亡くなった人の相続人が被保佐人なら、相続放棄の手続きに注意してください。
なぜなら、保佐人の同意が必要になるからです。
保佐人は重要な法律行為について同意権を有しているので、同意を得ずに相続放棄すると、取り消しの対象となります。
ただし、同意が利益相反行為に該当すると、臨時保佐人または保佐監督人の同意が必要です。
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1.相続放棄には保佐人の同意が必要
被保佐人(相続人)が相続放棄する場合、保佐人の同意が必要になります。
なぜなら、法律により重要な法律行為に関しては、同意権が付与されているからです。
1-1.重要な法律行為には同意権が付与されている
保佐人の同意を有する重要な法律行為には、相続放棄も含まれています。
以下は、民法の条文です。
相続放棄は相続権を失うという重要な法律行為なので、保佐人の同意を得る必要があります。
たとえ相続放棄の理由が借金だったとしても、保佐人の同意は省略できません。
同意権については、下記の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『民法13条1項(保佐人の同意が必要な重要な法律行為)』
1-2.同意を得ずにした相続放棄は取り消せる
被保佐人(本人)が保佐人の同意を得ずに相続放棄した場合、保佐人は相続放棄を取り消せます。
以下は、民法の条文です。
保佐人に黙って相続放棄していても、取り消せるので安心してください。
ちなみに、「取り消せる」であって、「取り消さなければならない」ではありません。相続放棄の判断に問題がなければ、追認して大丈夫です。
関連記事を読む『保佐人の取消権は対象行為が限定されている』
1-3.同意の代わりに家庭裁判所の許可を得る
被保佐人(本人)の判断に問題がなくても、保佐人が同意を与えないかもしれません。
そのような場合は、同意に代わり「家庭裁判所の許可」を得てください。
以下は、民法の条文です。
家庭裁判所の許可を得たうえで、相続放棄の手続きをすれば大丈夫です。
2.相続放棄の手続きは被保佐人(本人)がする
相続放棄の手続きは、被保佐人(本人)がします。
勘違いしやすいのですが、保佐人は同意するのであって、代理するわけではありません。
つまり、保佐人の同意以外は、一般的な相続放棄の手続きと同じです。
2-1.被保佐人が知った日から3ヶ月以内
相続の開始を知った日も被保佐人で判断します。
当然ですが、何もせずに3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされ相続放棄できません。
相続の開始を知った場合、速やかに保佐人に連絡して、相続または相続放棄の判断をしてください。
関連記事を読む『相続放棄の期間は3ヶ月以内|相続の開始を知った日が重要』
2-2.申述書に保佐人の同意書を添付する
家庭裁判所には相続放棄申述書だけでなく、保佐人の同意書も添付して提出します。
以下は、同意書の記載例です。
同意書
○○家庭裁判所御中
被保佐人○○が申述人として行う、被相続人○○に対する相続放棄の申述に同意します。
令和○年○月○日
住所
被保佐人○○保佐人 ○○ ㊞
誰に対する相続放棄が分かるように記載してください。
同意書の文言に決まりはないので、前もって提出先の家庭裁判所に確認した方が良いです。
2-3.登記事項証明書も添付書類となる
被保佐人が相続放棄の申述書を提出する場合、保佐人の同意書だけでなく登記事項証明書も添付書類となります。
なぜなら、保佐に関する事項は戸籍に記載されないからです。戸籍と同意書だけ添付しても、家庭裁判書は判断できません。
以下は、後見登記事項証明書の記載例です。
被保佐人の氏名や住所だけでなく、本籍も記載されているので、戸籍と一致するか確認できます。
相続放棄の準備をする際は、戸籍だけでなく登記事項証明書も取得してください。
3.保佐人が相続放棄を代理するケース
保佐人が家庭裁判から代理権を付与されていれば、保佐人も代理人として相続放棄の手続きができます。
ただし、代理権の内容に「相続の承認又は放棄」が含まれている場合です。
3-1.代理権の内容が「相続の承認又は放棄」
保佐人は特定の行為のみ代理権が付与されます。
したがって、代理権の内容に「相続の承認又は放棄」が含まれていなければ、相続放棄の代理はできません。
今から代理権付与の申立てをする場合は、代理行為目録にチェックを忘れずに入れてください。
ちなみに、代理権の内容も登記事項証明書を取得すれば確認できます。
3-2.相続放棄申述書の法定代理人欄に記載
保佐人が代理人として相続放棄する場合、申述書の記載に注意してください。
なぜなら、亡くなった人(被相続人)や申述人(被保佐人)だけでなく、法定代理人(保佐人)も記載する必要があるからです。
以下は、相続放棄申述書の一部。
間違えやすいのですが、申述人欄に記載するのは被保佐人の情報です。
一方、保佐人の情報は法定代理人の欄に記載します
あくまでも、相続放棄するのは被保佐人で、法定代理人が保佐人です。
3-3.登記事項証明書で代理権を証明する
保佐人が代理人として相続放棄する場合も、登記事項証明書を添付します。
なぜなら、登記事項証明書には代理権目録も添付されるからです。
- 登記事項証明書|保佐人の証明
- 代理権目録 |代理権の証明
相続放棄を代理するなら、登記事項証明書も忘れずに取得しておきましょう。
4.保佐人が相続放棄で利益相反
被保佐人が相続放棄する場合、保佐人は利益相反に注意してください。
なぜなら、保佐人の同意(代理)が利益相反行為に該当すると、保佐人は同意(代理)できないからです。
4-1.利益相反行為に該当するケースは2つ
相続放棄の同意が利益相反行為に該当するケースは2つあります。
- 被保佐人が先順位で保佐人が後順位
- 被保佐人と保佐人が同順位の相続人
それぞれ説明していきます。
被保佐人が先順位で保佐人が後順位
上記の相続順位は以下のようになります。
- 第1順位|不存在
- 第2順位|被保佐人
- 第3順位|保佐人
被保佐人(先順位相続人)の相続放棄に同意すると、保佐人(後順位相続人)に相続権が移ります。
利益相反行為に該当するかは外形で判断するので、相続放棄の理由は関係ありません。
被保佐人と保佐人が同順位の相続人
被保佐人と保佐人が共同相続人の場合、被保佐人の相続放棄に同意すると、保佐人の相続分が増えます。
被保佐人 | 保佐人 | |
---|---|---|
相続放棄前 | 2分の1 | 2分の1 |
相続放棄後 | ー | 1分の1 |
被保佐人が相続放棄する理由は関係無く、利益相反行為に該当します。
4-2.利益相反なら臨時保佐人の選任請求
相続放棄の同意が利益相反行為に該当するなら、保佐人は臨時保佐人の選任請求をしてください。
以下は、民法の条文です。
選任された臨時保佐人が、保佐人に代わって相続放棄の同意をします。
ちなみに、臨時保佐人は登記事項ではないので、選任審判書謄本等も申述書に添付する必要があります。
4-3.保佐監督人がいれば代わりに同意する
被保佐人の相続放棄が利益相反行為に該当しても、保佐監督人が選任されているなら、臨時保佐人は不要です。
以下は、民法の条文です。
保佐人と被保佐人の利益が相反する場合、保佐監督人が相続放棄の同意をします。
したがって、申述書には保佐監督人の同意書を添付してください。
4-4.誰が相続放棄に同意するのか図で整理
上記の図は、誰が相続放棄に同意するのかを表しています。
相続放棄が利益相反行為に該当しなければ、保佐人が同意します。
相続放棄が利益相反行為に該当して、かつ、保佐監督人が選任されていれば、保佐監督人が同意します。
相続放棄が利益相反行為に該当して、かつ、保佐監督人が選任されていなければ、臨時保佐人が同意します。
5.まとめ
今回の記事では「保佐人と相続放棄」について説明しました。
被保佐人が相続放棄する場合、保佐人の同意を得る必要があります。
保佐人は重要な法律行為(相続放棄含む)について、同意権を有しているからです。被保佐人が同意を得ずに相続放棄しても、保佐人は取り消せます。
被保佐人が相続放棄申述書を提出する場合、戸籍だけでなく登記事項証明書と同意書も添付書類です。
保佐人が代理権を有しているなら、法定代理人として相続放棄の手続きもできます。ただし、代理権の内容には注意してください。
被保佐人の相続放棄が利益相反行為に該当するなら、保佐人は同意できません。保佐監督人または臨時保佐人が代わりに同意します。
被保佐人が相続放棄するなら、今回の記事を確認しておいてください。