法定相続人に対して遺贈をしても、効力は有効に発生します。
したがって、遺言書作成後に受遺者が相続人になっても、心配する必要はありません。
遺贈の相手が法定相続人の場合、実質的には相続と同じなので、税金に関しても第3者への遺贈とは違います。
遺贈を放棄しても相続人なので、財産が不要な場合は注意してください。
1.法定相続人に対する遺贈も有効
一般的に、遺贈の相手は第3者(相続人以外)が多いです。
ただし、法定相続人に対して遺贈をしても、法律上は問題ありません。受遺者が法定相続人であっても、遺贈は有効に成立します。
1-1.相続欠格の規定は受遺者に準用
法定相続人は受遺者になれますが、相続欠格に該当すると受遺者になれません。
以下は、民法の条文です。
相続欠格の規定を受遺者に準用しているので、遺言者を殺害した人(殺害しようとした人)や、遺言書を偽造・変造した人などは、受遺者になれないです。
当然ですが、受遺者だけでなく、相続人にもなれません。
1-2.「相続させる」という文言を使う人が多い
法定相続人に財産を残す場合、一般的には「相続させる」という文言を使っています。
遺言書
遺言者は、遺言者の有する下記の財産を、長男○○(生年月日)に相続させる。
(財産の表示省略)
公証人が公正証書遺言を作成する際は、「相続させる」で統一しているようです。
また、専門家が遺言書の文案作成を依頼された場合も、「相続させる」を使用しています。
遺贈の書き方については、下記の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『【遺言書で遺贈】文例を交えて「誰に」「何を」が分かる書き方を説明』
2.遺贈の相手が法定相続人になるケース
遺贈の相手が法定相続人になるケースは、主に3つあります。
- 遺言書の文言を知らずに書いた
- 遺言書の作成後に相続人が変わった
- 特別な事情があるので遺贈にした
それぞれ説明していきます。
2-1.遺言書の文言を知らずに書いた
1つ目のケースは、遺言書の文言を知らずに書いたです。
遺言書の文案作成を専門家に依頼した場合や、公正証書遺言を作成する場合は別ですが、自分だけで遺言書を作成すると、知らずに(間違えて)遺贈と書く人もいます。
あるいは、「譲る」や「渡す」などの言葉を使用する人もいるでしょう。
「相続させる」という書き方を知らなければ、遺贈と書いても不思議はありません。
2-2.遺言書の作成後に相続人が変わった
2つ目のケースは、遺言書の作成後に相続人が変わったです。
遺言書の作成時は相続人以外だったが、効力発生時は相続人に変わっている場合もあります。
- 事実婚から法律婚に変わった
- 孫や甥姪と養子縁組した
- 先順位が全員相続放棄した
事実婚の配偶者を受遺者にしたが、遺言書の作成後に婚姻したので、法定相続人である配偶者が受遺者となった。
あるいは、孫や甥姪を受遺者にしたが、遺言書の作成後に養子縁組したので、法定相続人である養子が受遺者なった。
遺言書作成後に受遺者が法定相続人に変わっても、遺言書の効力は変わりません。
2-3.特別な事情があるので遺贈にした
3つ目のケースは、特別な事情があるので遺贈にしたです。
「相続させる」という書き方を知っていても、あえて遺贈にしている人もいます。
例えば、兄弟姉妹に実家の土地を残したいが、遺言書作成後に子どもが生まれるかもしれない。子どもが生まれると兄弟姉妹は相続人ではないので、可能性を考慮して遺贈にしているです。
上記以外でも、遺贈にする理由があれば、遺贈と書いておきましょう。
3.法定相続人に不動産を遺贈
法定相続人に不動産を遺贈した場合も、不動産登記が必要になります。
具体的には、遺言者から受遺者(法定相続人)への所有権移転登記(遺贈登記)です。
遺贈登記で重要な点は3つあります。
- 相続人への遺贈登記も義務化された
- 受遺者が相続人なら単独申請できる
- 相続人だと証明すれば税率が下がる
それぞれ確認しておいてください。
3-1.相続人への遺贈登記も義務化された
法改正により相続登記が義務化されると同時に、相続人への遺贈登記も義務化されました。
以下は、不動産登記法の条文です。
遺言書により不動産を取得したと知った日から3年以内に、遺贈登記を申請してください。
義務化されたのは相続登記だけではないので、相続人が遺贈を受けているなら注意してください。
3-2.受遺者が相続人なら単独申請できる
原則として、遺贈による所有権移転登記は、登記権利者と登記義務者の共同申請です。
ただし、受遺者が相続人の場合は単独申請できます。
以下は、不動産登記法の条文です。
共同相続人の協力等も不要なので、自分だけで遺贈登記は申請可能です。
登記の申請も義務化されているので、後回しにせず申請してください。
関連記事を読む『遺贈の登記とは|不動産の取得を第3者に対抗する要件』
3-3.相続人だと証明すれば税率が下がる
原則として、遺贈による所有権移転登記の登録免許税は、固定資産評価額×2%です。
ただし、受遺者が相続人だと証明すれば、登録免許税の税率は0.4%に下がります。実質的に相続登記と変わらないからです。
※相続登記の税率は0.4%
【事例】
被相続人|A
受遺者 |B(弟)
遺言書とAの死亡戸籍だけ添付しても、Bが相続人か判断できません。
登録免許税の税率を0.4%にするなら、以下の戸籍を添付してください。
- Aの出生から死亡までの戸籍
- 直系尊属(両親等)の死亡戸籍
- Bの戸籍
上記の戸籍を添付すると、Bが相続人だと判断できます。
戸籍で受遺者が相続人だと証明しなければ、登録免許税の税率は2%になります。
関連記事を読む『遺贈による登録免許税は受取人によって税率が違う』
4.法定相続人への遺贈で関係する税金
原則として、遺贈により財産を取得すると、以下の税金が関係します。
※不動産が含まれなければ相続税だけ。
- 相続税
- 登録免許税
- 不動産取得税
登録免許税は前章で説明したので、残りの2つについて説明していきます。
4-1.基礎控除額以下であれば相続税は発生しない
法定相続人が遺贈により財産を取得した場合も、相続税の課税対象となります。
ただし、相続財産(遺贈等を含む)の総額が、基礎控除額以下であれば、相続税は非課税です。
【事例1】
遺贈の財産 |不動産(1,000万円)
その他の財産|預貯金(2,000万円)
相続人 |A・B(受遺者)
3,000万円+600万円×2=4,200万円
相続財産の総額が基礎控除額以下なので、相続税は課税されません。
【事例2】
遺贈の財産 |不動産(1,000万円)
その他の財産|預貯金(4,000万円)
相続人 |A・B(受遺者)
3,000万円+600万円×2=4,200万円
相続財産の総額が基礎控除額を超えているので、相続人(受遺者含む)に相続税が課税されます。
遺贈により取得した財産額ではなく、相続財産の総額という点に注意してください。
相続財産の総額が基礎控除額を超えていれば、受遺者にも相続税が課税されます。
4-2.受遺者が相続人なら不動産取得税は非課税
原則として、遺贈により不動産を取得すると、不動産取得税が課税されます。
ですが、受遺者が相続人の場合は非課税となります。
以下は、地方税法の条文です。
相続による不動産の取得は非課税なので、遺贈により取得した場合も同じく非課税です。
関連記事を読む『遺贈でも不動産取得税は発生するのか?』
5.遺贈を放棄しても法定相続人
遺言書に法定相続人への遺贈が書かれていても、遺贈を放棄(拒否)するのは自由です。
ただし、遺贈を放棄しても相続人なので注意してください。
5-1.遺贈を放棄すると相続人が引き継ぐ
受遺者が遺贈を放棄すると、当該財産は相続人が引き継ぎます。
以下は、民法の条文です。
つまり、受遺者が相続人だと、遺贈を放棄しても相続人として引き継ぐことになります。
※相続人が複数なら遺産分割協議で決める。
他の相続人が当該財産を取得するなら問題ありません。ですが、相続人が1人しかいない場合は、相続放棄も必要になります。
関連記事を読む『遺贈は拒否できる|不要な財産は断っても大丈夫です』
5-2.相続を放棄するなら相続放棄も必要
受遺者(法定相続人)が遺贈を放棄しても、相続人として財産を相続します。
遺贈を放棄しても相続人なので、相続も放棄するなら相続放棄が必要です。
ただし、遺贈の財産以外も取得できないなどの、デメリットもあるので注意してください。
相続放棄のデメリットについては、下記の記事で説明しています。
関連記事を読む『【相続放棄のデメリット】6つの欠点を図を用いて説明』
6.まとめ
今回の記事では「法定相続人に対する遺贈」について説明しました。
法律上、法定相続人に対する遺贈も有効です。遺贈の相手は相続人・第3者どちらでも問題ありません。
遺言書を作成した後で、受遺者が相続人になるケースもあるので、気にしなくても大丈夫です。
法定相続人に不動産を遺贈した場合、法改正により単独申請が可能になりました。また、相続人だと証明すれば、登録免許税の税率は0.4%になります。
受遺者が相続人の場合、遺贈を放棄しても相続人として財産を取得します。相続を放棄するなら、相続放棄も必要です。