亡くなった人の相続人が被補助人なら、相続放棄の手続きに注意してください。
なぜなら、補助人に付与されている権利の内容によっては、同意や代理が関係するからです。
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同意権を付与されているなら、同意を得ずにした相続放棄は取消しの対象となります。
一方、代理権が付与されているなら、補助人が代理人として手続きをします。
今回の記事では、補助人が選任されている人の相続放棄について、3つのケースに分けて説明しています。あなたが該当するケースを確認しておいてください。
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1.補助人により相続放棄は3つに分かれる

亡くなった人の相続人が被補助人の場合、相続放棄の手続きには注意してください。
- 被補助人
-
補助開始の申立てにより補助人が選任されている人
なぜなら、補助人に付与されている権利の内容によって、以下の3つに分かれるからです。
- 補助人は関わらない
- 補助人の同意が必要
- 補助人が代理できる
後見人や保佐人の場合と違い、補助人が相続放棄に関わらないケースもあります。
一方、補助人に相続放棄に関する同意権や代理権が付与されていれば、後見人や保佐人の場合と同じく手続きに関わります。
どのケースに該当するかで、実行者や必要書類にも違いがあるので、しっかりと確認しておいてください。
次章からは、3つのケースをそれぞれ説明していきます。
2.補助人が相続放棄に関わらないケース

1つ目は、補助人が相続放棄に関わらないケースです。
補助人が選任されていても、付与されている権利が相続放棄と無関係であれば、補助人は手続きに関わりません。
- 権利内容|相続放棄と無関係
- 実行者 |被補助人(本人)
- 必要書類|一般的な書類
2-1.付与されるのは特定の法律行為のみ
補助人に付与される「同意権」や「代理権」は、特定の法律行為に限られています。
以下は、民法の条文です。
(補助人の同意を要する旨の審判等) 第十七条 家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。 (補助人に代理権を付与する旨の審判) 第八百七十六条の九 家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
したがって、付与された権利に相続放棄が含まれていなければ、補助人は手続きとは関係ありません。
例えば、以下の権利が付与されている場合です。
- 預貯金の管理
- 定期的な収入の管理
- 定期的な支出の管理
相続放棄に関する権利は付与されていないので、手続きは被補助人(本人)だけで行います。
2-2.被補助人(本人)が単独で手続きをする
被補助人(本人)が単独で手続きをする場合、以下の2点に注意してください。
- 本人が知った日から3ヶ月以内
- 相続放棄の撤回は認められない
本人が知った日から3ヶ月以内
相続の開始を知った日も被補助人(本人)で判断します。
補助人が選任されていても、相続放棄の期間は3ヶ月なので、速やかに相続または相続放棄の判断をしてください。
当然ですが、何もせずに3ヶ月経過すると、単純承認したとみなされ相続放棄できません。
関連記事を読む『相続放棄の期間は3ヶ月以内|相続の開始を知った日が重要』
相続放棄の撤回は認められない
相続人が被補助人であっても、相続放棄の撤回は認められません。
以下は、民法の条文です。
第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
後から財産が見つかっても撤回できないので、しっかりと確認しておく必要があります。
もし相続放棄の判断に迷われているなら、補助人に相談してみてください。同意権や代理権が付与されていなくても、相談するのは自由だからです。
関連記事を読む『相続放棄の撤回は認められない!事情に関わらず禁止されている』
2-3.必要書類は一般的な相続放棄と同じ
補助人に権利が付与されていない場合、必要な書類は一般的な相続放棄と同じです。
- 相続放棄申述書
- 収入印紙800円分
- 予納郵券(110円×5枚)
※家庭裁判所により違う - 相続を証明する戸籍等
- 被相続人の住民票
申述書は家庭裁判所の窓口で取得するか、ホームページからもダウンロードできます。
収入印紙800円分は全国共通ですが、予納郵券は提出先の家庭裁判所によって違うので、必ず確認しておいてください。
相続を証明する戸籍等は、被相続人と相続人の関係によって違うので、以下の記事を参考にして取得してください。
関連記事を読む『相続放棄には戸籍謄本が必要!誰がするかで枚数が違う』
3.相続放棄に補助人の同意が必要なケース

2つ目は、相続放棄に補助人の同意が必要なケースです。
補助人に相続放棄に関する同意権が付与されている場合、以下の点が重要になります。
- 権利内容|相続放棄に関する同意権
- 実行者 |被補助人(本人)
- 必要書類|同意書・登記事項証明書
- 取消し |同意を得ずに相続放棄すると取消し
- 許可 |同意の代わりに家庭裁判所の許可
3-1.同意権の内容が「相続の承認又は放棄」
補助人に付与される同意権は、民法13条1項に規定する行為の一部です。
したがって、付与された権利の内容に「相続承認又は放棄」が含まれている場合のみ、相続放棄に同意が必要になります。
以下は、民法の条文です。
第十七条 家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。 第十三条 (省略) 六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
補助人に付与されている権利は、登記事項証明書を取得すれば確認できます。
今から同意権付与の申立てをする場合は、同意行為目録にチェックを忘れずに入れてください。
関連記事を読む『【補助人の同意権】付与するには家庭裁判所に申立てが必要』
3-2.相続放棄の手続きは被補助人(本人)がする
補助人に同意権が付与されていても、相続放棄の手続き自体は被補助人(本人)がします。
つまり、補助人の同意以外は、一般的な相続放棄の手続きと同じです。
- 知った日から3ヶ月以内
- 相続を証明する戸籍等の収集
- 相続放棄申述書の作成
補助人は相続放棄に同意するだけなので、勘違いしないよう注意してください。
3-3.申述書に補助人の同意書を添付する
補助人の同意を得て相続放棄する場合、家庭裁判所には同意書も提出します。
以下は、同意書の記載例です。
同意書
○○家庭裁判所御中
被補助人○○が申述人として行う、被相続人○○に対する相続放棄の申述に同意します。
令和○年○月○日
住所
被補助人○○補助人 ○○ ㊞
同意書を作成する際は、誰に対する相続放棄なのか分かるように記載してください。
同意書の文言に決まりはありませんが、前もって提出先の家庭裁判所に確認した方が良いでしょう。
3-4.登記事項証明書で補助人の権利を証明
被補助人が相続放棄する場合、以下の書類を用意してください。
- 相続放棄申述書
- 収入印紙800円分
- 予納郵券(110円×5枚)
※家庭裁判所により違う - 相続を証明する戸籍等
- 被相続人の住民票
- 補助人の同意書
- 登記事項証明書
戸籍や補助人の同意書だけでなく、登記事項証明書も添付書類となります。
なぜなら、補助に関する事項は戸籍に記載されないからです。戸籍や同意書を添付しても、家庭裁判所は権利を確認できません。
以下は、後見登記事項証明書の記載例です。
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被補助人の氏名や住所だけでなく、本籍も記載されているので、戸籍と一致するか確認できます。
補助人に付与されている同意権の内容は、同意行為目録に記載されています。
※同意行為目録は登記事項証明書に添付。
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補助人の同意を得て相続放棄する場合は、登記事項証明書も取得しておいてください。
3-5.同意を得ずにした相続放棄は取り消せる
補助人に同意権が付与されているのに、被補助人(本人)が同意を得ずに手続きすると、補助人は相続放棄を取り消せます。
以下は、民法の条文です。
第十七条 (省略) 4 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
被補助人が間違って相続放棄しても、取消権の行使により財産を相続できます。
【事例】
被相続人|父親
相続人 |長男・二男(被補助人)
相続財産|預貯金(500万円)・負債(100万円)
二男は負債だけを放棄できると勘違いして、補助人の同意を得ずに相続放棄した。
補助人は相続放棄を取り消せるので、二男は相続財産を取得できます。
ちなみに、「取り消せる」であって、「取り消さなければならない」ではありません。相続放棄の判断に問題がなければ、取り消さなくて大丈夫です。
関連記事を読む『取消事由に該当すれば相続放棄も取消し可能【債権者は不可】』
3-6.同意の代わりに家庭裁判所の許可を得る
被補助人(本人)の相続放棄に問題がなくても、補助人が同意しないかもしれません。
そのような場合は、同意に代わり「家庭裁判所の許可」を得てください。
以下は、民法の条文です。
第十七条 (省略) 3 補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
家庭裁判所の許可が同意の代わりになるので、同意書ではなく許可審判書を添付します。
4.補助人が相続放棄を代理するケース

3つ目は、補助人が相続放棄を代理するケースです。
補助人に相続放棄に関する代理権が付与されている場合、以下の点が重要になります。
- 権利内容|相続放棄に関する代理権
- 実行者 |補助人
- 必要書類|登記事項証明書
4-1.代理権の内容が「相続の承認又は放棄」
補助人に付与される代理権は、特定の法律行為のみです。
したがって、代理権の内容に「相続の承認又は放棄」が含まれていなければ、代理人として手続きはできません。被補助人(本人)が単独で手続きをします。
以下は、民法の条文です。
(補助人に代理権を付与する旨の審判) 第八百七十六条の九 家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
付与されている代理権の内容は、登記事項証明書を取得すれば確認できます。
今から代理権付与の申立てをする場合は、代理行為目録にチェックを忘れずに入れてください。
関連記事を読む『補助人に代理権を付与するには要件が2つある』
4-2.補助人は申述書の法定代理人欄に記載
補助人が代理人として手続きする場合、申述書の記載に注意してください。
なぜなら、被相続人や相続人(被補助人)だけでなく、補助人も記載する必要があるからです。
以下は、相続放棄申述書の一部。
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補助人の住所や氏名は、法定代理人等の欄に記載します。
- 申述人 |被補助人(本人)
- 法定代理人等|補助人
- 被相続人 |亡くなった人
申述人欄に記載するのは、被補助人(本人)です。間違えて補助人を書かないよう注意してください。
4-3.登記事項証明書で代理権の内容を証明
補助人が代理人として相続放棄する場合、登記事項証明書を提出すれば代理権の内容も証明できます。
なぜなら、登記事項証明書には代理行為目録も添付されるからです。
- 登記事項証明書|補助人の証明
- 代理行為目録 |代理権の証明
以下は、代理行為目録の記載例です。
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代理行為目録に「相続の承認・放棄」が記載されていれば、補助人は相続放棄を代理できます。
4-4.被補助人(本人)も手続きはできる
補助人に相続放棄に関する代理権が付与されていても、本人の権利は制限されていません。
したがって、被補助人(本人)も手続きは可能です。
例えば、何らかの事情で補助人が手続きできなくても、被補助人(本人)が相続放棄の手続きをすれば問題ありません。
補助人に代理権が付与されていても、被補助人の権利は制限されていないので、勘違いしないように注意してください。
5.補助人が相続放棄で利益相反

被補助人が相続放棄する場合、補助人は利益相反に注意してください。
なぜなら、補助人の同意・代理が利益相反行為に該当すると、補助人は相続放棄に関われないからです。
5-1.利益相反行為に該当するケースは2つ
相続放棄の同意・代理が利益相反行為に該当するケースは2つあります。
- 被補助人が先順位で補助人が後順位
- 被補助人と補助人が同順位の相続人
それぞれ説明していきます。
被補助人が先順位で補助人が後順位

上記の相続順位は以下のようになります。
- 第1順位|不存在
- 第2順位|被補助人
- 第3順位|補助人
被補助人(先順位相続人)の相続放棄に同意・代理すると、補助人(後順位相続人)に相続権が移ります。
利益相反行為に該当するかは外形で判断するので、相続放棄の理由は関係ありません。
被補助人と補助人が同順位の相続人

被補助人と補助人が共同相続人の場合、被補助人の相続放棄に同意・代理すると、保佐人の相続分が増えます。
被補助人 | 補助人 | |
---|---|---|
相続放棄前 | 2分の1 | 2分の1 |
相続放棄後 | ー | 1分の1 |
被補助人が相続放棄する理由は関係無く、利益相反行為に該当します。
5-2.利益相反なら臨時補助人の選任請求
相続放棄の同意・代理が利益相反行為に該当するなら、補助人は臨時補助人の選任請求をしてください。
以下は、民法の条文です。
第八百七十六条の七 (省略) 3 補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については、補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、補助監督人がある場合は、この限りでない。
選任された臨時補助人が、補助人に代わって相続放棄の同意・代理をします。
ちなみに、臨時補助人は登記事項ではないので、選任審判書謄本等も申述書に添付する必要があります。
5-3.補助監督人が代わりに同意・代理する
被補助人の相続放棄が利益相反行為に該当しても、補助監督人が選任されているなら、臨時補助人は不要です。
以下は、民法の条文です。
第八百七十六条の七 (省略) 3 補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については、補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、補助監督人がある場合は、この限りでない。
補助人と被補助人の利益が相反する場合、補助監督人が相続放棄の同意・代理をします。
補助監督人が同意する場合は同意書の添付、代理する場合は法定代理人欄に補助監督人を記載してください。
5-4.誰が相続放棄に同意・代理するのか図で整理

上記の図は、誰が相続放棄に同意・代理するのかを表しています。
相続放棄が利益相反行為に該当しなければ、補助人が同意・代理します。
相続放棄が利益相反行為に該当して、かつ、補助監督人が選任されていれば、補助監督人が同意・代理します。
相続放棄が利益相反行為に該当して、かつ、補助監督人が選任されていなければ、臨時補助人が同意・代理します。
補助人と被補助人が利益相反に該当する場合、誰が同意・代理するのか確認しておいてください。
6.相続放棄と補助・保佐・後見の違い
最後に、相続放棄と補助・保佐・後見の違いについて説明します。
同じ法定後見ですが、それぞれ関わり方が違うので注意してください。
補助 | 保佐 | 後見 | |
---|---|---|---|
関わらない | 〇 | ー | ー |
同意権 | △ | 〇 | ー |
代理権 | △ | △ | 〇 |
原則として、補助人は関わりません。ただし、付与された権利の内容によっては関わります。
保佐人は重要な法律行為(相続放棄含む)について同意権を有しているので、常に同意が必要となります。また、代理権を付与されていれば、本人に代わって手続きができます。
後見人は代理権を有しているので、本人に代わって相続放棄の手続きをします。
関連記事を読む『【成年後見人による相続放棄】本人の代理人として手続きをする』
関連記事を読む『保佐人は相続放棄に対する同意で被保佐人の手続きを支援する』
7.まとめ
今回の記事では「補助人と相続放棄」について説明しました。
亡くなった人の相続人が被補助人の場合、相続放棄の手続きは3つに分かれます。
- 補助人は関わらない
- 補助人の同意が必要
- 補助人が代理できる
補助人に権利が付与されていなければ、相続放棄には関わりません。
一方、同意権が付与されていれば、補助人の同意を得る必要があります。同意を得ずに相続放棄すると、取り消しが可能です。
同意を得たうえで手続きする場合は、申述書や戸籍だけでなく、同意書と登記事項証明書も添付書類となります。
補助人に代理権が付与されていれば、法定代理人として相続放棄の手続きが可能です。申述書には補助人の住所・氏名・電話番号も記載するので、作成する際は注意してください。
被補助人の相続放棄が利益相反行為に該当するなら、補助人は同意・代理できません。補助監督人または臨時補助人が代わりに同意・代理します。
被補助人が相続放棄するなら、今回の記事をしっかりと確認しておいてください。