遺贈は遺言書に記載しなければ効力が発生しません。
したがって、遺言書なしなら遺贈もなしです。たとえ遺贈の意思があっても結論は変わりません。
ただし、遺贈の意思表示を生前にしていれば、相続人の協力を得ることで、遺言書なしでも財産を移すことは可能です。
もちろん、遺贈が成立すれば問題ないので、遺言書なしを避ける対策もしておきましょう。
1.遺言書なしなら遺贈は成立しない
結論から言うと、遺言書なしなら遺贈は成立しません。
例外も存在しないので、遺言書がなければ遺贈もないです。
1-1.遺言書により財産を譲る行為
遺贈とは、遺言書により財産を他人に譲る行為です。
以下は、民法の条文。
単なる書面に財産を譲ると書いても、遺贈にはなりません。
たとえ遺贈する意思があったとしても、遺言書に記載しなければ遺贈とは認められないです。
1-2.遺言書の成立要件を満たす
遺言書に遺贈を記載しても、遺言書の成立要件を満たしていなければ、遺贈は成立しません。
例えば、自筆証書遺言に遺贈を記載しても、押印が抜けていれば、自筆証書遺言は不成立です。したがって、遺贈も不成立となります。
せっかく遺言書を作成しても、無効になると意味がありません。遺贈の成立は遺言書の成立が前提なので、自筆証書遺言にする場合は注意してください。
※公正証書遺言は無効になる可能性が低い。
関連記事を読む『自筆証書遺言の成立要件は4つ【自書・日付・氏名・押印】』
2.遺言書なしだが相続人も遺贈を知っていた
たとえ遺贈の意思があっても、遺言書なしなら効力は発生しません。
ただし、相続人も遺贈の意思を知っていたなら、別の解決方法が検討できます。
- 死因贈与契約の成立を検討
- 相続人からの贈与を検討
- 相続放棄で相続人を変える
それぞれ説明していきます。
2-1.死因贈与は口約束でも成立する
遺贈の意思表示が、死因贈与契約に該当する可能性はあります。
なぜなら、死因贈与契約は口約束でも成立するからです。
【事例】
財産の所有者|A
財産の受贈者|B(Aの弟)
贈与する財産|田舎にある田畑
Aに子どもはいるが、田畑を相続するつもりはない。そのため、親戚一同(子どもやBを含む)で集まった際に、Bに残す旨を伝えていた。
ところが、遺言書を作成する前に、Aは亡くなってしまった。
上記のケースであれば、死因贈与契約が成立している余地はあります。
相続人全員が死因贈与契約の成立に同意するなら、契約の効力により財産を移すことは可能です。
2-2.相続発生後に相続人から贈与
死因贈与契約が成立しないなら、相続発生後に相続人からの贈与を検討してください。
相続人が被相続人の意思を尊重して、財産を贈与してくれるなら、結果的に財産は移ります。
ただし、贈与税には注意してください。
相続税と違って贈与税は非課税枠が少ないので、課税される可能性が高いです。
相続人から贈与してもらう場合は、贈与税を確認しておいてください。
2-3.受遺者が後順位相続人なら相続放棄
遺贈の受遺者が後順位相続人(兄弟姉妹)なら、先順位相続人の相続放棄でも解決できます。
【事例】
財産の所有者|A
財産の受贈者|B(Aの弟)
贈与する財産|田舎にある田畑
Aの子どもが全員相続放棄すると、相続権は後順位相続人(兄弟姉妹)に移ります。したがって、遺贈が無効になっても、Bは相続人として田畑を取得できます。
ただし、先順位相続人の相続放棄にはデメリットもあります。
- すべての財産が取得できない
- 後順位相続人が複数だと共有
相続放棄すると全財産を取得できません。譲りたい財産だけ放棄する制度ではないです。
また、先順位相続人が全員相続放棄すると、後順位相続人が全員相続人になります。人を選んで取得させることはできません。
デメリットも多いので使えるケースは少ないですが、知っておいてください。
関連記事を読む『【相続放棄のデメリット】6つの欠点を図を用いて説明』
3.遺言書なしの遺贈を避ける対策
最後に、遺言書なしの遺贈を避ける対策を説明しておきます。
- 遺言書の作成を後回しにしない
- 相続人に遺贈の内容を伝えておく
- 可能なら生前に財産を贈与する
財産の内容によって対策も変わりますが、参考にしてください。
3-1.遺言書の作成を後回しにしない
1つ目の対策は、遺言書の作成を後回しにしないです。
遺贈を考えていても、遺言書の作成を後回しにする人はいます。そして、遺言書を作成する前に、亡くなる人も存在します。
遺言書なしの遺贈を避けるなら、すぐに作成してください。作成するまでの期間が短ければ、遺言書なしの可能性は下がります。
遺言書を作成しない限り、遺贈は成立しないので、後回しにせず作成しましょう。
3-2.相続人に遺贈の内容を伝えておく
2つ目の対策は、相続人に遺贈の内容を伝えておくです。
相続人に遺贈の内容を伝えておけば、遺贈が不成立の場合に役立ちます。
例えば、【2.遺言書なしだが相続人も遺贈を知っていた】で説明した方法も、相続人の協力が前提だからです。
もちろん、遺贈に反対する相続人もいるので、すべてのケースで役立つとは限りません。
遺贈する財産の内容や相続人との関係性を考慮して、伝えるかどうか判断してください。
3-3.可能なら生前に財産を贈与する
3つ目の対策は、可能なら生前に贈与するです。
生前に財産を贈与できるなら、遺言書を作成しなくても問題ありません。
あえて遺贈にする必要がなければ、生前に贈与する方が簡単ですし確実です。
遺贈と生前贈与の違いについては、下記の記事で説明しています。
関連記事を読む『遺贈と生前贈与の違いを5つの項目で比較』
4.まとめ
今回の記事では「遺言書なしの遺贈」について説明しました。
遺贈は遺言書に記載しなければ成立しないので、遺言書なしなら遺贈もなしです。例外もないので、遺贈は諦めるしかありません。
ただし、遺贈の意思表示をしていたなら、相続人の協力を得ることで、別の方法で財産を移すことは可能です。
- 死因贈与契約の成立を検討する
- 相続人からの贈与で渡す
- 相続放棄で相続人を変更する
相続人の協力が必須なので、当てにするのは危険です。
したがって、遺言書なしの遺贈を避ける対策をしておきましょう。
遺言書の作成を後回しにしないや、生前に贈与するなど、実現可能な対策です。
遺言書なしの遺贈で困らないように、今回の記事を参考にしてください。