亡くなった人の財産から葬儀費用を支出していた場合、遺留分の計算はどうなるのでしょうか。遺留分を請求する側にとって非常に重要な部分となります。
あなたが請求する側なら知っておいて損はありませんので、ご存じなかった場合は確認しておいてください。
1.葬儀費用は誰が支払うのか
まず初めに、そもそも葬儀費用は誰が支払うのでしょうか。
実は、法律上では葬儀費用を誰が支払うか決めていません。過去の判例でも結論が違っています。
現実的には以下の3つのどれかです。
- 喪主が支払う
- 相続人が支払う
- 相続財産から支払う
喪主や相続人が自分のお金で支払う場合は、遺留分の計算で揉めることは少ないでしょう。揉める可能性が高いのは、葬儀費用を相続財産から支払った場合です。
葬儀費用が相続債務に該当するかがポイントです。
2.相続債務に葬儀費用は含まれるのか
遺留分を計算する際には、相続財産から相続債務を控除します。では、葬儀費用は相続債務に含まれるのでしょうか。
結論から言えば、遺留分の計算において葬儀費用は相続債務に含みません。葬儀費用は喪主の債務という考えになっています。
ですので、基本的には葬儀費用を支払っても、遺留分の計算に影響を与えることはないです。
注意点としては、相続税の計算では葬儀費用を相続債務に含みます。
遺留分と相続税では結論が違いますので、計算をする際はご注意ください。
3.葬儀費用が遺留分に影響を与えるケース
原則として、葬儀費用は遺留分の計算に影響を与えることはありません。
ですが、何事にも例外はあります。
- 遺言書で指定されている
- 相続人全員の同意がある
- 生前に葬儀会社等と契約を結んでいた
3‐1.遺言書で指定されている
遺言書で葬儀費用を相続財産から支払うように指定している場合です。
ただし、具体的に葬儀の規模や内容を指定していなければ、遺留分の計算で揉めやすくなります。
3‐2.相続人全員の同意がある
葬儀費用を相続財産から支払うことに、相続人全員が同意している場合です。
相続人全員が同意しているなら、遺留分の計算で揉めることもないと思います。
3‐3.生前に葬儀会社等と契約を結んでいた
生前に葬儀会社等と契約を結んでいる人もいます。一般的には、前もって料金を支払っていることが多いですが、相続財産から支払う契約を結んでいるケースもあります。
4.遺留分権利者を保護する必要がある
葬儀費用を遺留分の計算に含めないのは、遺留分権利者を保護する必要があるからです。
例えば、相続財産を長男にすべて相続させる遺言書があるとします。
*相続人は長男と次男の2人だけです。
相続財産を計算すると3,000万円でした。
次男の遺留分は4分の1なので、3,000万円×4分の1で750万円です。
したがって、次男は長男に対して750万円の遺留分侵害額請求ができます。
では、仮に葬儀費用を相続債務に含めるとします。
長男が葬儀を主宰して1,000万円使用しました。
3,000万円から1,000万円を控除すると2,000万円となります。
次男の遺留分は4分の1なので、2,000万円×4分の1で500万円です。
したがって、次男は長男に対して500万円の遺留分侵害額請求ができます。
長男が葬儀を主宰して葬儀費用を高額にすることにより、遺留分の侵害額を減少させることが可能になります。
*長男は喪主なので香典等を受け取ることができます。
相続債務に含めない | 相続債務に含める | |
---|---|---|
相続財産 | 3,000万円 | 3,000万円 |
葬儀費用 | 1,000万円 | 1,000万円 |
基礎財産 | 3,000万円 | 2,000万円 |
遺留分 4分の1 |
750万円 | 500万円 |
遺留分とは相続人の最低限の保障です。喪主が自由に調整できるようになってしまうと、遺留分制度の意味がなくなってしまいます。
葬儀費用で遺留分侵害額が左右されることがないように、遺留分の計算では含めないようになっています。
5.さいごに
基本的に葬儀費用は遺留分の計算に、影響を及ぼすことはありません。
遺留分を侵害されている相続人は、葬儀費用の額には関係なく侵害額請求をすることができます。
ただし、遺言書で指定されている場合や生前に葬儀会社と契約していた場合などは、相続債務に含めるので遺留分に影響があります。
遺留分の計算は複雑になりやすいので、計算をする際にはご注意ください。