事実婚の夫婦も公正証書で書面を作成することがあります。
公正証書にするケースは、信頼性(証拠能力)を高める場合と、作成が条件になっている場合です。
公正証書遺言の方が自筆証書遺言より信頼性は高いですし、任意後見契約は公正証書での作成が成立条件になっています。
今回の記事では、事実婚の夫婦が公正証書で書面を作成するケースを説明しているので、契約書(遺言書)の作成を検討しているなら参考にしてください。
目次
1.配偶者に財産を遺贈するなら遺言書
事実婚では配偶者が相続人にならないので、遺言書で遺贈することが多いです。
遺言書は2つあります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
自筆証書遺言は、漢字のとおり自筆(手書き)で作成する遺言書です。
それに対して、公正証書遺言は、漢字のとおり公正証書で作成する遺言書です。
関連記事を読む『事実婚の相続を知っておこう|財産を残す対策が必須となる』
1-1.信頼性を高めるなら公正証書遺言
自筆証書遺言または公正証書遺言どちらで作成しても、遺言書の効力はまったく同じです。
では、なぜ公正証書で作成するかというと、信頼性に差が生まれるからです。
遺言書は作成すれば終わりではなく、配偶者が財産を取得できなければ意味がないです。遺言書の内容や意思能力を巡っては、裁判上・裁判外問わず争いになることがあります。
公正証書遺言を作成するのは公証人なので、自筆証書遺言よりも争いになったときの信頼性は高いです。
1-2.公正証書遺言にすると費用が増える
公正証書遺言にすると信頼性は高くなるのですが、費用も高くなるのがデメリットです。
事実婚の夫婦は2人とも遺言書を作成することがあるので、費用についても知っておいてください。
公正証書遺言にすると以下の2つが増えます。
- 公証人手数料
- 証人手配料
*自分で手配すれば無料
専門家に文案作成を依頼した際の報酬は、自筆証書遺言と公正証書遺言どちらでも変わらないでしょう。
公正証書遺言は公証人に作成してもらうので、公証人手数料が発生します。
公正証書遺言の作成には証人が2人必要なので、手配してもらう場合は証人手配料が発生します。
関連記事を読む『遺言書を公正証書にするなら証人が2人必要になる』
2.配偶者に後見を頼むなら任意後見契約
事実婚の夫婦も配偶者を後見人にするなら、任意後見契約を結んでおいた方がいいです。
なぜなら、法定後見の申立てをする際に、配偶者を後見人の候補者にすることはできるのですが、後見人を誰にするかは家庭裁判所が決めるからです。
たとえ配偶者以外が後見人に選ばれたとしても、申立てを取り下げることはできません。
それに対して、任意後見人は自分で決めることができます。あらかじめ、配偶者と任意後見契約を結んでおけば、配偶者が任意後見人となります。
2-1.任意後見契約は公正証書での作成が条件
任意後見契約は公正証書での作成が成立条件となります。
ですので、事実婚の配偶者を任意後見人にするなら、公正証書で任意後見契約書を作成します。
勘違いして、自分たちで契約書を作成しても、任意後見契約は成立していません。
関連記事を読む『任意後見契約は公正証書で作成しなければ成立しない』
2-2.任意後見契約書の作成手数料は決まっている
公証人に任意後見契約書を作成してもらうと、公証人手数料が発生します。
任意後見契約を結ぶ際に、公証役場で必要になる費用は以下になります。
費用の目安 | |
---|---|
公正証書作成 | 1万1,000円 |
登記嘱託手数料 | 1,400円 |
印紙代 | 2,600円 |
郵便切手代 | 約600円 |
原本超過枚数加算 | 1枚250円 |
正本謄本の作成料 | 1枚250円 |
費用に差が生まれるのは、契約書の枚数による違いです。
正本は本人と受任者に各1通、謄本は法務局への登記申請用として1通必要です。
例えば、契約書の枚数が5枚であれば、「5枚×3×250円=3,750円」が正本謄本の作成料となります。
関連記事を読む『任意後見の費用は公証人手数料や専門家報酬等の4つ』
3.その他の契約も公正証書にできる
事実婚の夫婦が公正証書を作成するケースは、公正証書遺言や任意後見契約以外にもあります。
- 事実婚の契約書
- 信託契約書
- 死後事務委任契約書
簡単にですが、それぞれ説明していきます。
3-1.夫婦間の合意を公正証書で書面にする
事実婚では法律婚と違い、夫婦間の権利義務が法律上は定められていません。
法律婚と同じ権利義務を発生させるために、事実婚の夫婦間で契約を結ぶこともできます。あるいは、夫婦間の合意事項を書面に残すこともできます。
夫婦間の契約(合意)も公正証書で作成しておくと、後から揉める可能性は低くなります。
関連記事を読む『事実婚契約書|夫婦の間で何を決めているのか』
3-2.信託契約書は公正証書にするのが一般的
事実婚の夫婦も信託契約を利用することがあります。
細かい説明は省きますが、信託契約を利用することで、配偶者に財産を移すこともできます。
信託契約で信託口口座を開設する場合、銀行から契約書は公正証書で作成するよう指示されます。
- 信託口口座
- 信託された財産を管理する専用口座のこと
銀行が関係しない場合でも、信託契約では高額な財産を対象にすることが多いので、公正証書で作成するのが一般的です。
3-3.配偶者に死後事務を任せるなら書面を残す
事実婚の配偶者に、あなたが亡くなった後の手続(死後事務)を任せるなら、死後事務委任契約を書面にしておきましょう。
死後事務委任契約をしていなくても、事実婚の配偶者であれば可能な手続きもあります。
ですが、余計な手間を省くためにも、死後事務委任契約を書面で証明できた方がいいです。
4.公証人は内容の相談には乗ってくれない
事実婚の夫婦が公正証書での作成を希望する場合、公証役場に連絡を入れることになります。
ただし、間違えやすい点が1つあるので、連絡をする前に確認しておいてください。
公証人は公正証書の作成に関する相談には答えてくれます。
例えば、「作成までの流れ」「作成に必要な費用」などは、作成に関する相談なので答えてくれます。
一方、「契約の内容は自分で考えて大丈夫か?」「遺留分は考慮した方がいいのか?」などは、契約(遺言書)の内容に関することなので答えてくれません。
あくまでも、公正証書の内容(案)は自分たちで考えなければなりません。
*内容に法律上の問題があれば、公証人から指摘されます。
5.さいごに
事実婚の夫婦も遺言書や契約書を、公正証書にすることがあります。
契約書(遺言書)を公正証書にすることで、書面の信頼性を高めることができます。
ただし、公正証書を作成するには、作成手数料が必要なので気を付けてください。
事実婚は法律婚と違って第3者に証明するのが大変です。公正証書で書面を作成しておけば、証明の手助けになってくれます。