限定承認による弁済手続きが終了した後に、債務が見つかる(債権者が現れる)可能性はあります。
支払いを請求された場合、残余財産の有無で対応が違います。
- 残余財産がある→弁済義務がある
- 残余財産がない→弁済義務はない
ただし、いつまで残余財産で対応するのかについては、明確な答えがありません。
今回の記事では、限定承認した後の債務について説明しているので、疑問を解消する参考にしてください。
1.限定承認した後は債務の弁済手続き
家庭裁判所に限定承認の申立てが受理されると、限定承認者(相続財産清算人)は債務の弁済手続きをする必要があります。
家庭裁判所ではなく限定承認者がする手続きなので、勘違いしないように注意してください。
1-1.官報で債権者に対する申出の催告
限定承認者(相続財産清算人)は、官報で相続債権者に対する申出の催告をします。
官報掲載の内容は主に3つあります。
- 限定承認した旨
- 債権申出の催告
- 申出をしないと除斥
債権の申出期間内に申出をしなければ、弁済手続きから除斥されます。
ただし、知れている(判明している)債権者は除斥できないので、弁済する際は注意してください。
限定承認の官報公告に関しては、以下の記事を参考にしてください。
関連記事を読む『限定承認には官報公告が必要なので手順を確認しておこう』
1-2.申出期間経過後に債務の支払い
官報に掲載された申出期間が経過したら、債権者に対する弁済手続きをします。
プラスの財産がマイナスの財産よりも多ければ、債務を支払うだけです。
一方、マイナスの財産がプラスの財産よりも多ければ、按分計算して債務を支払います。
※債権額の割合で弁済する。
以下は、弁済手続き終了後の状態です。
- プラスの財産が多い →残余財産がある
- マイナスの財産が多い→残余財産はない
今回の記事では、残余財産の有無が重要になるので、覚えておいてください。
1-3.期間内に申出をしなくても債権は残る

官報に記載された期間内に、債権の申出をしなければ、弁済手続きからは除斥されます。
ただし、申出をしなくても、債権は消滅しません。
「申出期間内に申出がない」から「債権は存在しない」と勘違いする人もいますが、弁済手続きから除斥されるだけです。
弁済手続き終了後に相続の発生に気付いて、債務を請求してくる可能性はあります。
2.限定承認(弁済手続)した後に債務を請求
限定承認による弁済手続き終了後に、債権者が現れ債務を請求される場合もあります。
ただし、無制限に支払う必要はなく、残余財産の範囲で対応するだけです。
以下は、民法の条文です。
(公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者) 第九百三十五条 第九百二十七条第一項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。
- 残余財産があれば弁済義務あり
- 残余財産がなければ弁済義務なし
それぞれ説明していきます。
2-1.残余財産があれば弁済義務あり

弁済手続き終了後に財産が残っていれば、残余財産の範囲で弁済義務があります。
【事例1】
残余財産|100万円
請求金額|50万円
申出期間経過後に債権者が現れ、50万円を請求された場合、残余財産から50万円を支払います。
【事例2】
残余財産|100万円
請求金額|200万円
申出期間経過後に債権者が現れ、200万円を請求された場合、残余財産から100万円を支払います。
債権者は残余財産についてのみ権利を行使できるので、100万までしか弁済義務はありません。
新たに見つかった負債がいくらであっても、残余財産の範囲でしか弁済する義務はないです。
2-2.残余財産がなければ弁済義務なし

弁済手続き終了後に財産が残っていなければ、弁済義務はないです。
【事例】
残余財産|0円
請求金額|50万円
申出期間経過後に債権者が現れ、50万円を請求されても、残余財産は無いので弁済義務はありません。
限定承認はプラスの財産を限度に、マイナスの財産を負担する相続なので、残余財産がなければ負債を支払う必要もないです。
3.限定承認した後いつまで債務を負担するのか

限定承認後いつまで弁済義務を負うかは、複数の考えがあり明確な答えはありません。
- 債権が時効により消滅するまで
- 残余財産と固有財産が識別不能になるまで
- 残余財産の処分が終わるまで
それぞれの考えに一理ありますが、問題点も残っています。
3-1.債権が時効により消滅するまで
1つ目の考えは、債権が時効により消滅するまで弁済義務を負うです。
法律上、申出期間内に申出をしなかった債権者が、いつまで請求できるかを定めた条文はありません。
もし、期限に制限を付けたいなら、条文に定めを設けるはずです。
条文に定めがない以上、債権が時効により消滅するまでは、残余財産の範囲で弁済義務を負います。
3-2.残余財産と固有財産が識別不能になるまで
2つ目の考えは、残余財産と固有財産が混ざって識別不能になるまで弁済義務を負うです。
債権者は固有財産に対して権利を行使できません。
したがって、残余財産と固有財産が混ざって区別が付かなくなれば、権利も行使できなくなるという考えです。
つまり、残余財産と固有財産の区別が付く間は、債権者に対する弁済義務を負います。
3-3.残余財産の処分が終わるまで
3つ目の考えは、残余財産の処分が終わるまで弁済義務を負うです。
債権者が権利行使できるのは残余財産なので、処分すれば権利行使の対象がなくなります。
例えば、弁済手続き終了後に建物が残っていても、処分(売却等)すれば弁済義務は負わないという考えです。
つまり、残余財産が手元に残っている間は、債権者に対する弁済義務を負います。
4.弁済手続き終了後に記録を残しておく
限定承認による弁済手続き終了後に、債権者が現れる可能性はあります。
したがって、残余財産があるなら、記録(目録)を残しておきましょう。
- 相続財産の内容
- 弁済相手と支払った金額
- 残余財産の内容
いくら残っているか分からなければ、債権者の請求に対して、いくら払えば良いのかも分からないからです。
ちなみに、残余財産の範囲を証明するのは、請求する側(債権者)ではなく、請求される側(相続人)になります。
5.まとめ
今回の記事では「限定承認後の債務」について説明しました。
限定承認による弁済手続き終了後に、債権者が現れる可能性はあります。
申出期間内に申出をしなくても、債権は消滅しないので、後から請求する人もいます。
ただし、請求の対象は残余財産のみです。
- 残余財産がある|弁済義務あり
- 残余財産がない|弁済義務なし
いつまで弁済義務があるかは、複数の考えがあり、明確な答えはありません。
したがって、弁済手続き終了後に債権者が現れる可能性を考慮して、残余財産の目録を作成しておきましょう。