亡くなった人の相続放棄と相続分の放棄は違います。名前は似ていますが、まったくの別ものです。
あなたが亡くなった人の借金を放棄するつもりで、知らずに相続分の放棄を選んでしまうと、借金を相続することが確定します。
間違えたでは済まなくなる事態を避けるためにも、2つの違いについて確認しておいてください。
1.相続放棄とは
まず初めに、相続放棄についての簡単な説明になります。
人が亡くなると誰が相続するかは、法律に定められています。
優先順位の高い人が相続人となります。
相続放棄をすることで、始めから相続人ではなかったことになります。
例えば、子どもが相続放棄をすると、子どもであることに変わりはないのですが、相続人ではありません。
「相続人ではない」という点が重要になるので、覚えておいてください。
同順位の相続人が全員相続放棄をすると、次順位の相続人に順番が回ります。
第3順位の相続人が全員相続放棄をして、初めて誰も相続する人がいない状態になります。
2.相続分の放棄とは
相続分の放棄とは遺産分割協議において、あなたの相続分を放棄することです。
簡単に説明すると、自分の取り分は無しでいいと宣言するようなものです。
あなたが放棄した分は、他の相続人に分配されます。
相続放棄との違いは、遺産分割協議に参加していることです。
遺産分割協議に参加できるのは相続人だけです。
つまり、相続分の放棄ができるのは、相続人であると認めて遺産分割協議に参加した人だけです。
ちなみに、相続放棄を検討されている人は、間違っても遺産分割協議に参加しては駄目です。
相続人の権利を行使したとみなされるので、相続放棄ができなくなります。
相続放棄ができなくなる行為については『相続放棄が認められない』を読んでおいてください。
3.2つの放棄は何が違う
相続放棄と相続分の放棄の相違点です。
3‐1.期間制限
相続放棄は相続人であることを知ったときから3ヶ月以内です。
知ったときからなので、亡くなった人と疎遠であった場合には、亡くなってから3ヶ月を経過していても大丈夫です。
一方、相続分の放棄に期間制限はありません。
なぜなら、遺産分割協議に期間の定めがないからです。
遺産分割協議に期限の定めがないので、話し合いを後回しにしていると、3ヶ月が経過して相続放棄ができなくなります。
3‐2.手続き方法
相続放棄は家庭裁判所に、申述書を添付書面と共に提出する必要があります。
申述書の提出に関しては『相続放棄の手続き』で確認してください。
原則として、相続分の放棄には特に決まりはないので、遺産分割協議で意思表示するだけです。
一般的には、遺産分割協議書に署名捺印して、印鑑証明書を渡します。
3‐3.借金の相続
相続放棄をすると始めから相続人ではないので、借金を含めてすべての財産を相続しません。
相続分の放棄では相続人であることに変わりがないので、借金は相続することになります。
なぜなら、遺産分割協議で話し合うことができるのは、プラスの財産の分割方法だけなので、マイナスの財産(借金)については決めることができないからです。
相続人間で借金を誰が払うかを決めることはできますが、債権者に対抗することはできません。
ですので、債権者から請求されると、支払いを拒むことはできないです。
3‐4.他の相続人への影響
他の相続人への影響にも違いがあります。
相続放棄をすると相続人の数が変更する
相続放棄をすると始めから相続人ではないので、他の相続人だけで相続分を計算します。
(例) 配偶者と子ども2人が相続人で、子ども1人が相続放棄をした場合
相続放棄前
配偶者は2分の1、子ども4分の1、子ども4分の1
相続放棄後
配偶者は2分の1、子ども2分の1
相続分の放棄をしても相続人の数に変更はない
相続分の放棄では、他の相続人の元の相続分の割合に従って帰属します。
(例) 配偶者と子ども2人が相続人で、子ども1人が相続分の放棄をした場合
相続分の放棄前
配偶者は2分の1、子ども4分の1、子ども4分の1
相続分の放棄後
配偶者は3分の2、子ども3分の1、子ども無し
相続分の放棄では相続人の数に変更がない。
4.さいごに
相続放棄と相続分の放棄はまったくの別ものです。
あなたが相続放棄をするつもりで、間違えて相続分の放棄をしてしまうと、相続人であることが確定します。
したがって、亡くなった人の借金も相続することになります。
相続するつもりが無いのであれば、しっかりと相続放棄を選ぶべきです。
専門家報酬も昔に比べると下がっているので、依頼しやすくなっています。
相続放棄を検討されている人は、お気軽にお問い合わせください。
遺留分放棄も勘違いしやすいので『遺留分放棄と相続放棄は何が違うのか』もお読みください。