失踪宣告の対象は生死不明者なので、生きている場合もあります。
ただし、生きていたからといって、失踪宣告の効力は消滅しません。
取消しには家庭裁判所の手続きが必要であり、何もしなければ戸籍上は死亡のままです。
今回の記事では、失踪宣告を受けた人が生きていた場合について説明しているので、失踪宣告を検討しているなら参考にしてください。
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1.失踪宣告された人が生きていた
失踪宣告は生死不明な人を死亡とみなす制度なので、生きていたとしても不思議はありません。
実際、失踪宣告から何十年も経過して、本人が見つかるケースもあります。
1-1.失踪宣告に気付かず生活している
失踪宣告により死亡とみなされても、本人の権利能力に影響はありません。店で買い物もできますし、日雇い労働等でお金も稼げます。
家庭裁判所の調査でも見つからない生活をしていれば、戸籍上で死亡になっても特に影響は発生しません。
※行政サービスを受けるには戸籍が必要。
したがって、失踪宣告されても、本人は気付かずに生活を続けている可能性が高いです。
関連記事を読む『失踪宣告を受けても権利能力に影響はない 』
1-2.生存が確認できても失踪宣告は消滅しない
死亡とみなされた人の生存が確認できても、失踪宣告の効力は消滅しません。
たとえ失踪者が家族の元に帰ってきて、家族が生存を確認したとしても結論は同じです。
家庭裁判所の手続きを経て死亡になっているので、失踪宣告を取り消すにも家庭裁判所の手続きが必要となります。
何もしなければ、戸籍上は死亡とみなされたままです。
2.生きていたなら失踪宣告の取消し
失踪宣告により死亡とみなされた人が生きていたなら、家庭裁判所に失踪宣告の取消しを請求してください。
以下は、民法の条文です。
本人または利害関係人が取消しの請求をすると、失踪宣告は取り消されます。
ただし、失踪宣告の取消しにより、2つの問題が発生します。
- 取消し前にした行為の効力
- 受け取った財産の返還
それぞれ説明していきます。
関連記事を読む『失踪宣告を取消すには家庭裁判所の手続きが必要』
2-1.取消し前の行為に影響は無い
失踪宣告を取消しても、取消し前の行為に影響はありません。
失踪宣告の取消しにより、すべてが無効になると社会に混乱が生じるからです。
ただし、善意という条件付きなので注意してください。
善意であることが条件
失踪宣告の取消し前にした行為は、善意であることが条件となります。「善意」とは、善い行いという意味ではなく、知らなかったという意味です。
つまり、「生死不明者の生存を知らなかった」ことが条件となります。
再婚の効力も有効
失踪宣告の後に再婚していれば、取消しがあっても再婚は有効となります。
ただし、再婚した当事者双方が善意である場合です。どちらかが悪意(知っていた)であれば、再婚の効力は失われます。
関連記事を読む『失踪宣告をすると離婚ではなく婚姻関係の消滅 』
2-2.受け取った財産に返還義務が生じる
失踪宣告が取り消されると、失踪宣告により受け取った財産を返還する必要があります。
なぜなら、死亡により発生する財産は、生存していると発生しないからです。
以下は、民法の条文です。
ただし、返還が必要になるのは、現に利益を受けている限度のみとなります。
現に利益を受けている(現存利益)については、間違えやすいので気を付けてください。
現存利益は形を変えて残っている
現に利益を受けているとは、同じ形で残っているという意味ではありません。
例えば、失踪宣告により100万円を受け取って、100万円をすべて生活費に使っても現存利益は100万円です。
なぜなら、失踪宣告により得たお金を使うことにより、自分のお金を使わずに済んだという利益を得ているからです。
現存利益の判断は非常に難しいので、疑問があれば専門家に相談されることをお勧めします。
返還問題が生じる財産は主に2つ
失踪宣告の取消しにより、返還の問題が生じる財産は主に2つあります。
- 生命保険金
- 相続財産
【失踪宣告により受け取った生命保険金】
死亡により支払われる財産といえば生命保険金です。
当然ですが、失踪宣告の取消しにより返還義務が発生します。生命保険金は高額になりやすいので、返還義務が生じた際は気を付けてください。
団体信用生命保険で住宅ローンを支払っていると、残存利益が残っているので注意しましょう。
- 団体信用生命保険
-
住宅ローンの契約者が死亡した場合、生命保険金で住宅ローンの残額を支払う保険
生命保険金で支払った住宅ローンの残額分が残存利益となります。
関連記事を読む『失踪宣告により住宅ローンは支払えるが問題点もある 』
【失踪宣告により相続した財産】
相続財産も失踪宣告の取消しにより返還義務が生じます。
ただし、親の失踪宣告により子どもが相続した財産については、親子の問題として解決することが多いです。
3.生きていたことが判明するケース
生きていたことが判明するケースとしては、大きく分けると2つあります。
- 本人(家庭裁判所)から連絡がある
- 警察から遺体が見つかったと連絡がある
それぞれ簡単に説明します。
3-1.本人が失踪宣告に気付いて連絡してくる
生きていたことが判明するケースで多いのは、失踪宣告を受けた人が戸籍を請求して気付く場合です。
何らかの理由で戸籍が必要になり、自分の失踪宣告に気付きます。
【生活保護の申請】
生死不明者は日雇い労働等で生活をしている可能性が高いです。
※雇用保険の記録が残らない。
ですが、体力的に働くのが難しくなったや、病気や怪我により働けなくなり、生活保護を検討します。
そして、生活保護を申請するために戸籍を請求して、自分の失踪宣告に気付きます。
実際、私が相談を受けたケースでも、生活保護のために戸籍を請求して気付いたと言ってました。
失踪宣告を取消さないと生活保護が受給できないので、取消しの申立てが必要になります。
そして、取消しには家族の協力も必要になるので、本人または家庭裁判所から連絡が来ます。
3-2.警察から遺体が見つかったと連絡がくる
警察が遺体の身元確認をした結果、失踪宣告された人の死亡が判明するケースもあります。
自分の失踪宣告に気付かず亡くなる人もいますし、取り消す前に亡くなる人もいるからです。
「死亡とみなされた日」と「死亡日」が違うので、失踪宣告の取消しを請求できます。
※死亡日が記載されても失踪宣告は消えない。
4.まとめ
今回の記事では「失踪宣告後に生きていた場合」について説明しました。
失踪宣告により死亡とみなされた人が、生きている場合もあります。
ただし、当然に失踪宣告の効力が失われるのではなく、家庭裁判所に取消し請求が必要です。
失踪宣告が取り消されると、さまざまな問題が発生します。
- 取消し前にした行為の効力
- 受け取った財産の返還
取消し前にした行為は、善意であれば影響はありません。受け取った財産については、残存利益があれば返還義務があります。
失踪宣告は生死不明な人を対象にするので、生きている場合もあると知っておいてください。