保佐人は相続放棄に対する同意で被保佐人の手続きを支援する

保佐人の相続放棄
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亡くなった人の相続人が被保佐人なら、相続放棄の手続きに注意してください。

なぜなら、保佐人の同意が必要になるからです。

保佐人は重要な法律行為について同意権を有しているので、同意を得ずに相続放棄すると、取り消しの対象となります。

ただし、同意が利益相反行為に該当すると、臨時保佐人または保佐監督人の同意が必要です。

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目次

1.相続放棄には保佐人の同意が必要

相続放棄の申述に保佐人の同意

被保佐人(相続人)が相続放棄する場合、保佐人の同意が必要になります。

なぜなら、法律により重要な法律行為に関しては、同意権が付与されているからです。

1-1.重要な法律行為には同意権が付与されている

保佐人の同意を有する重要な法律行為には、相続放棄も含まれています。

以下は、民法の条文です。

(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
(省略)
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
出典:e-Govウェブサイト(民法6号)

相続放棄は相続権を失うという重要な法律行為なので、保佐人の同意を得る必要があります。

たとえ相続放棄の理由が借金だったとしても、保佐人の同意は省略できません。

同意権については、下記の記事を参考にしてください。

1-2.同意を得ずにした相続放棄は取り消せる

被保佐人(本人)が保佐人の同意を得ずに相続放棄した場合、保佐人は相続放棄を取り消せます。

以下は、民法の条文です。

第十三条 
(省略)
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
出典:e-Govウェブサイト(民法13条4項)

保佐人に黙って相続放棄していても、取り消せるので安心してください。

ちなみに、「取り消せる」であって、「取り消さなければならない」ではありません。相続放棄の判断に問題がなければ、追認して大丈夫です。

1-3.同意の代わりに家庭裁判所の許可を得る

被保佐人(本人)の判断に問題がなくても、保佐人が同意を与えないかもしれません。

そのような場合は、同意に代わり「家庭裁判所の許可」を得てください。

以下は、民法の条文です。

第十三条 
(省略)
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
出典:e-Govウェブサイト(民法民法13条3項)

家庭裁判所の許可を得たうえで、相続放棄の手続きをすれば大丈夫です。

2.相続放棄の手続きは被保佐人(本人)がする

被保佐人が相続放棄の手続きをする

相続放棄の手続きは、被保佐人(本人)がします。

勘違いしやすいのですが、保佐人は同意するのであって、代理するわけではありません。

つまり、保佐人の同意以外は、一般的な相続放棄の手続きと同じです。

2-1.被保佐人が知った日から3ヶ月以内

相続の開始を知った日も被保佐人で判断します。

当然ですが、何もせずに3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされ相続放棄できません。

相続の開始を知った場合、速やかに保佐人に連絡して、相続または相続放棄の判断をしてください。

2-2.申述書に保佐人の同意書を添付する

家庭裁判所には相続放棄申述書だけでなく、保佐人の同意書も添付して提出します。

以下は、同意書の記載例です。

同意書

○○家庭裁判所御中

被保佐人○○が申述人として行う、被相続人○○に対する相続放棄の申述に同意します。

令和○年○月○日

住所

被保佐人○○保佐人 ○○ ㊞

誰に対する相続放棄が分かるように記載してください。

同意書の文言に決まりはないので、前もって提出先の家庭裁判所に確認した方が良いです。

2-3.登記事項証明書も添付書類となる

被保佐人が相続放棄の申述書を提出する場合、保佐人の同意書だけでなく登記事項証明書も添付書類となります。

なぜなら、保佐に関する事項は戸籍に記載されないからです。戸籍と同意書だけ添付しても、家庭裁判書は判断できません。

以下は、後見登記事項証明書の記載例です。

保佐人に関する登記事項証明書

被保佐人の氏名や住所だけでなく、本籍も記載されているので、戸籍と一致するか確認できます。

相続放棄の準備をする際は、戸籍だけでなく登記事項証明書も取得してください。

3.保佐人が相続放棄を代理するケース

保佐人が相続放棄の手続き

保佐人が家庭裁判から代理権を付与されていれば、保佐人も代理人として相続放棄の手続きができます。

ただし、代理権の内容に「相続の承認又は放棄」が含まれている場合です。

3-1.代理権の内容が「相続の承認又は放棄」

保佐人は特定の行為のみ代理権が付与されます。

したがって、代理権の内容に「相続の承認又は放棄」が含まれていなければ、相続放棄の代理はできません。

今から代理権付与の申立てをする場合は、代理行為目録にチェックを忘れずに入れてください。

ちなみに、代理権の内容も登記事項証明書を取得すれば確認できます。

3-2.相続放棄申述書の法定代理人欄に記載

保佐人が代理人として相続放棄する場合、申述書の記載に注意してください。

なぜなら、亡くなった人(被相続人)や申述人(被保佐人)だけでなく、法定代理人(保佐人)も記載する必要があるからです。

以下は、相続放棄申述書の一部。

相続放棄申述書の法定代理人欄に記入

間違えやすいのですが、申述人欄に記載するのは被保佐人の情報です。

一方、保佐人の情報は法定代理人の欄に記載します

あくまでも、相続放棄するのは被保佐人で、法定代理人が保佐人です。

3-3.登記事項証明書で代理権を証明する

保佐人が代理人として相続放棄する場合も、登記事項証明書を添付します。

なぜなら、登記事項証明書には代理権目録も添付されるからです。

  • 登記事項証明書|保佐人の証明
  • 代理権目録  |代理権の証明

相続放棄を代理するなら、登記事項証明書も忘れずに取得しておきましょう。

4.保佐人が相続放棄で利益相反

保佐人と被保佐人が相続放棄で利益相反

被保佐人が相続放棄する場合、保佐人は利益相反に注意してください。

なぜなら、保佐人の同意(代理)が利益相反行為に該当すると、保佐人は同意(代理)できないからです。

4-1.利益相反行為に該当するケースは2つ

相続放棄の同意が利益相反行為に該当するケースは2つあります。

  • 被保佐人が先順位で保佐人が後順位
  • 被保佐人と保佐人が同順位の相続人

それぞれ説明していきます。

被保佐人が先順位で保佐人が後順位

被保佐人が先順位相続人で保佐人が後順位相続人

上記の相続順位は以下のようになります。

  • 第1順位|不存在
  • 第2順位|被保佐人
  • 第3順位|保佐人

被保佐人(先順位相続人)の相続放棄に同意すると、保佐人(後順位相続人)に相続権が移ります。

利益相反行為に該当するかは外形で判断するので、相続放棄の理由は関係ありません。

被保佐人と保佐人が同順位の相続人

被保佐人と保佐人が共同相続人

被保佐人と保佐人が共同相続人の場合、被保佐人の相続放棄に同意すると、保佐人の相続分が増えます。

被保佐人保佐人
相続放棄前2分の12分の1
相続放棄後1分の1
被保佐人と保佐人の相続分

被保佐人が相続放棄する理由は関係無く、利益相反行為に該当します。

司法書士から一言保佐人も一緒に相続放棄する場合は利益相反行為に該当しません。

4-2.利益相反なら臨時保佐人の選任請求

相続放棄の同意が利益相反行為に該当するなら、保佐人は臨時保佐人の選任請求をしてください。

以下は、民法の条文です。

第八百七十六条の二 
(省略)
3 保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、保佐監督人がある場合は、この限りでない。
出典:e-Govウェブサイト(民法876条の2)

選任された臨時保佐人が、保佐人に代わって相続放棄の同意をします。

ちなみに、臨時保佐人は登記事項ではないので、選任審判書謄本等も申述書に添付する必要があります。

4-3.保佐監督人がいれば代わりに同意する

被保佐人の相続放棄が利益相反行為に該当しても、保佐監督人が選任されているなら、臨時保佐人は不要です。

以下は、民法の条文です。

第八百七十六条の二 
(省略)
3 保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、保佐監督人がある場合は、この限りでない。
出典:e-Govウェブサイト(民法876条の2)

保佐人と被保佐人の利益が相反する場合、保佐監督人が相続放棄の同意をします。

したがって、申述書には保佐監督人の同意書を添付してください。

4-4.誰が相続放棄に同意するのか図で整理

被保佐人の相続放棄に誰が同意するののか

上記の図は、誰が相続放棄に同意するのかを表しています。

STEP
保佐人が同意

相続放棄が利益相反行為に該当しなければ、保佐人が同意します。

STEP
保佐監督人が同意

相続放棄が利益相反行為に該当して、かつ、保佐監督人が選任されていれば、保佐監督人が同意します。

STEP
臨時保佐人が同意

相続放棄が利益相反行為に該当して、かつ、保佐監督人が選任されていなければ、臨時保佐人が同意します。

5.まとめ

今回の記事では「保佐人と相続放棄」について説明しました。

被保佐人が相続放棄する場合、保佐人の同意を得る必要があります。

保佐人は重要な法律行為(相続放棄含む)について、同意権を有しているからです。被保佐人が同意を得ずに相続放棄しても、保佐人は取り消せます。

被保佐人が相続放棄申述書を提出する場合、戸籍だけでなく登記事項証明書と同意書も添付書類です。

保佐人が代理権を有しているなら、法定代理人として相続放棄の手続きもできます。ただし、代理権の内容には注意してください。

被保佐人の相続放棄が利益相反行為に該当するなら、保佐人は同意できません。保佐監督人または臨時保佐人が代わりに同意します。

被保佐人が相続放棄するなら、今回の記事を確認しておいてください。

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