遺留分の存在は知っていても、遺留分の計算方法を知っている人は少ないでしょう。
なぜなら、遺留分の計算方法は複雑であり、民法の条文を読んでも理解するのが難しいからです。
遺留分割合や遺留分額が計算できなければ、遺留分侵害額も計算できません。あるいは、侵害の事実に気付けないかもしれません。
今回の記事では、遺留分の計算について図や事例を用いて説明しているので、遺留分計算の参考にしてください。
目次
1.遺留分計算の基礎となる財産
まずは、遺留分を計算するための基礎財産を確認します。
遺留分の基礎財産は相続財産だけではなく、遺贈・死因贈与や生前贈与も含まれます。
以下は、民法の条文です。
上記の条文を、計算式にすると以下になります。
相続開始時の財産価額に生前贈与した財産価額を足して、合計額から相続債務を控除した額が基礎財産です。
1-1.相続開始時の財産には遺贈や死因贈与も含める
相続開始時の財産には、預貯金や不動産だけでなく、遺贈や死因贈与も含めます。
現金や預貯金は相続開始時の額
現金や預貯金に関しては、相続開始時の金額を加えてください。
預貯金口座を複数保有している人も多いので、忘れずに確認しておきましょう。
不動産の評価額は揉めやすい
相続財産に不動産が含まれていると、評価額で揉めやすくなります。
なぜかというと、遺留分計算では不動産を時価で評価しますが、当事者の主張する時価が一致しないからです。
当時者の主張が合わなければ、最終的には調停や訴訟で解決します。
関連記事を読む『遺留分は不動産評価の方法により金額が変わる』
遺贈や死因贈与も計算に含める
遺贈の受遺者(相手方)が相続人以外であっても、遺留分の基礎財産に含めます。
※受遺者が相続人の場合も含む。
死因贈与は遺贈と同じ扱いとして、遺留分の計算に含めるので気を付けてください。
関連記事を読む『【遺贈と遺留分】受遺者は侵害額を請求される可能性がある』
1-2.遺留分の計算には生前贈与も含めるが制限あり
遺留分の基礎財産には、生前贈与した財産の価額も含めます。
ただし、無制限に含めるわけではなく、受贈者と時期による制限があります。
- 相続人以外への生前贈与|1年以内
- 相続人への生前贈与 |10年以内
誰に対する生前贈与かで、遺留分の計算が変わります。
相続人以外への生前贈与は1年以内
相続人以外への生前贈与は、亡くなる前1年以内に限り遺留分の計算に含めます。
亡くなる直前に第3者に生前贈与しても、遺留分の対象になるので注意してください。
相続人への生前贈与(特別受益)は10年以内
相続に対する生前贈与に関しては、贈与が特別受益に該当すると遺留分の計算に含めます。
※法改正により10年以内の期間制限。
以下は、特別受益に該当する主な贈与です。
- 結婚後の生活資金としての贈与
*原則として結婚費用は除きます - 住宅資金の援助としての贈与
- 生活支援としての贈与
特別受益に該当するかの判断も難しいので、相続人同士で揉めやすいです。
関連記事を読む『生前贈与も遺留分の計算に含めるが時期により違いがある』
1-3.亡くなった人の債務を全額控除する
亡くなった人に債務(借金等)があった場合、遺留分の計算から控除します。
- 借金(銀行や消費者金融等)
- 医療費の未払金
- 税金の滞納分
例えば、借金が100万円、税金滞納が50万円であれば、150万円を遺留分の計算から控除します。
遺留分を計算する際は、マイナスの財産を忘れずに控除してください。
遺留分から控除できない費用
相続に関する費用であっても、亡くなった人の負債でなければ、遺留分の計算から除外できません。
- 相続税
- 相続手続費用
- 葬儀費用
上記は、亡くなった人の負債ではなく、相続人の費用です。
間違えて遺留分の計算から控除すると、正しい金額からズレてしまいます。
関連記事を読む『遺留分と葬儀費用に関係はあるのか|請求する人にとっては重要なこと』
2.相続人の遺留分割合を計算
次に、相続人の遺留分割合を計算します。
各相続人の遺留分割合は、以下の式で計算できます。
- 個別の遺留分割合
- 全体の遺留分割合×法定相続分の割合
全体の遺留分割合は、相続人の組合せで2つに分かれます。
- 直系尊属のみが相続人|3分の1
- 配偶者や子が相続人 |2分の1
直系尊属のみが相続人の場合だけ、全体の遺留分割合が3分の1。
一方、配偶者や子が相続人に含まれているなら、全体の遺留分割合は2分の1。
【事例1】
相続人が配偶者と子ども(2人)の場合。
法定相続分は配偶者が2分の1で、子どもが各4分の1。
- 配偶者|2分の1×2分の1=4分の1
- 子ども|2分の1×4分の1=8分の1
- 子ども|2分の1×4分の1=8分の1
子どもの人数が増えても、配偶者の遺留分割合は変わりません。
【事例2】
相続人が子ども(3人)の場合
法定相続分は各3分の1。
- 子ども|2分の1×3分の1=6分の1
- 子ども|2分の1×3分の1=6分の1
- 子ども|2分の1×3分の1=6分の1
子どもが何人であっても、子どもの遺留分は全員同じです。
各相続人の遺留分割合が分かったら、次は遺留分額を計算します。
関連記事を読む『遺留分の割合|9つの組み合わせを覚えておこう』
3.遺留分額は「基礎財産×遺留分割合」
続いて、各相続人の遺留分額を計算します。
- 相続人の遺留分額
- 基礎財産×遺留分割合
1章で計算した基礎財産に、2章で計算した遺留分割合を掛けると、各相続人の遺留分額が分かります。
【事例1】
基礎財産が6,000万円で、配偶者と子ども(2人)が相続人の場合。
- 配偶者|6,000万円×4分の1=1,500万円
- 子ども|6,000万円×8分の1=750万円
- 子ども|6,000万円×8分の1=750万円
上記が各相続人の遺留分額になります。
【事例2】
基礎財産が6,000万円で、子ども(3人)が相続人の場合。
- 子ども|6,000万円×6分の1=1,000万円
- 子ども|6,000万円×6分の1=1,000万円
- 子ども|6,000万円×6分の1=1,000万円
上記が各相続人の遺留分額になります。
各相続人の遺留分額が判明したら、取得財産や承継負債の加減をします。
4.相続人の遺留分額に財産や債務を加減
続いて、各相続人の遺留分額に、取得する財産や承継する債務を加減します。
相続人は遺留分額を全額請求できるわけではなく、侵害された額だけ請求できます。
以下は、民法の条文です。
上記の条文をまとめると、以下になります。
- 取得した遺贈と生前贈与の価額を控除
- 相続分に応じて取得すべき遺産額を控除
- 相続分に応じて承継する債務の額を加算
それぞれ説明していきます。
4-1.相続人が受けた遺贈および生前贈与を控除
相続人の遺留分額から、当該相続人が受けた遺贈および生前贈与(特別受益)の額を控除します。
遺留分額よりも多い財産を受けているなら、当該相続人に遺留分はありません。
例えば、遺留分額が1,000万円だったとしても、生前贈与で1,000万円を受け取っていれば、遺留分の侵害はありません。
遺贈および生前贈与を控除したら、相続により取得する財産額の計算に移ります。
4-2.相続人が相続分に応じて取得する遺産を控除
相続人が相続分に応じて取得する財産額を計算します。
相続人が生前贈与(特別受益)を受けていると、計算が複雑になります。
【事例1】
相続人が子ども(3人)、預貯金が2,500万円、預貯金から第3者へ1,000万円を遺贈。
法定相続分は各3分の1
2,500万円ー1,000万円=1,500万円
- 子ども|1,500万円×3分の1=500万円
- 子ども|1,500万円×3分の1=500万円
- 子ども|1,500万円×3分の1=500万円
相続人が取得する財産額は各500万円。
第3者へ遺贈される1,000万円は、相続人が取得する財産ではありません。
【事例2】
相続人が子ども(3人)、預貯金が2,500万円、長男に500万円を生前贈与。
預貯金に長男への生前贈与(特別受益)を足して計算します。
2,500万円+500万円=3,000万円
- 長男|3,000万円×3分の1ー500万円=500万円
- 二男|3,000万円×3分の1=1,000万円
- 三男|3,000万円×3分の1=1,000万円
長男は500万円、二男と三男は各1,000万円を取得します。
相続により取得する財産額を控除したら、相続人が承継する負債の計算に移ります。
4-3.相続人が承継する債務の額を加算
相続人が承継する債務の額を計算します。
相続人は亡くなった人の債務を、法定相続分の割合で承継します。
【事例1】
相続人が配偶者と子ども(2人)、借金が1,000万円。
- 配偶者|1,000万円×2分の1=500万円
- 子ども|1,000万円×4分の1=250万円
- 子ども|1,000万円×4分の1=250万円
上記の金額を、各相続人は承継します。
【事例2】
相続人が子ども(5人)、借金が1,000万円。
- 子ども|1,000万円×5分の1=200万円
- 子ども|1,000万円×5分の1=200万円
- 子ども|1,000万円×5分の1=200万円
- 子ども|1,000万円×5分の1=200万円
- 子ども|1,000万円×5分の1=200万円
上記の金額を、各相続人は承継します。
相続により承継する債務の額が分かったら、各相続人の遺留分額に加算します。
5.遺留分侵害額を事例を元に計算
最後に、遺留分侵害額を事例を元に計算します。
できる限り分かりやすくしていますが、遺留分侵害額の計算は複雑なのでご了承ください。
司法書士から一言端数がでないように設定金額を調整しています。
5-1.相続人以外に財産の一部を遺贈している場合
亡くなった人の相続人は子ども(2人)、相続財産は預貯金が1,000万円、第3者に3,000万円を遺贈。
- 遺留分の基礎財産
- 1,000万円+3,000万円=4,000万円
- 遺留分割合
- 2分の1×2分の1=4分の1
遺留分の基礎財産は4,000万円、遺留分割合は各4分の1です。
まずは、各相続人の遺留分額を計算します。
- 長男 |4,000万円×4分の1=1,000万円
- 二男 |4,000万円×4分の1=1,000万円
相続人の遺留分額は、各1,000万円です。
次に、相続により取得する財産を計算します。
預貯金1,000万円を法定相続分で取得します。
法定相続分は各2分の1です。
- 長男 |1,000万円×2分の1=500万円
- 二男 |1,000万円×2分の1=500万円
負債は無いので、遺留分額から取得財産額を控除します。
- 長男 |1,000万円ー500万円=500万円
- 二男 |1,000万円ー500万円=500万円
長男と次男の遺留分侵害額は、各500万円です。
長男と次男は第3者(遺贈の受遺者)に、それぞれ500万円を請求できます。
5-2.相続人の1人に生前贈与している場合
亡くなった人の相続人は子ども(2人)、相続財産は預貯金が1,000万円で負債が1,000万円、長男に3,000万円を生前贈与。
- 遺留分の基礎財産
- 1,000万円+3,000万円ー1,000万円=3,000万円
- 遺留分割合
- 2分の1×2分の1=4分の1
遺留分の基礎財産は3,000万円、遺留分割合は各4分の1です。
まずは、各相続人の遺留分額を計算します。
- 長男 |3,000万円×4分の1=750万円
- 二男 |3,000万円×4分の1=750万円
長男は生前贈与を受けているので、上記の金額から生前贈与の額を控除します。
- 長男 |750万円-3,000万円=-2,250万円
- 二男 |750万円
長男に遺留分はありません。
次に、相続により取得する財産を計算します。
預貯金1,000万円に長男への生前贈与3,000万円を加えます。
法定相続分は各2分の1です。
- 長男 |4,000万円×2分の1-3,000万円=-1,000万円
- 二男 |4,000万円×2分の1=2,000万円
長男は相続により取得する財産がないので、二男が預貯金1,000万円を取得します。
続いて、相続により承継する負債を計算します。
法定相続分は各2分の1です。
- 長男 |1,000万円×2分の1=500万円
- 二男 |1,000万円×2分の1=500万円
上記3つの計算をまとめると、次男の遺留分侵害額が算出できます。
750万円ー1,000万円+500万円=250万円
※遺留分額ー取得財産+承継負債
二男の遺留分侵害額は250万円です。
二男は長男に250万円を請求できます。
6.まとめ
今回の記事では「遺留分の計算」について説明しました。
遺留分の計算は、以下の順番で行います。
- 遺留分の基礎財産を計算
- 遺留分割合を計算
- 遺留分額を計算
- 取得財産と承継債務を加減
- 遺留分侵害額が判明
遺留分の基礎となる財産額を計算します。遺留分基礎財産に遺留分割合を掛けて遺留分額を求めます。
遺留分額に取得財産や承継債務を加減すると、遺留分侵害額が判明します。
遺留分の計算は非常に複雑なので、遺留分(遺留分侵害額の請求)に慣れた弁護士に相談してください。