遺贈は法定相続人に対しても有効だが第3者との違いに注意

相続人に遺贈
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法定相続人に対して遺贈をしても、効力は有効に発生します。

したがって、遺言書作成後に受遺者が相続人になっても、心配する必要はありません。

遺贈の相手が法定相続人の場合、実質的には相続と同じなので、税金に関しても第3者への遺贈とは違います。

遺贈を放棄しても相続人なので、財産が不要な場合は注意してください。

目次

1.法定相続人に対する遺贈も有効

遺贈の受遺者は自由に選べる

一般的に、遺贈の相手は第3者(相続人以外)が多いです。

ただし、法定相続人に対して遺贈をしても、法律上は問題ありません。受遺者が法定相続人であっても、遺贈は有効に成立します。

1-1.相続欠格の規定は受遺者に準用

法定相続人は受遺者になれますが、相続欠格に該当すると受遺者になれません。

以下は、民法の条文です。

(相続人に関する規定の準用)
第九百六十五条 第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
出典:e-Govウェブサイト(民法965条・891条)

相続欠格の規定を受遺者に準用しているので、遺言者を殺害した人(殺害しようとした人)や、遺言書を偽造・変造した人などは、受遺者になれないです。

当然ですが、受遺者だけでなく、相続人にもなれません。

1-2.「相続させる」という文言を使う人が多い

法定相続人に財産を残す場合、一般的には「相続させる」という文言を使っています。

遺言書

遺言者は、遺言者の有する下記の財産を、長男○○(生年月日)に相続させる

(財産の表示省略)

公証人が公正証書遺言を作成する際は、「相続させる」で統一しているようです。

また、専門家が遺言書の文案作成を依頼された場合も、「相続させる」を使用しています。

遺贈の書き方については、下記の記事を参考にしてください。

2.遺贈の相手が法定相続人になるケース

遺贈の相手が法定相続人になるケースは、主に3つあります。

  • 遺言書の文言を知らずに書いた
  • 遺言書の作成後に相続人が変わった
  • 特別な事情があるので遺贈にした

それぞれ説明していきます。

2-1.遺言書の文言を知らずに書いた

1つ目のケースは、遺言書の文言を知らずに書いたです。

遺言書の文案作成を専門家に依頼した場合や、公正証書遺言を作成する場合は別ですが、自分だけで遺言書を作成すると、知らずに(間違えて)遺贈と書く人もいます。

あるいは、「譲る」や「渡す」などの言葉を使用する人もいるでしょう。

「相続させる」という書き方を知らなければ、遺贈と書いても不思議はありません。

2-2.遺言書の作成後に相続人が変わった

2つ目のケースは、遺言書の作成後に相続人が変わったです。

遺言書の作成時は相続人以外だったが、効力発生時は相続人に変わっている場合もあります。

  • 事実婚から法律婚に変わった
  • 孫や甥姪と養子縁組した
  • 先順位が全員相続放棄した

事実婚の配偶者を受遺者にしたが、遺言書の作成後に婚姻したので、法定相続人である配偶者が受遺者となった。

あるいは、孫や甥姪を受遺者にしたが、遺言書の作成後に養子縁組したので、法定相続人である養子が受遺者なった。

遺言書作成後に受遺者が法定相続人に変わっても、遺言書の効力は変わりません。

2-3.特別な事情があるので遺贈にした

3つ目のケースは、特別な事情があるので遺贈にしたです。

「相続させる」という書き方を知っていても、あえて遺贈にしている人もいます。

例えば、兄弟姉妹に実家の土地を残したいが、遺言書作成後に子どもが生まれるかもしれない。子どもが生まれると兄弟姉妹は相続人ではないので、可能性を考慮して遺贈にしているです。

上記以外でも、遺贈にする理由があれば、遺贈と書いておきましょう。

3.法定相続人に不動産を遺贈

法定相続人への遺贈登記で重要な点は3つ

法定相続人に不動産を遺贈した場合も、不動産登記が必要になります。

具体的には、遺言者から受遺者(法定相続人)への所有権移転登記(遺贈登記)です。

遺贈登記で重要な点は3つあります。

  • 相続人への遺贈登記も義務化された
  • 受遺者が相続人なら単独申請できる
  • 相続人だと証明すれば税率が下がる

それぞれ確認しておいてください。

3-1.相続人への遺贈登記も義務化された

法改正により相続登記が義務化されると同時に、相続人への遺贈登記も義務化されました。

以下は、不動産登記法の条文です。

第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
出典:e-Govウェブサイト(不動産登記法76条の2)

遺言書により不動産を取得したと知った日から3年以内に、遺贈登記を申請してください。

義務化されたのは相続登記だけではないので、相続人が遺贈を受けているなら注意してください。

3-2.受遺者が相続人なら単独申請できる

原則として、遺贈による所有権移転登記は、登記権利者と登記義務者の共同申請です。

ただし、受遺者が相続人の場合は単独申請できます。

以下は、不動産登記法の条文です。

第六十三条 (省略)
3遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。
出典:e-Govウェブサイト(不動産登記法63条3項)

共同相続人の協力等も不要なので、自分だけで遺贈登記は申請可能です。

登記の申請も義務化されているので、後回しにせず申請してください。

3-3.相続人だと証明すれば税率が下がる

原則として、遺贈による所有権移転登記の登録免許税は、固定資産評価額×2%です。

ただし、受遺者が相続人だと証明すれば、登録免許税の税率は0.4%に下がります。実質的に相続登記と変わらないからです。
※相続登記の税率は0.4%

【事例】

被相続人|A
受遺者 |B(弟)

遺言書とAの死亡戸籍だけ添付しても、Bが相続人か判断できません。

登録免許税の税率を0.4%にするなら、以下の戸籍を添付してください。

  • Aの出生から死亡までの戸籍
  • 直系尊属(両親等)の死亡戸籍
  • Bの戸籍

上記の戸籍を添付すると、Bが相続人だと判断できます。

戸籍で受遺者が相続人だと証明しなければ、登録免許税の税率は2%になります。

4.法定相続人への遺贈で関係する税金

法定相続人への遺贈と税金

原則として、遺贈により財産を取得すると、以下の税金が関係します。
※不動産が含まれなければ相続税だけ。

  • 相続税
  • 登録免許税
  • 不動産取得税

登録免許税は前章で説明したので、残りの2つについて説明していきます。

4-1.基礎控除額以下であれば相続税は発生しない

相続税の基礎控除額の計算式

法定相続人が遺贈により財産を取得した場合も、相続税の課税対象となります。

ただし、相続財産(遺贈等を含む)の総額が、基礎控除額以下であれば、相続税は非課税です。

【事例1】

遺贈の財産 |不動産(1,000万円)
その他の財産|預貯金(2,000万円)
相続人   |A・B(受遺者)

3,000万円+600万円×2=4,200万円

相続財産の総額が基礎控除額以下なので、相続税は課税されません。

【事例2】

遺贈の財産 |不動産(1,000万円)
その他の財産|預貯金(4,000万円)
相続人   |A・B(受遺者)

3,000万円+600万円×2=4,200万円

相続財産の総額が基礎控除額を超えているので、相続人(受遺者含む)に相続税が課税されます。

遺贈により取得した財産額ではなく、相続財産の総額という点に注意してください。

相続財産の総額が基礎控除額を超えていれば、受遺者にも相続税が課税されます。

4-2.受遺者が相続人なら不動産取得税は非課税

原則として、遺贈により不動産を取得すると、不動産取得税が課税されます。

ですが、受遺者が相続人の場合は非課税となります。

以下は、地方税法の条文です。

第七十三条の七 道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。 一 相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得
出典:e-Govウェブサイト(地方税法第73条の7第1号)

相続による不動産の取得は非課税なので、遺贈により取得した場合も同じく非課税です。

5.遺贈を放棄しても法定相続人

相続人が遺贈を放棄しても相続人

遺言書に法定相続人への遺贈が書かれていても、遺贈を放棄(拒否)するのは自由です。

ただし、遺贈を放棄しても相続人なので注意してください。

5-1.遺贈を放棄すると相続人が引き継ぐ

受遺者が遺贈を放棄すると、当該財産は相続人が引き継ぎます。

以下は、民法の条文です。

第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
出典:e-Govウェブサイト(民法995条)

つまり、受遺者が相続人だと、遺贈を放棄しても相続人として引き継ぐことになります。
※相続人が複数なら遺産分割協議で決める。

他の相続人が当該財産を取得するなら問題ありません。ですが、相続人が1人しかいない場合は、相続放棄も必要になります。

5-2.相続を放棄するなら相続放棄も必要

受遺者(法定相続人)が遺贈を放棄しても、相続人として財産を相続します。

遺贈を放棄しても相続人なので、相続も放棄するなら相続放棄が必要です。

ただし、遺贈の財産以外も取得できないなどの、デメリットもあるので注意してください。

相続放棄のデメリットについては、下記の記事で説明しています。

6.まとめ

今回の記事では「法定相続人に対する遺贈」について説明しました。

法律上、法定相続人に対する遺贈も有効です。遺贈の相手は相続人・第3者どちらでも問題ありません。

遺言書を作成した後で、受遺者が相続人になるケースもあるので、気にしなくても大丈夫です。

法定相続人に不動産を遺贈した場合、法改正により単独申請が可能になりました。また、相続人だと証明すれば、登録免許税の税率は0.4%になります。

受遺者が相続人の場合、遺贈を放棄しても相続人として財産を取得します。相続を放棄するなら、相続放棄も必要です。

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