事例1】
被相続人|A
相続人 |子ども(B・C・D)
相続放棄|D
法定相続人の人数は、相続放棄により3人から2人に減ります。
ですが、基礎控除は法定相続人を3人として計算します。
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
【事例2】
被相続人|A
相続人 |子ども(B・C・D)
相続放棄|C・D
法定相続人の人数は、相続放棄により3人から1人に減ります。
ですが、基礎控除は法定相続人を3人として計算します。
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
相続放棄した共同相続人の人数に関わらず、相続税の基礎控除額は変わりません。
基礎控除を計算する際は、相続放棄を気にしないでください。
2-2.後順位相続人に相続が移った
先順位相続人が全員相続放棄すると、後順位相続人に相続権が移ります。相続順位が変わると、相続人の人数も増減します。
ただし、基礎控除の計算上は、相続放棄する前(順位変更する前)の人数で計算します。
【事例1】
被相続人 |A
先順位相続人|子ども(B・C)
後順位相続人|兄弟姉妹(D)
法定相続人の人数は、相続放棄により2人から1人に減ります。
ですが、基礎控除は法定相続人を2人として計算します。
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
【事例2】
被相続人 |A
先順位相続人|子ども(B)
後順位相続人|兄弟姉妹(C・D・E)
法定相続人の人数は、相続放棄により1人から3人に増えます。
ですが、基礎控除は法定相続人を1人として計算します。
3,000万円+600万円×1人=3,600万円
相続放棄により相続順位の変更が発生しても、相続税の基礎控除額は変わりません。
後順位相続人に相続税が発生する場合、基礎控除の計算には注意してください。
関連記事を読む『相続放棄すると次順位の相続人に負債等が移ってしまう』
3.相続放棄と基礎控除の注意点
相続放棄と基礎控除の注意点についても、説明していきます。
勘違いしやすいので、しっかりと確認しておいてください。
3-1.相続放棄した人が取得した財産
相続放棄すると相続人ではありません。
ただし、相続放棄した人(相続人以外)が取得した財産は、相続税の課税対象となります。
※下記以外にもあります。
上記の金額を加えた結果、基礎控除額を超えれば、相続税は課税されます。
【事例】
被相続人 |A
相続人 |子ども(B・C)
相続放棄 |C
相続財産 |預貯金(3,000万円)
遺贈 |Cに2,000万円を遺贈
課税対象 |3,000万円+2,000万円=5,000万円
基礎控除額|3,000万円+600万円×2人=4,200万円
預貯金だけなら基礎控除額以下ですが、遺贈の金額を加えると基礎控除額を超えます。
したがって、B・Cに相続税が課税されます。
基礎控除額を超えるかどうかは、相続放棄した人が取得した財産も関係するので、忘れずに確認しておいてください。
3-2.相続放棄した人も基礎控除は適用
相続放棄した人(相続人以外)も財産を取得すると、相続税の課税対象となります。
ただし、相続放棄した人も基礎控除は適用されるので、相続財産(みなし相続財産含む)の総額が基礎控除額以下であれば、相続税は課税されません。
【事例】
被相続人 |A
相続人 |子ども(B・C・D)
相続放棄 |D
相続財産 |預貯金(2,000万円)
遺贈 |Dに2,000万円を遺贈
課税対象 |2,000万円+2,000万円=4,000万円
基礎控除額|3,000万円+600万円×3人=4,800万円
Dは相続放棄していますが、遺贈を受け取っているので、相続税の課税対象者です。
ただし、課税対象となる財産の総額が、基礎控除額以下なので、相続税は非課税となります。
相続放棄した人が財産を取得した場合でも、基礎控除は適用されるので安心してください。
3-3.相続放棄した人が保険金を受け取った
相続放棄した人(相続人以外)が生命保険金を受け取った場合、相続税の計算に注意してください。
なぜなら、保険金の非課税枠が適用されず、全額が相続税の課税対象となるからです。
相続放棄した結果、基礎控除額を超えるケースはあります。
【事例】
被相続人 |A
相続人 |子ども(B・C・D)
相続財産 |預貯金(4,000万円)
生命保険金|1,000万円の受取人はD
基礎控除額|4,800万円
D相続 | D放棄 | |
---|---|---|
預貯金 | 4,000万円 | 4,000万円 |
保険金 | 非課税 | 1,000万円 |
課税対象 | 4,000万円 | 5,000万円 |
基礎控除 | 4,800万円 | 4,800万円 |
相続税 | 非課税 | 課税 |
Dが相続放棄すると、保険金の非課税枠が適用されないので、基礎控除額を超えます。
相続放棄しても生命保険金は受け取れます。ただし、非課税枠は適用されないので、相続税を計算する際は注意してください。
4.まとめ
今回記事では「相続放棄と基礎控除」について説明しました。
相続放棄すると相続人ではありません。
ですが、基礎控除の計算では、相続人の人数に含みます。相続放棄はなかったものとして、基礎控除は計算するからです。
相続順位の変更により、相続人の人数に違いが生じても、基礎控除の額は変わりません。
相続放棄した人が相続税の課税対象になる場合でも、基礎控除は適用されます。ただし、保険金の非課税枠は適用されないので、計算する際は注意が必要です。
相続人の中に相続放棄した人がいるなら、今回の記事を参考にしてください。