遺贈は相続人以外に対しても有効なので、財産を残したいなら遺言書を作成しましょう。
ただし、遺言書が無効になると遺贈も無効になるので、作成する際は注意してください。
不動産を相続人以外に遺贈するなら、登記が重要になります。名義変更しなければ、権利の取得を主張できません。
相続人以外が遺贈により財産を取得した場合、相続税の課税対象となるので、税金についても確認しておいてください。
1.遺贈は相続人以外に対しても有効
遺贈の相手に決まりはないので、相続人以外に対しても有効です。
したがって、相続人以外に財産を残すなら、遺言書を作成しておきましょう。
1-1.誰に遺贈するのか特定できるように書く
相続人以外に遺贈する場合、「誰に」対する遺贈なのか特定できるように書いてください。
なぜなら、受遺者が特定できなければ、相続手続きでは使用できないからです。
一般的には、以下のように書いています。
遺言者は、遺言者の有する下記の財産を、○○(生年月日、住所)に遺贈する。
氏名・生年月日・住所を書いておけば、受遺者を特定できます。
一方、特定できないケースとしては、以下のような記載があります。
遺言者は、遺言者の有する下記の財産を、お世話になった友人に遺贈する。
お世話になった友人では、誰のことか分かりません。
遺言書を使用するのは相続手続きなので、銀行や法務局の担当者が読んで分かるように書いてください。
関連記事を読む『【遺言書で遺贈】文例を交えて「誰に」「何を」が分かる書き方を説明』
1-2.遺言書が無効なら遺贈も無効になる
せっかく遺言書を作成しても、さまざまな要因により無効となるケースもあります。
そして、遺言書が無効になると、相続人以外への遺贈も無効です。遺贈の対象だった財産は相続人が取得します。
【事例】
被相続人|A
相続人 |B(面識のない甥)
受遺者 |C(お世話になった人)
Aは全財産をCに遺贈する遺言書を作成していた。
ところが、遺言書に無効要因があり、Cへの遺贈は無効となった。
Aの全財産はBが相続するので、Cは何も取得できません。
相続人以外に遺贈するなら、遺言書の無効には注意してください。
関連記事を読む『遺贈の意思があっても遺言書なしなら効力は発生しない』
1-3.相続人以外に遺贈なら公正証書遺言
相続人以外に遺贈するなら、公正証書遺言の作成をお勧めします。
理由は、以下の2つです。
- 自筆証書遺言より無効の可能性が低い
- 相続人が遺贈に不満でも諦めやすい
自筆証書遺言より無効の可能性が低い
自筆証書遺言と公正証書遺言を比べると、公正証書遺言の方が無効になる可能性は低いでしょう。
なぜなら、公証人が遺言書を作成するからです。
公証人が作成する以上、要件を満たさず無効になるケースは基本的にありません。
無効になる可能性を低くするなら、公正証書遺言を作成した方が良いです。
相続人が遺贈に不満でも諦めやすい
遺言者に相続人がいると、相続人以外への遺贈で揉める可能性があります。
※遺言書の内容にもよる。
家族以外に財産を残すはずがない!
ただし、作成した遺言書が公正証書遺言だと、揉める可能性は低くなります。
公証人が作成している以上、無効になる可能性は低く、揉めても意味がないと諦めやすいからです。
相続人が遺贈の内容で揉めそうなら、公正証書遺言で作成した方が良いでしょう。
2.不動産を相続人以外に遺贈
相続人以外に不動産を遺贈した場合、注意点が複数あります。
- 遺贈登記が第3者対抗要件
- 登録免許税の税率は2%
- 遺贈登記は共同申請
- 農地を遺贈なら許可の有無
それぞれ説明していくので、しっかりと確認しておいてください。
2-1.遺贈登記が第3者対抗要件
遺言者が亡くなると遺贈の効力が発生し、不動産は受遺者に移ります。
ただし、登記名義を変更しなければ、権利取得を第3者に対抗できません。
以下は、民法の条文です。
相続人以外に不動産を遺贈した場合、遺贈登記が重要になるので、必ず名義変更してください。
遺贈登記については、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『遺贈の登記とは第3者対抗要件であり権利者と義務者の共同申請』
2-2.相続人以外は登録免許税の税率が2%
遺贈により不動産の名義を変更するには、登録免許税という税金を納める必要があります。
- 登録免許税
-
不動産等の登記手続きで納める税金
ただし、相続人以外に遺贈登記する場合、登録免許税の税率は相続人より高いです。
- 相続人 |0.4%
- 相続人以外|2%
例えば、不動産評価額が1,000万円であれば、登録免許税は20万円となります。
不動産の評価額によっては、登録免許税が高くなるので、前もって確認しておいた方が良いです。
関連記事を読む『遺贈による登録免許税は取得者が相続人以外なら税率2%』
2-3.遺贈登記は単独ではなく共同申請
相続登記は相続人からの単独申請ですが、遺贈登記は権利者と義務者の共同申請です。
- 登記権利者|受遺者(相続人以外)
- 登記義務者|遺言執行者または相続人全員
遺言書で遺言執行者を指定していれば、遺言執行者が登記義務者となります。
一方、遺言執行者を指定していなければ、相続人全員が登記義務者です。
相続人以外に不動産を遺贈する場合、遺言書で遺言執行者を指定した方が良いでしょう。
遺贈義務者に関しては、下記の記事で詳しく説明しています。
関連記事を読む『遺贈義務者とは遺言者の代わりに遺贈を実行する人』
2-4.農地の遺贈は許可の有無を確認
相続人以外に遺贈する不動産が農地なら、農業委員会の許可に注意してください。
なぜなら、遺贈の種類によって、許可の有無が違うからです。
相続人以外に農地を特定遺贈するなら、農業委員会の許可を得る必要があります。
※遺贈登記する際に許可が必要。
それに対して、包括遺贈であれば、農業委員会の許可は不要です。
特定遺贈するのであれば、遺言書を作成する前に、農業委員会に確認しておきましょう。
関連記事を読む『【農地の遺贈】種類や受遺者によって3条許可の有無が違う』
3.相続人以外に遺贈するなら税金に注意
相続人以外に遺贈するなら、税金にも注意してください。
- 贈与税ではなく相続税が課税
- 相続税の控除等が適用されない
- 不動産取得税は遺贈により違う
3-1.贈与税ではなく相続税が課税
遺贈の相手が相続人以外であっても、贈与税ではなく相続税が課税されます。
相続財産を取得した人に対する税金なので、相続人かどうかは関係ありません。
相続税の税率は贈与税よりも低いので、生前贈与するよりも税金は安くなります。
ただし、相続人以外が相続財産を取得した場合、相続税の控除等には注意が必要です。
3-2.相続税の控除等が適用されない
相続税の課税対象が相続人以外の場合、相続税の控除等は適用されません。
- 生命保険金の非課税枠
- 死亡退職金の非課税枠
- 未成年者控除
- 障害者者控除
上記以外にも、受遺者が一親等の血族および配偶者以外なら、相続税の2割加算もあります。
相続人よりも相続税の計算では不利になるので、遺贈する財産が多いなら注意してください。
3-3.不動産取得税は遺贈により違う
相続人以外が不動産を取得すると、遺贈の種類によって不動産取得税に違いがあります。
- 特定遺贈|課税
- 包括遺贈|非課税
特定遺贈により不動産を取得すると、不動産取得税が課税されます。
一方、包括遺贈により不動産を取得すると、相続人以外であっても不動産取得税は課税されません。
遺贈の種類によって課税の有無が違うので、不動産を遺贈するなら気を付けてください。
関連記事を読む『遺贈でも不動産取得税は発生するのか?取得者や方法により違う』
4.まとめ
今回の記事では「相続人以外への遺贈」について説明しました。
遺贈は相続人以外に対しても有効であり、財産を残す手段となります。
ただし、遺言書が無効になると遺贈も無効なので、確実に遺言書を作成してください。場合によっては、公正証書遺言での作成をお勧めします。
不動産を相続人以外に遺贈するなら、遺贈登記にも注意してください。
登記名義を変更しなければ、第3者に不動産の取得を対抗できないからです。遺贈登記は共同申請なので、遺言執行者を指定した方が楽になるでしょう。
登録免許税の税率は2%であり、不動産の評価額によっては税金も高くなります。
相続人以外が遺贈により財産を取得すると、贈与税ではなく相続税の課税対象です。
ただし、控除等は適用されないので、計算する際は注意してください。