相続人の中に未成年者がいるなら、遺産分割協議の参加者に気を付けてください。
原則として未成年者は遺産分割協議に参加せず、親権者(法定代理人)が代わりに遺産分割協議に参加します。
ただし、未成年者と親権者が利益相反に該当する場合は、親権者ではなく特別代理人が必要になります。
今回の記事では、遺産分割協議と未成年者について説明しているので、遺産分割の参考にしてください。
1 未成年者は原則として遺産分割協議に参加しない
相続人の中に未成年者がいても、原則として遺産分割協議には参加しません。
未成年者の法律行為には制限があり、遺産分割協議も法律行為に該当するからです。
1-1.未成年者の法定代理人が代わりに参加する
亡くなった人の相続人が未成年者の場合、遺産分割協議には未成年者の「法定代理人」が参加します。
- 法定代理人
-
本人に代わって契約や手続きを行う権利を、法律によって認められた人のこと
未成年者の法定代理人は、他の相続人と遺産の分割について話し合います。
なお、法律上は、法定代理人の同意を得たうえで未成年者本人が遺産分割協議に参加するという方法も考えられます。
しかし、遺産分割協議は重要な法律行為であるため、実務上は、法定代理人が未成年者を代理して遺産分割協議に参加しています。
1-2.遺産分割協議書も法定代理人が署名捺印する
遺産分割協議書は遺産分割の成立を証明する書類なので、参加者である法定代理人が署名捺印します。
勘違いしやすいですが、遺産分割協議に参加していない未成年者は署名捺印しません。
▼家族構成
被相続人|A
相続人 |B・C(未成年)
※Cの法定代理人はD
▼相続財産
預貯金(1,000万円)
▼遺産分割
B|500万円
C|500万円
遺産分割協議によりBとCが預貯金を相続する場合でも、遺産分割協議書に署名捺印するのは、BとD(Cの法定代理人)です。
遺産分割協議に参加していない未成年者は、遺産分割協議書に署名捺印しないと覚えておいてください。
次章からは、誰が未成年者の法定代理人になるのかを説明していきます。
2.親権者が未成年者の代理人として遺産分割協議に参加
未成年者の親権者は、法律により当然に代理人となります。
したがって、未成年者が相続人である遺産分割協議にも、親権者が代わりに参加します。
2-1.遺産分割協議書にも親権者が署名捺印する
未成年者の法定代理人は親権者なので、親権者が遺産分割協議に参加します。
以下は、民法の条文です。
(財産の管理及び代表)
第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。(後略)
▼家族構成
被相続人|A(父親)
相続人 |B・C(未成年)
※Cの親権者はD(母親)
※父親と母親は離婚している
遺産分割協議書
(省略)
住所 (省略)
相続人 B ㊞
住所 (省略)
相続人Cの親権者 D ㊞
遺産分割協議は財産に関する法律行為なので、親権者が未成年者を代表して代わりに行うので、遺産分割協議書にも親権者が署名捺印します。
2-2.未成年者と親権者が利益相反に該当すると代理できない
前節で説明したとおり、原則として遺産分割協議には親権者が参加します。
ただし、未成年者と親権者が遺産分割で利益相反に該当すると、親権者は未成年者の代理人になれません。
以下は、民法の条文です。
(利益相反行為)
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
未成年者と親権者が遺産分割で利益相反に該当するのは、以下のケースです。
- 未成年者と親権者が共同相続人
- 複数の未成年者(親権者が同じ)が共同相続人
利益相反になるケースを簡単に説明します。
未成年者と親権者が共同相続人の場合
未成年者と親権者が共同相続人の場合(民法826条1項)、親権者は未成年者の代理人になれません。
▼家族構成
被相続人|A
相続人 |B(配偶者)・C(未成年)
※Cの親権者はB
Aの相続人はBとCなので、親権者と未成年者は利益相反に該当します。
したがって、BはCの代理人になれないので、遺産分割協議をするには特別代理人を選任する必要があります。
通常、父親が亡くなって、配偶者と子(未成年)が相続人になると、利益相反に該当するので注意してください。
複数の未成年者が共同相続人の場合
複数の未成年者が共同相続人の場合(民法826条2項)、親権者は未成年者1人の代理人にしかなれません。
▼家族構成
被相続人|A(父親)
相続人 |B(未成年)・C(未成年)
※BとCの親権者はD
Aの相続人はBとCなので、親権者が両方の代理人になるのは利益相反に該当します。
したがって、遺産分割協議をするには、どちらか一方のために特別代理人を選任する必要があります。
父親と母親が離婚している場合でも、未成年の子が複数いると、利益相反に該当するので注意してください。
2-3.親権者がいなければ未成年後見人が遺産分割協議に参加
相続人である未成年者に親権者がいない場合、未成年後見人が代理人として遺産分割協議に参加します。
以下は、民法の条文です。
第八百三十八条 後見は、次に掲げる場合に開始する。 一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。 第八百五十九条 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。(後略)
ただし、未成年後見人は自動的に選任されるわけではなく、家庭裁判所に対して選任申立てが必要です。
未成年後見人が選任されたら、遺産分割協議をしてください。
▼家族構成
被相続人|母親
相続人 |A・B(未成年)
※父親は親権者ではない
▼相続発生から遺産分割までの流れ
- 母親(親権者)が亡くなる
- Bの親権者がいなくなる
- 未成年後見人の選任申立てをする
- Bの未成年後見人(C)が選任される
- AとCが遺産分割協議
遺産分割協議書
(省略)
住所 (省略)
相続人 A ㊞
住所 (省略)
相続人Bの未成年後見人 C ㊞
未成年者に親権者がいないと、遺産分割協議まで時間がかかるので注意してください。
3.特別代理人が未成年者の代わりに遺産分割協議に参加
親権者や未成年後見人と未成年者が利益相反に該当する場合は、特別代理人が遺産分割協議に参加します。
3-1.遺産分割協議書にも特別代理人が署名捺印する
特別代理人が遺産分割協議に参加した場合、遺産分割協議書にも特別代理人が署名捺印します。
▼家族構成
被相続人|A
相続人 |B(配偶者)・C(未成年)
※Cの親権者はB
※Cの特別代理人はD
遺産分割協議書
(省略)
住所 (省略)
相続人 B ㊞
住所 (省略)
相続人Cの特別代理人 D ㊞
特別代理人の選任申立てをする際は、遺産分割協議(案)も添付書類として提出する必要があります。
特別代理人と遺産分割協議については、下記の記事で詳しく説明しているので、参考にしてください。
特別代理人と遺産分割を読む『特別代理人が遺産分割協議書に署名捺印をする』
3-2.原則として未成年者に法定相続分を確保する
特別代理人を選任して遺産分割協議をする場合、原則として未成年者に法定相続分の確保が求められます。
なぜなら、特別代理人は子の利益を保護する必要があるので、法定相続分を下回る内容の遺産分割であれば、家庭裁判所から理由を聞かれます。
家庭裁判所が理由に納得しなければ、最終的に特別代理人の選任申立ては却下されます。
特別代理人の選任を検討しているなら、遺産分割協議(案)の内容にも気を付けてください。
4.遺産分割協議と未成年者で注意する点
この章では、未成年者と遺産分割協議で注意する点についても説明していきます。
- 未成年者が成人するまで遺産分割を待つ
- 未成年者がいても相続税の申告期限は10ヶ月
- 親権者は利益相反だけでなく代理権の濫用にも注意
4-1.未成年者が成人するまで遺産分割を待つ
未成年者と親権者が利益相反に該当する場合、未成年者が成人(18歳)するまで待つという選択肢もあります。
※未成年者の年齢にもよります。
なぜなら、未成年者が成人するのを待てば、特別代理人を選任する必要がないからです。
例えば、未成年者が17歳なら、わざわざ特別代理人を選任しなくても、未成年者が18歳になってから遺産分割協議をするでも良いです。
未成年者が成人するのを待つのか、それとも特別代理人を選任するのか、他の相続人の意見も聞いたうえで判断しましょう。
4-2.未成年者がいても相続税の申告期限は10ヶ月
相続人に未成年者が含まれていても、相続税の申告期限(納付期限)は10ヶ月以内となります。
したがって、親権者が未成年者と利益相反に該当する場合、特別代理人を選任しなければ、相続税の申告期限までに遺産分割協議が終わらない可能性が高いです。
遺産分割協議が終わらない場合、未分割申告により相続税を納める必要があります。ですが、未分割申告では小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減も適用されないです。
相続人に未成年者が含まれており、かつ、相続税が発生するような相続であれば、税理士に相談して対応策を考えてもらいましょう。
4-3.親権者は利益相反だけでなく代理権の濫用にも注意
親権者と未成年者が利益相反に該当しなければ、親権者は代理人として遺産分割協議に参加できます。
ただし、遺産分割協議の内容が、代理権の濫用と判断されないよう注意してください。
(代理権の濫用) 第百七条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
▼家族構成
被相続人|父親
相続人 |長男・二男(未成年)
※二男の親権者は母親
※父親と母親は離婚している
▼相続財産
預貯金(1,000万円)
▼遺産分割
長男|預貯金(1,000万円)
親権者は二男の代理人として参加しているので、理由なく二男の取得分をゼロにすると、長男の利益を図る目的で遺産分割協議をしたと判断される可能性があります。
利益相反に該当しない場合でも、親権者は未成年者のために遺産分割協議に参加する必要があるので注意してください。
5.遺産分割協議と未成年に関するQ&A
遺産分割協議と未成年について、よくある質問と回答を説明します。
未成年者本人の署名や押印は遺産分割協議書に必要ですか?
不要です。未成年者の法定代理人が遺産分割協議に参加するため、協議書には法定代理人が署名・押印します。
遺産分割協議の途中で未成年者が成年に達した場合はどうなりますか?
成年に達した後は、本人が遺産分割協議に参加し、協議書にも署名・押印します。
未成年者がいる場合、遺産分割協議書の書式は変わりますか?
基本的な書式は同じですが、法定代理人が代理人として署名・押印する点が異なります。
親権者が2人いる場合、遺産分割協議には両方の署名が必要ですか?
親権者が複数いる場合は、全員が署名・捺印します。
6.さいごに
今回の記事では「未成年者と遺産分割協議」について説明しました。
未成年者は遺産分割協議に参加できないんで、親権者が代わりに遺産分割協議に参加します。
だだし、未成年者と親権者が利益相反に該当する場合は、特別代理人を選任する必要があります。
遺産分割協議書には、親権者・特別代理人が署名捺印するので、印鑑証明書も準備しておきましょう。



